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「ドーナツを穴だけ残して食べるには?」【『ドーナツホール』と『エブエブ』から】
「ドーナツを穴だけ残して食べるには?」という、有名な命題があります。
ハチ『ドーナツホール』
ハチの『ドーナツホール』は、大切な人の記憶をなくした主人公が、“あなた”の存在の証拠を追い求め、最後の最後に名前を思い出す、そんなストーリーの楽曲です。
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ドーナツの穴みたいにさ 穴を穴だけ切り取れないように
あなたが本当にあること 決して証明できはしないんだな
この楽曲では、記憶の中にいる“あなた”を、ドーナツの穴に重ねています。
記憶の中にいる“あなた”の存在を裏付けるものは、“あなたを思い出せない私”しかないのです。それは果たして“あなた”の存在証明となり得るのでしょうか。
この胸に空いた 穴が今
あなたを確かめるただ一つの証明
主人公は気付きます。あなたを思い出せず、心にぽっかりと空いたこの穴の存在こそが、“確かにあなたは存在していた”という証明になるのです。
“ドーナツの穴”は、ドーナツの存在証明になるのです。
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
今年3月、私は映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を鑑賞しました。
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同作は、第95回アカデミー賞で7部門を受賞しました。“マルチバース”という複雑な題材を取り扱いつつも、伝えたいメッセージは、シンプルで、ポジティブで、何より優しいものでした。
さて、『エブエブ』には、虚無、あるいは空洞の象徴としてベーグルが登場します。“虚無”を“ベーグルの穴”に重ねているのです。
また、ベーグルと対をなす存在としてギョロ目が登場します。“実存“ を“穴を埋める黒目”に重ねているのです。
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“実存”は単独では存在できません。中心に“虚無”があることで、“実存”は存在し、可視化されるのです。
“ベーグルの穴“もまた、ベーグルの存在証明になるのです。
「ドーナツを穴だけ残して食べるには?」
ドーナツを穴だけ残して食べることは、できないと思います。
ドーナツは、“ドーナツの穴”があるからこそ存在し、可視化されます。
“ドーナツの穴”が残っている以上は、そこにドーナツも残っているのではないでしょうか。
やや早めの夕食のあと、オールドファッションを頬張りながら、私はこんなことを考えたのでした。