私の家 #63
物心ついたころには築30年と言われる家に住んでいて、きしむ急な階段を2段飛ばしで勢いよく登って自分の部屋に駆け込んでいた。
机の脇には窓があり、そこをあけると瓦の屋根で、休日はそこに布団を干すのが日課。
屋根を伝って右に行くと、秋には実のなる柿がとれ、左に行くと弟の部屋の前を通り、さらに隣の祖父母の家の屋根に上ると、田んぼと山がどこまでも見える。
私はそんな景色が好きで、そのぼろ家を結構気に入っていた。
お風呂が薪をくべて沸かすシステムでも、壁がばばくさい土壁でも、トイレが形だけ様式便器を置いたぼっとんでも。
住めればよかったし、幸せだった。
だから、マイホーム願望はなく、むしろ「楽しそうじゃん」と楽観的に転勤族の妻になった。
そんな私が、今家を買おうとしている。
正確には、契約が済んで、あとは審査が通るかどうか。
もう、むしろ、家族の方向性的には買った。
かってしまったのだ。組めるローンギリギリくらいで。
新築建売マイホーム。
住宅の広告の仕事をしていたときも、全く買うビジョンが見えなかった「家を買う。」という決断を、私は家族としたのだ。
ほぼ精神的に決めた日、私は商談の席で飲みまくったコーヒーのせいか、全く眠れなかった。
家具をどう配置するか、何を買い替えるか、その予算は、むしろ、家計は……。
考えれば考えるほど頭が冴えて、眠れなかった。
隣で生後三か月の赤ちゃんはぐっすり寝ているというのに。
ローンを借りる旦那もすっかり熟睡しているのに。
思えば、今まで家を買わないからこその自由があった。
ちょっと工夫すれば旅行に行けたし、高知にもほぼ毎年帰れた。
それが当たり前だった。
でも、家族は5人に増え、長男が3歳を過ぎると飛行機代はグンと高くなった。
思い切って貯金を0にして、背伸びして買った車。
産後に取ってもらった育児休暇で旦那の手取りは減り、私もほぼ稼働ができなくて、家に全くお金がないとき、旦那は決断したのだ。
すごいな。
私は旦那を改めて尊敬した。と同時に、私も頑張らねばとかなり気が引き締まった。
ローン返済額は決まった。あとは苦手な節約を、がんばり、私も仕事をして娯楽の幅を広げるだけ。
不安は、覚悟にも変わるものなんだ。35歳でも初めての心境になれるもんなんだ。
とにかく、今日も生協には頼りながら、自炊を頑張ります!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?