地図にない島 #2 誘い
「前にきみと会ってから、ニンゲン時間でどれくらい経っているのかね?」
「20年以上だな」
正確には、23年だ。
ぼくには、ネプラの姿が見えなくなって。
声も聞こえなくなり。
存在を認知することができなくなった。
そして、忘れた。
さっきまで、ずっと。
陳腐なファンタジーと同じ。
大人になると見えなくなるっていう。
......いやいや。
そうじゃない。
おじいちゃんが、いなくなったから。
だから、見えなくなって聞こえなくなった。
ぼくはもともと、おじいちゃんのおかげで、彼と...彼らと。
意思疎通ができていたのだから。
…ん?
今、見えて聞こえているのは、なぜだ?
「コージローが来たのだよ」
ぼくの心の声は、ほとんど、筒抜けだ。
「…おじいちゃんが?」
「他にコージローというニンゲンに知り合いでも?」
「いや、そうじゃないけど...へえ......そうなんだ...」
亡くなった人は、お盆に帰省するそうだ。
今は5月だけどな。
そんな。
まるで、外国に長期滞在してた人が帰ってきたかのように。
おじいちゃん。
くそ、うらやましい。
ぼくは、つらすぎて、思い出さないようにして。
全部、おとぎ話だったことにして。
なかったことにして。
なのにそんな、ふらっと立ち寄ったみたいに言われても....。
ネプラは飄々と、どこを見てるのかわからない視線を、あちこちに向けている。
そして、思いがけないことを言った。
「コージローは、我が主(あるじ)に、預け物をしていたのだ。
きみへ譲る品を、一つ。
その受け渡しを、そろそろ頼むと」
「ぼくに譲る物?」
「そうだ。我が主へ、コージローからの最後の依頼品だ」
ネプラの主人。
年齢も性別もわからない、“普段の見た目”は美女の細工師、エクウ。
「今夜、道を開く。我が主が直々に、きみへ渡すそうだ」
「えっ....島へ行ってもいいのか?」
ネプラの表情はさっぱり見とれないのだが。
今は、はっきりわかった。
そのポカンとした様子は、正直。
ギャグマンガのようだ。
「....わかっていると思うがアキラ。無意味な問いを、主の前で口に出すのは禁止だ」
ああ、そうだった。
当たり前の線引きを彼ら基準にしなくては。
あの島へ、また、行けるなら。
まさか....おじいちゃんに会えたり...
いや、それはない。
つづく
文章/川口緋呂@神龍画家
イラスト/絵師A
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