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【レポート】「取手アートプロジェクト」の現在地(アートプロジェクトラボ会vol.2)

ノマドプロダクションとEDIT LOCAL LABORATORYのメンバーに限定して、最新の現場の状況をシェアしながら意見交換などを行う「アートプロジェクトラボ会」。第2弾は、茨城県取手市で展開されている「取手アートプロジェクト(TAP)」を取り上げました。

メンバーの橋本が3月にツアー形式で視察させていただいた様子と、後日オンラインで実施したヒアリングを通して得た所感をレポートでもお伝えします。

TAPの概要と近年の印象

TAP=Toride Art Projectは、1999年より市民と取手市、東京芸術大学の三者が共同で展開しているアートプロジェクト。長年の活動の中で、プロジェクトのスタイルや運営体制は変化を続けており、公式サイト「TAPのこと」にあるように、フェスティバル期:現代美術の公募展とオープンスタジオ(1999-2009)、通年プログラム:コアプログラムとベースプログラム(2010-現在)、持続可能性の実践期:藝大食堂始動、たいけん美じゅつ場スタート(2017-現在)と整理されています。

橋本がよく現場を訪れていたのは、多くのアートマネージャーの輩出につながったTAP塾(2004-2006年)などが行われていたフェスティバル期の中盤から終盤。2010年の通年プログラム化以降は、コアプログラムとなった「アートのある団地」「半農半芸」のお披露目や報告的なイベントへの参加、ウェブサイト・ニュースレター等を通した情報を通して接するのみとなっていました。

北澤潤さんとの《サンセルフホテル》など、いわゆるハレの日が巧みに設定された、よく知られているプログラムもありましたが、他にどのようなことが行われているのか。継続的に運営されている拠点や関わっている人の様子がいまどうなっているのかが、外からではどうしても分かりにくい。地域に根ざした展開を試みる現場の宿命ですが、多くの同業者やアートプロジェクトファンとっても同様の印象だったのではないかと思います。

北澤潤《サンセルフホテル》

郊外の駅ビルのポテンシャルを感じる「たいけん美じゅつ場(VIVA)」

3月にお邪魔した現場の様子を拠点ごとに、簡単にご紹介します。まずはアトレ取手4階の「たいけん美じゅつ場(VIVA)」。駅ビルということで改札向かいの入口からエスカレーターを昇るとすぐの1フロアに、フリースペースを備えつつ、誰もが利用可能なアートセンター的な空間が広がります。

主要な施設/機能

  • 市営貸しギャラリー「とりでアートギャラリー」

  • 東京藝術大学美術館所有作品をメインに展示する公開型作品収蔵庫「東京藝大オープンアーカイブ」

  • 旅行やアートの書籍が閲覧可能なJR東日本「大人の休日倶楽部 ライブラリー」

  • 目的に応じて使用可能な「ラーニングルーム」「工作室」

  • TAPの運営スタッフが常駐するガラス張りの事務所「プロジェクトルーム with TAP」

たいけん美じゅつ場(VIVA)のフリースペース

そしてプログラムの核となるのが、VIVAを拠点にアートと人、人と人をつなぐコミュニケーションを育み、地域や社会の中に新しい価値観や文化を生み出す活動を行うアート・コミュニケータ「トリばァ」。東京都美術館 × 東京藝術大学「とびらプロジェクト」で知られるようになったアートコミュニケータのあり方を参考に、公募で集まった人々が最大3年にわたってプレーヤーとして主体的に学び、活動します。

多様な刺激のある居場所として、新しい活動を生み出す場としてはもちろん、TAPが既に取り組んでいる活動を発信したり、新たに繋いでいくことのできる場として非常にポテンシャルを感じることができました。

その理由は、上野駅から40分の取手駅直結という立地で通勤・通学を中心とする地域住人はもちろん、地域外からもアクセスが良いこと。フリースペースを含む多様な用途があり間口が広いこと。居心地の良い空間がきちんとデザインされていること。共同ディレクター(五十殿彩子さん、森純平さん)を置き運営スタッフがプロジェクトルームに常駐(木曜休)、トリばァというプレーヤーもいるということ。産官学連携事業として、東京藝術大学・JR東日本・取手市・株式会社アトレそれぞれの役割が施設/機能に落とし込まれていること。などなど。

運営資金をアトレが負担するなど持続性が担保されつつ、場のポテンシャルを生かしながら3年の活動後にも地域での活躍が期待される「トリばァ」と共にTAPが地域やアーティストとの関わりも生み出していくー。そんな展開が期待できそうです。

なお、VIVAの概要と現場の様子は3/27に開催されたVIVAフォーラムのアーカイブ映像にコンパクトにまとめられています(16:30頃〜)。

食堂とヤギが地域とのつながりを生み出す「藝大食堂」「ヤギの目」

続いて、取手駅からバスで15分に位置する東京藝術大学取手キャンパス。藝大の美術学部先端芸術表現科などの拠点となっており、敷地内にある福利厚生施設の運営を2017年度下半期からTAPが運営。現在のTAP本部機能も同施設内に置いています。その象徴となるプロジェクトが、いわゆる学食機能をTAPなりに深めている「藝大食堂」です。

アーティストの岩間賢さんをディレクターとして、「半農半芸」で試みてきたコンセプトを引き継ぎ、食の提供と共に学生はもちろん地域の人の居場所や活動の場としての運営をしています。食材には由来のわかるものを使用し「つくれるものはつくる」スタイルでメニューを提供していたり、若い芸術家を応援する仕組みとして価格を利用者に決めてもらっていたり、ショーケースのギャラリー化をするなど展示やイベントも行っています。

藝大食堂
「利用者が決めた価格」の支払い用封筒

また、食堂と校舎の側では2頭のヤギが飼われていました。これは小沢剛研究室とTAPの共同プロジェクト「ヤギの目」として2020年12月に開始されたものです。屋根も壁もない「透明なアーツセンター」がうたわれていて、ヤギがいること自体が多様な人の手による文化・分野の交わる場の醸成につながるのではないか、実践を通して検証するという大真面目な目的があります。

そのような能書きはさておき、学生教員有志・地域住民有志メンバーが日々の世話をしながら、飼育場の小屋や柵を学内に自生する竹などでつくる「雑木部」、雑木林を整備して畑の作物を藝大食堂にも提供する「畑部」、糞を紙や絵具として利用する「ヤギの糞部」などの活動が生まれているそうです。

ヤギの目

春休み中ということで、残念ながら実際の藝大食堂は体験できませんでしたが、ヤギもいる藝大の雰囲気、雑木林の整備をする地域の方々の様子を拝見することができました。なお、コロナ禍で大学への入構が厳しく制限されていた時期もあったそうですが、学校関係者ではなくともボランティアとして活動に携わる方は可という規定もできたそうで、TAPとしては影響を受けつつも何とか活動できる状態だそうです。

活動の場を開墾していく野外環境整備は地域のお父さんたちが牽引

2つのコアプログラム拠点のいま「TAKASU HOUSE」「いこいーの+Tappino」

かつてお邪魔したことのある、「半農半芸」の拠点「TAKASU HOUSE」と「アートのある団地」の拠点「いこいーの+Tappino」にも伺いました。

TAKASU HOUSE」は2013年から、TAP本部機能も兼ねて運営されていましたが、2017年に「藝大食堂」が始まってからはパートナーアーティストが管理人を兼ねる形での運営に移行。事務局が主導して日々の活動やイベントをしかけていくというよりも、アーティストに創作の場を提供しつつ、高須地域の方々が主体的に参加できる活動を増やすという形をとっているそうです。

TAKASU HOUSE

いこいーの+Tappino」は、取手駅にも近い取手井野団地内「井野ショッピングセンター」の1室で2011年から運営されています。深澤孝史「とくいの銀行」、宮田篤+笹萌恵「リカちゃんハウスちゃん」が継続的に展開されていますが、イベントごとが少なくなったため市の臨時職員が中心となるコミュニティカフェとしての運営が主になっているそうです(取手市高齢福祉課との連携)。

いこいーの+Tappino

多様な郊外型スタジオが点在「井野アーティストヴィレッジ」「スタジオ航大」「NULL NULL STUDIO」ほか

アーティストのスタジオ拠点もご案内いただきました。「井野アーティストヴィレッジ」は、東京藝術大学と取手市が連携し、UR都市機構の協力により2007年オープン。「いこいーの+Tappino」と同じ取手井野団地の一角を改装した、7区画の共同スタジオで、藝大とゆかりのある方がそれぞれシェアをして借りる形が多いようです。

井野アーティストヴィレッジ

スタジオ航大」は元・工場を改装した共同アトリエで、20人以上が制作活動を行っています。民間オーナーの好意により提供されている物件で、広くて天井の高いスペース、外光がよく入る空間などそれぞれに求める環境を確保されている方が多い印象でした。取手に縁のある方はもちろん、上京を機にこの拠点を選んだ方などもいらっしゃいました。

スタジオ航大のD棟入口。A~E棟までがある
今井恵さんのスタジオスペース

「井野アーティストヴィレッジ」「スタジオ航大」とも、コロナ禍となるまではオープンスタジオを積極的に行うなど、制作だけでなく公開・発信に関わる活動にも取り組んでいます。

NULL NULL STUDIO」は、君島英樹さんと諏訪部佐代子さんのユニットによるスタジオで2021年オープン。留学予定だった休学期間にコロナ禍となり、国内で活動する場が必要になり開設に至ったそうです。VIVAで実施されている「VIVA AWARD 2021」にも昨年選出、活動されています。

NULL NULL STUDIO

最後には、1991年に取手に来たという島田忠幸さんのスタジオも拝見しました。

島田忠幸さんのスタジオ

取手に拠点を構えるアーティストは様々。TAPの羽原康恵さん、中嶋希実さんによれば、上記で紹介したような共同系や公開に積極的なスタジオだけでも市内および近郊に40-50(うち10-15が共同系)はあるのではないかとのことでした。

藝大との関わりなどから短い期間を過ごす方もいれば、シンプルに利便性と活動のしやすさのバランスを求めてという方、ライフステージの変化に合わせてパートナーとの生活のしやすさを求めてという方もいるそうです(首都圏外からの転入を含む)。

取手市の新型コロナウイルス感染症拡大への緊急対策「アート創作拠点オンライン公開事業」を通じて始動した「ART LIVES TORIDE」にも多くのアーティストが参加しています(TAPによる企画・コーディネート)。

長い目で追っていきたいTAPの現在地

TAPのホームページ内に、「TAPの現在地」というコーナーがあり、TAPの最新の状況や拠点とプログラムの関係がコンパクトにまとめられています。

駆け足でいくつかの拠点を案内いただきながら感じたのは、やはりそれぞれの拠点やプログラムそれぞれに多くの人が関わっているのだということ。ここには表現しきれないたくさんの動きや、アーティストの活動があるということ。それらは変化し続けているということでした。

そしてVIVAの持つ可能性。先にも書きましたが持続性が担保されつつ、既にあるTAPの活動を含めて、取手におけるアート活動や情報の出入口としての役割が非常に大きい。そして、オンタイムではもちろん将来的に地域での活躍が期待される「トリばァ」の存在もあります。

VIVA共同ディレクターの五十殿さんは「TAPでいろんなコミュニティをつくって来たけれども、VIVAやトリばァがそれを横につなげてくれそうな気がする。」と話してくれました。既にトリばァがVIVAを飛び出して、市内のパブリックアートの対話型鑑賞を行うツアーをやっていたり、VIVAフォーラムのお客さんの層が広かったり。VIVAを日常使いしている高校生からもトリばァへの応募があるなどVIVAならではの動きもあるそう。

またTAP事務局長の羽原さんは、「アートがインフラになるといい。これまでのTAPの活動を通して出会ってきた地域の魅力的な方々、VIVAでトリばァが育んでいるような方々が増えること自体がアートプロジェクトではないか。」とTAP全体を通しての考えを語ってくださいました。

視察やヒアリングに対応いただいた羽原さん(左上)、五十殿さん(左下)、中嶋さん(右下)

TAPの活動は年間約5,000万円規模(2020年度)。2017年に「藝大食堂」開始以後はVIVAや取手市の事業も増え、常勤4-5名とアシスタント、多くのフリーランスやプロボノスタッフと共にプロジェクトに取り組んでいます。一見すると一定の着地点を見出しているようにも見えますが、数字からは見えにくい細かな動きがたくさんあり、それぞれに丁寧なコミュニケーションが求められます。またコアスタッフを担える若手の育成も必要です。ヒアリングでは、その運営や組織経営への苦労もうかがい知ることができました。

そしてこの状況もまた変わっていき、「現在地」は更新され続けていくのだと思います。しばらくは藝大やVIVAでの展開に注目しながら、長い目で追っていきたいと思いました。

ノマドプロダクション/EDIT LOCAL LABORATORY 橋本誠

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