おすすめ本紹介:「ノマドのマドvol.32」より
ノマドプロダクションのメンバーが、ノマド界隈の皆様におすすめしたい情報を紹介していくシリーズ。今回は7/3に配信したメールマガジン「ノマドのマドvol.32」より、3冊の本をご紹介します。
美術展の不都合な真実
1日当たり数千人の入場者を集める大型企画展が日本独特の形態であることはしばしば指摘されます。本書はそのビジネスモデルとカラクリを詳らかにし、話題となっています。
著者は国際交流基金で美術展の企画調整業務に携わっていた古賀太氏。現在は日本大学芸術学部で教授を務めます。
マスメディアはなぜ文化事業部をもち、美術展に出資するのか。それは、企画と広報の両面で、双方に利益をもたらす構造が成立しているからだと言います。美術館とメディアは、お互いに持ちつ持たれつの間柄にあるのです。
他方、これは果たして鑑賞者にとって有益なことなのか、疑問を投げかけます。
美術館とは何か、美術鑑賞の価値とはなにか、と改めて考える機会となる一冊でした。
(山本功)
人間は料理をする ㊤ 火と水/㊦ 空気と土
「絵を描きたい」とか「何か作りたい」とか思っていたのに、料理をしたら満たされてしまった。そんな経験はないでしょうか。私はあります。料理への欲求と創作への欲求は、同じところから湧いてくるのではないか。そんな気さえします。
というのは個人の印象に過ぎないとはいえ、料理が、極めてクリエイティブな営みであることは間違いありません。本書は、あるジャーナリストが、そんな料理の根源に迫ろうとする試みの記録。筆者が、各分野の料理人に教えを請いながら、肉を焼き、出汁を取り、パンを焼き、発酵食品を作る過程で、料理とは「自然界と社会の両方に対峙する」行為であると身をもって知っていくさまが描かれます。
いま読み直すと、特に印象深いのは発酵をめぐる章。いうまでもなく、発酵食品は人と菌類の分かちがたい関係を示すものですが、本書では、近代的な公衆衛生の理念と伝統的な発酵食品の文化の相克について詳しく語られています。
喫茶店やスーパーで、手にアルコールを吹きかける私たち。今日の衛生観念と、これからの私たちの食と身体について、思いを馳せるのに良い本です。
(西田祥子)
シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略
芸術祭や美術展の認知を広げるにはどうしたらいいのか?もっと多くの人に来場してもらうには?そんな問いを打ち合わせで度々耳にする一方で、これまで美術やアート分野における実例を基にしたマーケティングの本は、あまり目にすることがなかったのではないでしょうか?森美術館の広報・プロモーション担当者が実際に森美術館で行った手法をまとめた本書では、SNSに投稿した記事やフォロワー数の変遷など、具体的な例や数値を用いながらまとめています。「あえて作品を説明しすぎない投稿にする」「来場者がSNSで広げてくれる仕組みを作る」など、すぐにでも取り入れていきたいヒントがたくさん掲載された、実用的な一冊でした。
(田村悠貴)