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【妻の色鉛筆立て】 〜たくさんの笑顔と可憐な草花を描く、STAEDTLER COLORED PENCIL 『Noris』〜   

#1  金沢・柿木畠の花屋MALGRITのカレンダー

イラストレーターの妻は、よくリビングテーブルで愛用の色鉛筆を使っている。

いろいろ試したが、芯が硬質で重ね塗り出来る独ステッドラー社製の色鉛筆「ノリス」がいちばん自分の画風に合っているそうだ。

グラフィックデザイン業界にあまり詳しくないが、いまどき手書きの色鉛筆イラストはごく稀なのではないだろうか。

金沢柿木畠のお花屋さん『MALGLIT』のカレンダーは毎年、妻がデザインさせていただいている。

今年6月のカレンダーは、仏語の“Juin”をポーズした妖精が紫陽花と無邪気に遊んでいるさまがとても可愛いらしい。

毎朝カレンダーを見て思わずクスッと笑え、楽しい気分になる。

個性的なキャラクターが描かれることが多い妻の色鉛筆イラストは、見る人を笑顔にする力があると思う。

#2  幼馴染みへのThank-you Letter

人物の似顔絵イラストも妻の十八番である。

しかし、「実際に会ってみて好感をもてた人じゃないとうまく描けない」とのことで、作品帳には家族と友人、そして妻が主催する刺繍教室の生徒さんの笑顔が多い。

先日、いまは茨城に住む私の幼馴染から名産のトマトが届いたので、そのお礼状に家族の似顔絵をお願いした。

アニメ『サザエさん』エンディングでの磯野家よろしく、大きなトマトを頭上にかかえ腰をふりふり大喜びしている所家の図だ。

リクエストに応じてくれた妻自身がニコニコ顔で、はじめて三人家族の似顔絵を描いた。

とくに、ここしばらくまた一緒に暮らすことになった息子の絵に一番力が入っている気がする。

きっと、礼状を受け取った私の幼馴染にも笑顔の輪が広がったにちがいない。


#3  庭仕事の愉しさあふれるSketchbook

近ごろ、妻はとつぜん庭の手入れに熱心となり、草むしりしたスペースに新しく草花を植えることに夢中だ。

若い頃は花屋でフローリストとして働き、その後グリーンアドバイザー資格も取った腕前ゆえ、なかなか本格的である。

ヘルマン・ヘッセ著『庭しごとの愉しみ』を地でいくように、スケッチブックに作庭プランを書きこんでひとり悦に入っている。

ヘッセはペンと水彩絵具で草花をスケッチしたが、彼女が使うはもちろん、ステッドラー色鉛筆「ノリス」である。

妻が草花をスケッチする手元を観察すると、鉛筆でドローイングしあとで色をのせる一般的な描き方ではない。

妻はまず、肌色の色鉛筆で草花全体のアウトラインを薄く描く。

その上から茎と葉と花弁が実際に成長していくように、黄・緑・ピンクなどそれぞれの色をゆっくり重ねて描く。

そうする理由を尋ねると、「草花も人間と同じよ。赤ちゃんから少しずつ成長しながらだんだん、大人の色になっていくでしょう。」と真顔でこたえた。

妻が愛用するスケッチブックには、ゆっくり時間をかけて色づいた草花と常緑樹たちが初夏の光のなか、キラキラ笑っている。

#4   “幸福な時間”を描いてきた色鉛筆たち

鉛筆ホルダーに挿しても使えない程、短くなった色鉛筆を妻はそのまま大切に保管している。

「なんだか愛しくて捨てられないの。」と無邪気に笑う。

スイーツ好きの妻らしく、ガラスの小さなプリンの容器に小指第一関節ほどの色鉛筆を数本、挿している。

きっと、これらちびた色鉛筆たちも妻にとっては、“かけがえのない宝物”なのだと思う。

たしかに、たくさん描いてこんなに短くなった色鉛筆は、これまで妻が描いてきた「長い時間を可視化したもの」とも云える。

そしてそれは妻自身の、さらには妻のイラストとどこかで出会った誰かの、”幸せな時間の総和”なのかも知れないから。

fin