あの春の海を忘れない。
〜死者は善き世界への使者なり〜
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10年の歳月が過ぎた。
「わたし達は何を学び、何を成せたのか?」
同様に収束がなかなか見えないコロナ禍のいま、すべての日本人に突きつけられた問いだろう。
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変わらぬ事実は、荒ぶる自然の破壊力の前に人類の科学技術などまったく無力なことだ。
自然に対する畏怖の念と感謝の心を忘れたときふたたび、人類には手酷いペナルティが与えられのかも知れない。
天地はいまも創造され続け、繰り返す地震も津波もその荒々しい過程のごく自然の出来事。
人類はこの壮大な物語のなかでは、ささやかな登場人物の一部に過ぎない。
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この10年の歳月。
被災地の「自然」には、目に見える治癒力と再生力が認められた。
しかし廃炉までの道のりは、まだ緒についたばかりである。
放射性廃棄物に関しては、安全の未来図をおそらく永久に描けない。
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けれども、子供たち孫たちの世代に押し付けてはならない責務がある。
10年経ってもなお道半ばである震災復興の背後には、多くの死者たちがいる。
亡くなっていった人びとの魂を、忘れてはいけない。
現在も未来にも、わたしたちの背後には永遠に死者たちがいる。