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ほっといて


朝。

人の数だけモーニングルーティンというものがある。自分は起きたらまず顔を洗う。とにかく眠いから。
高校生になったらピアスをやってみたかった。誰もやっていいとは言ってないので髪で隠れるとこに。ダイエットがエスカレートしてる子がいるけど、だんだん大きい径になってるピアスはそれに似てる。

顔を洗って意識がはっきりしてくると、いろいろ考え事をしてしまう。

みんなのことを「向こう側」だと感じる。「向こう側」はなんだかキラキラしてて、あの感じが少し疲れるときがある。

知らない人とご飯行った子の何食べたのか話、ヤンキーの子のジャージへのこだわり話、男子グループと仲良い子の男チョロい話、授業中寝てる子の寝る子は育つ話、授業中めっちゃ真面目な子の寝る子は育たない話。「向こう側」は自分があるというか、キラキラとしゃべるのだ。そういうとき自分には背骨のようなものが無いと感じてしまう。

仲の良い数人に自分が好きなものの話をしたら「意外」とか「変なの」とか「キャラじゃなくない?」とか言われたことがある。

放課後。

今日はみんなバイトや用事があるらしく、一人で帰った。こういうときはゲーセンで格闘ゲームをする。みんなといるときに一人用のゲームをするのは気が引けるから。今日もハイグーアパカに勝てなかった。けど久しぶりに昇竜拳が出た。

ゲーセンから帰る道は通学路ではないので、普段と違いゴジラに会える。ゴジラは庭が見える家の犬につけたあだ名。犬種は知らないけど顔がまろやかでコクがある。今日も庭にいたのでゴジラゴジラと呼んでいたら、その家のおじいちゃんが「ゴジラじゃなくて○○だよ」とニコニコ教えてくれた。○○が何かは忘れた。解釈違いだったから。ゴジラのほうが合ってる。おじいちゃんもゴジラみたいなまろやかでコクがある顔の人だった。

昇竜拳やゴジラが好きな話をしたときに「キャラじゃなくない?」と言われたことを歩きながら思い出す。では何だったらキャラなのだろう。

「強い言葉は心がけがれてしまうから言わないこと。そして思わないこと」とパパに言われたしそこまで怒ってないんだけど、なんというかふと

「ほっといて」

と口にしてしまうのだ。今は誰も見ていないから。

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