全国の自治体で急務となった 新しい終活支援とは? その2(全3回)
第2回では、全国に先駆けて市民向けの終活支援を開始した神奈川県横須賀市の終活支援センターの北見万幸氏への取材を通して、今後、自治体の規模(市町村)に関わらず必要となる終活支援事業の内容を紹介します。
※第1回は下記ページよりご覧いただけます。
横須賀市では、2015年7月から開始した一人暮らしで身寄りがなく生活にゆとりのない高齢等(高齢、障害、余命宣告を受けた者)の「エンディングプラン・サポート事業」と、2018年5月から開始した「わたしの終活登録事業」(終活情報登録伝達事業)の2つの事業を中心に終活支援事業を進めています。そこで、この2つの事業の内容について取材の結果を踏まえて説明したいと思います。
1,「エンディングプラン・サポート事業」について
この事業の大きな眼目は、「多死社会の到来」から、引き取り手のないご遺体が年々、増えると予想され、今の状態を放置することは、市民の死後の尊厳が損なわれると捉えて、それではどのようにすれば墓地埋葬法第9条の適用を回避できるか、を考えた点、そして人の死後の尊厳を中心に据えた結果、結局、墓地埋葬法第9条にかかる執行予算の削減に成功したという点でしょう。
この事業の内容は、横須賀市と、この事業に協力する葬儀社等が連携し、そうした方々の生前からご本人の葬儀・納骨・リビングウィル(延命治療意思)という課題について支援を行うものですが、この事業は、自治体の視点で考えると3つの重要なポイントがあります。
① ご本人から26万円※1の費用を用意して頂きご本人と葬儀社との契約時に”前納”してもらうこと。
この事業を立ち上げた北見氏は、自身がケースワーカーを担当していた時代に経済的に厳しい人でもご自身の葬儀費用の20万円程度は、確保している方が多いことを思い出しご本人に費用を負担頂くことを決定したそうです。費用は、市を介さずにご本人から葬儀社に直接支払う方式をとっているとのことです。
※1原則として生活保護基準に納骨費用を加えた額。(参考:令和4年度:26 万円)
② 事業対象者の死後の尊厳を守る姿勢が、結果として墓埋法9条※2の市負担の削減につながること。
この対象者は、横須賀市のホームページによると「原則として、ひとり暮らしで身寄りがなく、月収18万円以下、預貯金等が225万円以下程度で、固定資産評価額500万円以下の不動産しか有しない高齢者等の市民が対象です。」と紹介されています。この事業の対象要件は、「このまま放置すれば、行く行くは墓地埋葬法第9条の対象者になってしまうと思われる市民」であるかどうかということです。この事業によって協力葬儀社と死後事務委任契約を結んでもらえば、本人の死生観、信教を守ることができ、その結果、公費も削減できることになるのです。
※2 墓地、埋葬等に関する法律第九条
第九条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。
2 前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは、その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法(明治三十二年法律第九十三号)の規定を準用する。
③ 自治体と契約者の双方にメリットがあること。
自治体として、これから墓地、埋葬等に関する法律第9条の対象者が増え続けることが予想されます。つまり、こうした事業のために、ご本人に無理のない費用負担をお願いすることは、結果的に自治体の予算軽減と住民サービスの向上に繋がることになります。
2, 「わたしの終活登録事業」(終活情報登録伝達事業)について
横須賀市では、エンディングプラン・サポート事業に加えて、遺言書やエンディングノートの保管場所、緊急連絡先など11項目の情報を無料で登録できる「わたしの終活登録事業」を開始しています。このサービスは、希望する市民に対し、ご本人ならどなたでも電子申請、郵送申請の他、電話1本で登録ができることが特徴です。もし対象者が急に倒れた場合や亡くなった場合に、親族の連絡先やエンディングノートの保管場所、お墓の場所などが分からない等、ご本人のリスクを回避すると同時に市の業務負荷軽減に繋がることが期待されています。
最後に紹介した横須賀市の「わたしの終活登録事業」と同様の住民サービスは、全国でもすでに開始している自治体も見受けられ、最近では2023年5月から岐阜市が市の住民基本台帳に登録されている65歳以上の方を対象に「わたしのあんしん終活登録事業」をスタートしています。今後、こうしたサービスが広がる中で各自治体では、先進事例を参考に地域の特性を考慮した事業計画が必要と思います。
このコラムの引用、参考先
横須賀市 終活支援センター
岐阜市 わたしのあんしん終活登録事業
[プロフィール]
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自治体行政支援機構 理事長 林 勝美 氏
(元)国立大学法人 熊本大学大学院法曹養成研究科(法科大学院)教授
(元)東京都総務局法務部訟務担当課長
昭和45年3月中央大学法学部法律学科卒業。同年4月東京都庁入庁。総務局法務部法務第一課、民事訟務課、不服審査法務室、総務局文書課を歴任後、管理職として建設局の管理課長等を経て、再び法務部副参事、訟務担当課長として訟務実務担当。平成14年3月都庁退職。同年4月公募により熊本大学法学部教授就任。平成16年4月熊本大学法科大学院教授就任。平成22年3月熊本大学を定年により退職。平成25年4月自治体行政支援機構設立。理事長就任。現在に至る。
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