『よきかな』 #テレ東ドラマシナリオ
( #テレ東ドラマシナリオ 参加作品)
- あらすじ -
毎年2月末に町内の神社で開催されるお祭り。
商店街の組合では、これまで豚汁を販売してきた。
しかし近年、商店街にはシャッターが閉まったままの店舗が増え、
お祭りもどんどん人が減り、継続するかどうかの瀬戸際だった。
毎年恒例の商店街の忘年会。
いつもはただ楽しくお酒を飲む会なのだが、今年は違った。
お祭りをどうしても盛り上げたい。今後も継続するために。
そのために今年は豚汁以外のモノを出そうということになり、
忘年会で商品開発会議が行われることに。
みんなで具材を持ち寄り、美味しくて温まる試作の鍋を作ろうということになったのだが・・・
鳥料理専門店(町の人にはやきとり屋と呼ばれている)では、毎年クリスマス用のチキンを販売しているため、大忙しだった。
仕込みが忙しい両親の代わりに娘の南つみれ(21)が商店街の忘年会に参加することに。
若い人の知恵を借りたいということらしいが、気が乗らないつみれ。
「肉屋も魚屋も参加するし、きっと美味しいお鍋が食べられるよ」と言われ、仕方なく参加することに。
当日、参加者の持ち寄った具材を見てつくねは激怒した。
【人 物】
南つみれ(21)・・・鳥料理屋の娘。大学生。
赤松(63)・・・アカマツ精肉店の店主。
鈴木(58)・・・鈴木鮮魚店の店主。
緑山(55)・・・青果 八百山の店主。
明子(55)・・・白川クリーニング店の奥さん。
黒澤(29)・・・和菓子屋 大黒堂の3代目。
【シナリオ】
◯公民館・和室
畳の部屋にはテーブルと座布団が並べられている。
テーブルの中央には鍋。
テーブルを囲んでいる赤松、鈴木、緑山、明子、黒澤の5人。
つみれだけが立って、その5人を見下ろしている。
つみれ「みんなで具材を持ち寄って、美味しいお鍋を食べるって聞きましたけど?」
赤松「確かに」
つみれ「ですよね。で、私はウチの鶏だんごを持ってきました。美味しいですよ」
鈴木「そりゃ楽しみだ」
つみれ「明子さん、お豆腐ありがとうございます。それとシメ用のご飯まで」
明子「ほら、お肉屋さんに魚屋さん、八百屋さんまで来るっていうから」
つみれ「そうですよね。確かに何を持ってくるか、私も迷いました」
緑山「そう。そうなんだよ」
つみれ「緑山さん!あなたは八百屋なんだから、野菜でいいんですよ!なんでチョコレート持って来るんですか!」
緑山「いや、お祭りは2月だから・・・バレ・・・」
つみれ「バレンタインは関係ない!」
緑山「はい!すみません!」
つみれ「そして、残りの3人!」
赤松・鈴木・黒澤「はい!」
背筋を伸ばす3人。
つみれ「右から、モチ、モチ!ひとり飛んで、大福!一体、何なんですか!」
3人「すみません!」
3人、頭を深々と下げる。
つみれ「どうせお正月用に買ったのを適当に持ってきたんでしょ?」
赤松・鈴木「すみません・・・おっしゃる通りです」
黒澤が手をあげる。
黒澤「あの、私は違います・・・」
つみれ「黒澤さん、はじめまして。大黒堂の3代目だそうで」
黒澤「はい。よろしくお願いします」
明子「あぁ〜、大黒堂さんとこの」
明子、関心したように黒澤を見る。
つみれ「3代も続く老舗の和菓子屋さんですもんね。さぞかし美味しい大福でしょう」
黒澤「はい、創業100年!自慢の大福です!」
得意気な黒澤。
つみれ「おい、3代目!鍋って聞かなかったか!?」
黒澤「すみません!」
つみれ「赤松さんと鈴木さんの方がまだマシですよ!普通のモチだから。鍋にあんこはダメ絶対!」
黒澤「デザートにと思ったんです。あ、でも、もし鍋に入れたとしても、うちのあんこは甘さ控えめですし・・・」
つみれ、黒澤の言葉を遮り詰め寄る。
つみれ「それ!!闇鍋とかやって、必ず失敗するパターン!誰かが入れるんですよ。甘いものを!」
緑山「あるある」
鈴木「せっかくの高級食材が台無しになるやつ」
頷き合う緑山、赤松、鈴木、明子。
緑山「そうそう」
つみれ「そうそう。じゃない!緑山さん、チョコレートもダメですからね?」
緑山「すみません・・・」
赤松、鈴木、緑山、黒澤、しょんぼりとうなだれる。
つみれ「では、みなさん。解散ということで」
赤松「ちょ、ちょっと待ってくれ!祭りの話は・・・」
鈴木「今度はちゃんとした具材を持って来るから」
緑山「新鮮な野菜も!」
つみれ「当然です!一旦解散!すぐに最高の食材を持ってきてください!」
赤松・鈴木・緑山「はい!!」
3人立ち上がって出て行く。
つみれ「明子さんはいいですからね」
明子「わーい」
黒澤「あの・・・僕は・・・」
つみれ「あなたも行く!!」
黒澤「は、はい!」
黒澤、急いで出て行く。
テーブルの上には何も入っていない鍋。
◯タイトル『よきかな』 第一話「商品開発は寄せ鍋で」
◯公民館・和室
テーブルの上に置かれた鍋。
鍋の中には、肉、魚、野菜、豆腐、鶏だんごなどたくさんの具材が入っている。
つみれ、赤松、鈴木、緑山、明子が鍋を囲んでいる。
笑顔で鍋を食べているつみれ。
明子「黒澤さん遅いわね」
赤松「まさか2回目も却下されるとはね」
鈴木「可愛そうに」
緑山「まぁ、でも・・・」
つみれ「ちゃんと話聞いてました?私言いましたよね?」
緑山「そうだね。言ったね」
鈴木「甘いものはダメ絶対!」
赤松「美味しい鍋を食べるためだ」
つみれ「そうです。じゃあ、なんで改めて“羊羹”を持ってくるんですか!」
明子「和菓子屋さんだからかしら」
つみれ「あぁ、なるほど〜♪じゃない!店の物じゃなくていいんですよ!家の冷蔵庫から持ってくれば!」
赤松「そりゃそうだ」
明子「確かに」
入口の扉が開く音がして、黒澤が戻ってくる。
黒澤「すみません!お待たせしました!」
鈴木「お、噂をすれば」
緑山「さ、座って座って。とりあえず食べましょう」
明子「お箸そこの使ってね」
黒澤、座って持って来た物をテーブルに置く。
つみれ、食べていたお椀を置く。
つみれ「さ、では、見せてもらいましょう」
黒澤「はい。店に良いものがありました」
赤松「店に?」
鈴木「まずいな」
緑山「まずいですね」
黒澤、風呂敷を開けるとタッパーが出てくる。
ゆっくりタッパーを開ける。
つみれ「ん?これは・・・?」
黒澤「求肥(ぎゅうひ)です」
赤松「なるほど・・・。モチだな」
鈴木「モチですね」
緑山「戻りましたね」
明子「あら、まぁ」
全員、固まる。
黒澤、不思議そうにみんなを見る。
つみれ「黒澤さん」
赤松「つみれちゃん!まぁまぁ」
つみれ「お腹も空いてるでしょうし、お鍋食べてください」
鈴木「そうそう。美味しいよ」
黒澤「どうでしょう?」
つみれ、黒澤の方は見ない。
つみれ「・・・・」
明子「ほのかに甘いお餅よね」
つみれ「これはもう、黒澤さんを呼んだ赤松さんの責任ですね」
緑山「お、上が責任を取るパターンですな」
鈴木「赤松さん」
赤松、鈴木に促されて正座をする。
赤松「すまなかった!」
深々と頭を下げる赤松。
黒澤「赤松さん!(つみれの方を見て)う、うちの求肥は鍋にもきっと合いますから!」
黒澤、つみれを見る。
つみれ「・・・・」
つみれ、お椀を持って鍋を食べ進める。
明子「始めましょうか。お祭りの話。ねっ」
緑山「そうしましょう!」
2人、つみれを見る。
つみれ「そうですね。何か案がある方は?」
つみれ、メンバーを見る。
赤松「実は、次は魚介を使ったものがいいんじゃないかなと」
緑山「うん。毎年、赤松さんとこのお肉と、うちの野菜は使ってもらってたからさ」
明子「鈴木さん、いつも手伝ってくれてたしね」
鈴木「そういってくれるのは嬉しいけど・・・」
明子「あ、じゃあ、アラ汁とかいいんじゃない?」
赤松「おぉ!それだ!」
緑山「美味いですよねぇ〜!」
つみれ「確かに美味しいけど・・・」
つみれ、言いにくそうに考え込んでしまう。
黒澤、鍋を食べながら。
黒澤「あの、私は父に若い人の新しいアイデアが必要だと聞きました。今回ダメだったら祭りが終わってしまうかもしれないと」
つみれ「私もです・・・」
黒澤「その答えがアラ汁でいんでしょうか?それを目当てに若い人たちが集まるとは思えませんが」
つみれ「確かに・・・」
明子「そうよねぇ〜」
緑山「新しく機材を買う余裕はないから、できればあの大鍋を使いたいなぁ」
赤松「じゃあ、カニ汁とか!」
緑山「なるほど、見栄えもいいですね!」
鈴木「いくらで売るんですか?採算取れませんよ・・・」
緑山、鍋を見つめる。
緑山「鶏だんごならそんなに高くないんじゃない?」
明子「鶏だんご汁も美味しそうねぇ〜」
明子、鶏だんごを食べる。
黒澤「あれ?魚介じゃなくていいんですか?」
緑山「君は、言いにくいことをさらっと言うね」
鈴木「私は構わないですよ」
つみれ「若者人気ないですよ。うちの鶏だんご・・・」
一同、考え込む。
1人鍋を食べている黒澤。
赤松「あぁ!」
一同、赤松を見る。
赤松「だんごと言えば、若い人にアレ人気だろ?ほら、あの鹿のフンみたいな飲み物」
明子「あぁ〜!」
緑山・明子「タピオカ!」
緑山「鍋でも作れそうですね」
つみれ「そこ、こだわりますね」
赤松「あれもモチみたいなもんだろ?」
鈴木「うちの娘も1時間並んだって言ってましたよ」
つみれ、お椀を置いて考える。
つみれ「まだ流行ってるのかなぁ〜?」
黒澤「微妙なとこですね。てか、コンビニでも売ってますし」
明子「え?もう終わっちゃったの?」
鈴木「あまりなんとか映えしないからな」
緑山「無理して使わないでくださいよ。インスタ映えでしょ?」
鈴木「それそれ」
赤松「鹿のフンみたいだからな」
つみれ「何回も言わないでください」
赤松「黒じゃなくて、もっと綺麗な色にしたらどうだ?ピンクとか青とか」
緑山「食欲失せるなぁ〜」
緑山もお椀を置く。
黒澤「ちなみに、うちの団子はピンクと緑とかありますよ」
明子「もう七色にしちゃうとか?」
鈴木「いいねぇ〜」
つみれ「あの・・・、鍋も食べたし、ちょっと行ってみません?」
明子「どこに?」
つみれ「神社です。お祭り会場の」
黒澤「いいですね。現地調査は重要です」
赤松「俺は毎日行ってるけどな」
緑山「まぁまぁ」
全員、立ち上がる。
◯神社へ繋がる石階段
神社へ向かって階段をのぼっている一同。
赤松、鈴木、緑山が先頭を歩き、明子、つみれ、黒澤が後ろを歩いている。
明子「黒澤さんはいつから大黒堂に?」
黒澤「今年からです。それまでは全く別の仕事をしていました」
つみれ「へぇ〜、何してたんですか?」
黒澤「マーケティングです」
明子「わっ、なんだか難しそう」
つみれ「もともと継ぐつもりだったんですか?大黒堂」
黒澤「あんまり。でも、いつかはそうなるのかなとは」
つみれ「そっかぁ・・・」
明子「つみれちゃんも一人娘だしね」
つみれ「私はなぁ・・・あんまり・・・」
空を見上げるつみれ。
明子「黒澤さんも作ってるの?和菓子」
黒澤「いえ、僕は職人ではなく、今はマーケティング関係をやりつつ、ゆくゆくは経営の方を・・・」
明子「頼もしいわね」
階段をあがると神社が見えてくる。
息を切らしてる一同。
◯神社・境内
つみれ、境内を見回して首をかしげている。
つみれ「あれ〜?」
赤松「どうした?」
つみれ「こんなに狭かったですか?」
鈴木「むか〜しっから、この広さだよ」
緑山「つみれちゃんが大きくなったんでしょ」
つみれ「そうなんですかね?」
明子「いつ以来?」
つみれ「子供ころ夏祭りで来て以来かなぁ・・・?」
赤松「俺は毎日来てるけどな」
つみれ「はいはい。お正月も何かしてませんでしたっけ?」
赤松「昔は元旦に餅つきをやってたけど、もうここ何年もやっとらんな」
つみれ「へぇ〜、楽しそうですねぇ〜」
緑山「楽しいよ〜餅つき」
鈴木「今の子は、やったこと無い子も多いだろうなぁ」
明子「そうねぇ〜」
黒澤「それだ!」
一同、黒澤を見る。
黒澤「現代人は、家も買わないし車も買わないし、お金を使わないと言われています」
緑山「なんか壮大な話になったな」
つみれ「さすが元マーケティング会社の人」
黒澤「それでもある分野にはたくさんお金を使っているんです。なんだと思います?」
赤松「コレか?」
赤松、小指をあげる。
黒澤「違います」
鈴木「旅行とか?」
黒澤「旅行もそうです。初めての場所に行ったり、そこで初めての体験をしたり。つまり“経験”にお金を使っているんです」
緑山「なるほどねぇ〜」
つみれ「つまり何をすれば?」
黒澤「例えば、ここで餅つき体験をやってもらうんです。もちろん無料で。で、横でそのお餅を使ったぜんざいが売ってるとしたら、どうです?」
赤松「食べたくなるわな」
緑山「買いますね」
鈴木「なんとか映えするやつだと売れるな」
明子「インスタね」
つみれ「可愛いやつにしましょう!普通のぜんざいじゃなくて」
黒澤「それもいいですね。うちのモチもカラフルですし」
赤松「ぜんざいは地味なもんだろ?」
つみれ「じゃあ、カラフルなお餅が入った白いぜんざいとか?」
明子「あら、すごいわねぇ〜」
緑山「もうぜんざいの口になってしまいましたよ」
鈴木「それならインスタ映えもしそうだ」
つみれ「お!」
明子「じゃあ、つきたてのお餅をちぎってどんどんお鍋に入れてもらったら?」
赤松「それも体験ってやつだな」
親指を立てる赤松。
黒澤「つくねとつみれの違いって知ってます?」
つみれ「魚系がつみれで、お肉がつくねとか・・・?」
黒澤「そう思われがちですが、手やスプーンで摘み取って入れるのがつみれで、あらかじめ形を作ってから入れるのがつくねです」
緑山「じゃあ、今回のはつみれだ」
赤松「“つみれぜんざい”ってとこか」
明子「あら、素敵じゃない」
鈴木「映えそうだ」
つみれ「つみれぜんざい・・・」
つみれ、笑顔になる。
笑顔で頷き合う一同。
END
第二話「モチ映えるぜんざい」へ続く・・・