『つかさの店』
世田谷区「下北沢」
一番街の奥の方、周りの店がどんどん様変わりする中、
20年以上続く小料理屋。
つかさがこの店を継いでから3ヵ月。
新しいお客さんの他に、昔からの常連客も戻りつつあった。
「お母さんの和食も美味かったが、あんたの作る洋食もなかなかのもんだ。日本酒とも合うしな」
やっとそう言ってもらえるようになってきた。
母親が病気で倒れたのは一年前――
父親は「もう店はたたんだ方がいいだろう……」
と言ったが、それを止めたのがつかさだった。
「お母さんが戻るまで、私が店に出るから」 と。
その思いを聞いた母親はつかさに言った。
「あなたが店をやるなら、内装も料理も全部好きなように変えていいから」
「あなたの店としてやりなさい」と。
自分の店として本当にやっていけるのだろうか?
迷っていたつかさの背中を押したのは、
母親の店に貼ってあった「お勧めのお酒」の貼り紙だった。
そこには、つかさと同じ名前が書かれていた。
『松の司』
「母と同じ料理は無理だろうけど、このお酒に合った料理を作ろう。
料理に合わせてお店の雰囲気も変えてみよう。
同じは無理でも、私の店としてならできるかもしれない」
「やってみよう」
その貼り紙に向かって誓ったつかさだった。
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