📘️ Book Club：コピーはオリジナルより収益を増やす－MSCHFのスキーム

2021年11月2日 18:44

「インターネット界のバンクシー」と呼ばれるクリエイティブ集団「MSCHFプロダクト・スタジオ」は、オリジナルのアンディウォーホルの絵「Fearies」を2万ドル（約216万円）で購入し、それにそっくりな999枚の精密な複製を作り、その偽造の中にオリジナルのアートも含め、コレクティブはそれらを1枚あたり250ドル（約28,000円）で販売しました。

米ニューヨークのアート集団、MSCHFプロダクト・スタジオが公開したアンディ・ウォーホルの絵「Fearies」の複製（2021年10月27日公開）(c)AFP PHOTO / MSCHF

現時点、1000枚は今月25日に1枚250ドルで販売され、すでに完売しています。MSCHFはオリジナルを購入した金額の10倍以上を稼いだことになります。

今回はこのMSCHFの試み、Possibly Real Copy Of 'Fairies' by Andy Warhol（本物かもしれないアンディ・ウォーホルのFairies）オリジナルはコピーより価値が、コピーはオリジナルより収益を増やすについて調べてみました。

MSCHFとは？

2016年に創設されたMSCHFプロダクト・スタジオ（MSCHF Product Studio）はニューヨーク・ブルックリン（Brooklyn）を拠点とするアメリカのアートコレクティブです。さまざまな幅広いアートワークを制作しています。

現代美術家のダミアン・ハーストのオリジナル作品を購入し、大胆にも切り取ってパーツで販売してみたり…

画像：MSCHF

ナイキのエアマックスをリメイクして聖水が入った「キリストの靴（Jesus Shoes）」を制作したことなどで知られています。

画像：MSCHF

複製がオリジナルより収益を増やす

今回のプロジェクトのプロセスは非常に複雑でした。MSCHFが最初に購入した、「Fearies」1954年、元のアンディウォーホルのイラストは2万ドル（約216万円）ペン画の精密な複製は、集団が独自にデザインおよび構築したロボットを使用して作成されました。

MSCHFは、複製を制作している動画をウェブサイトに投稿しています。

ペンを持ったロボットアームが精密な絵を描き、

次に、紙を人工的に熟成させ、細部まで染色しました。光と熱、圧力、湿気などでエイジング加工を施しています。

またその後MSCHFはアンディ・ウォーホル美術財団（Andy Warhol Foundation for the Visual Arts）の印章を押し、鉛筆で注記を書き込む様子が捉えられています。

画像：MSCHF

MSCHFのメンバー、ケビン・ウィーズナー（Kevin Wiesner）氏は、「美術品の保存や修復を行う専門家がすべての絵を並べて入念に調べれば、本物を見つけ出せると思う。でも、そのようなことは起きないだろう」と述べました。どれがオリジナルであるかの記録はすべて破棄されているので、MSCHFによって作られたものか、またはアンディウォーホル自身の作品か、区別することができなくなっているようです。MSCHFでさえそれらを区別することはできません。

破壊としての複製「物事の普遍的な平等の感覚」

ユビキタス（Ubiquitous）とは、いつでもどこでも存在するという遍在を表す言葉です。またITの世界では、コンピューターやネットワークが遍在し、使いたいときに場所を選ばずに利用できることなどを表す用語としてユビキタスが使われています。MSCHFは所有権の民主化を考え、独占性を前提としたすべての作業を破壊したいというアイデアからこのプロジェクトが始まりました。

人々は美学よりも真正性にはるかに関心があるとMSCHFは考えます。アートワークの出所は、特定の作品の寿命と時間を追跡します。所有権、外観、販売の記録です。この目的のために、法医学的および調査的保護のサブ産業全体が存在します。

アンディ・ウォーホルのFairiesを一斉に鍛造することで、アートワークの出所の痕跡を消し去ります。物理的には損傷はありませんが、作業の信憑性に対する将来の信頼を破壊しました。

オリジナルはコピーよりも価値があるけれど…

オリジナルはコピーよりも価値があります。ユニークな作品は、編集された作品よりも価値があります。ギャラリーでは、販売数が増えるにつれて在庫のプリントの価格を上げるのが一般的です。現存する総量に変更がない場合でも、地域の希少性が価格を設定します。

コピーは作品のオリジナルのユニークな文脈の外に存在するため、オリジナルの芸術的価値を低下させ、それによって最初にオーラを吹き込んだ文化におけるオリジナルの存在の特異性を薄めると言うかもしれません。

逆説的ですが、アーティストにとって、オブジェクトのマージに成功すると、一貫性があり、収益が増加します。ポスター、版画、または簡単に複製できる作品は、アートワークをプロダクトラインに変えます。大成功を収めると、プロダクトラインは、少数の傑作よりも純利益が高くなる傾向があります。コピーは価値を減らしますが、収益を増やします。

コピーはMSCHFのオリジナルです。より正確には、コピーと販売の全体的なパフォーマンスはMSCHFのものです。1000の同一のアートワークではなく、1000の共同所有者と共同参加者による単一の包括的な作品ということです。創造の行為は、培養物を組換え型にアップサイクリングする行為です。アンディ・ウォーホルのFairies1954年は、MSCHFのアートワークです。

［参考資料］

MSCHFの試み

今回の試みの目的は、アート市場を支配している「真正性」や「排他性」といった概念に物申すことでした。「私たちの目標は、信頼の連鎖を断ち切って作品を『破壊』することにある」とウィーズナー氏は主張しています。

私も、色々勉強中なので、皆さまの、ご意見・ご感想をお聞かせください。お読み頂きまして、ありがとうございました。

メルボルンを拠点にプロダクトデザイナーとして働いています。主にデジタル・プロダクトの制作に携わっています。