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デジタルアーカイブで創る地域の未来:石巻市の事例から学ぶ実践的アプローチと展望

はじめに

皆さん、こんにちは。「たいせつアーカイブス」のいっちーです。2024年4月に宮城県の石巻市を訪れる機会がありました。震災から10年以上が経った今、この街は新たな一歩を踏み出そうとしています。今回の旅で感じたこと、考えたことを今年訪れた宮城県仙台市と石巻市の比較も含め考察したい。


仙台市と石巻市の比較:データが示す地域の課題と機会

人口動態と産業構造

仙台市と石巻市の2020年の人口を比較すると、仙台市が約110万人であるのに対し、石巻市は約14万人です。2015年から2020年にかけての人口増減を見ると、仙台市が約1%増加している一方で、石巻市は約5%減少しています。これは全国平均の約0.7%減少を大きく上回っています。
年齢構成においても顕著な差が見られます。年少人口比率は仙台市が12%、石巻市が10%(全国平均12.6%)、生産年齢人口比率は仙台市が63%、石巻市が56%(全国平均59.5%)、高齢者人口比率は仙台市が25%、石巻市が34%(全国平均27.9%)となっています。
これらのデータから、石巻市の人口減少と高齢化は全国平均を上回っているため、のちに触れるスタートアップ支援などによるUターンなどが行われています。

観光動態

2021年度の入込客数を見ると、仙台市が約2,315万人(前年比25%増)であるのに対し、石巻市は約364万人(前年比8%増)となっています。特筆すべきは、石巻市のR3年度宿泊者数が約34万人で、前年比26%増となっている点は非常に驚きました。


スタートアップ支援の比較

  • 仙台市

    • 東北大学を中心としたディープテックの支援

    • IT系のスタートアップ支援

  • 石巻市

    • 地元の産業を活かした町おこし

    • 自然環境を活かした観光・飲食事業

3Dスキャンによる仙台市と石巻市の比較

3Dスキャンを通じて仙台市と石巻市の違いを感じる中で、特に重要な点としてIP(知的財産)の相対的な強さが挙げられます。
筆者が宮城県仙台市と石巻市で撮影した3Dスキャンから比較をしようと思います。


仙台市で撮影した3Dスキャンの紹介

青葉山城址にある伊達政宗像
宮城県護国神社
穴蔵神社
牛タン定食
ずんだ餅

また、瑞鳳殿や仙台市内のアーケード街も撮影していますが、3Dモデルにできていないので、完成および確認次第公開できるものは行う予定です。


石巻市で撮影した3Dスキャンの紹介

IRORI ISHINOMAKIでいただいたカレーライスとカフェラテ
JR石巻駅
JR石巻駅内の009と仮面ライダー像
萬画神社
石ノ森章太郎記念館

3Dモデルを見ていただいたところで私が感じた各都市の特徴をまとめます。

仙台市の特徴

  1. 歴史的背景:

    • 仙台市は古くから東北の主要拠点の1つであり、産業が育っている地域です。

  2. 歴史的偉人:

    • 伊達政宗などの歴史的偉人や仙台藩の遺跡が多く残っています。

  3. 産業:

    • 様々な産業が育っている地域であるため、経済的にも発展しています。

石巻市の特徴

  1. 震災後の再生:

    • 震災以降、川を生かしたまちづくりとして復興する力強さを感じました。

復興の拠点の一つであるIRORI+Cafe


  1. 海鮮資源の強い漁師町:

    • 旧北上川付近にあるいしのまき元気市場では地域の特色を生かした海鮮丼が食べられるようでした。また、海産物のお土産も買えるようでした。

特に面白かったのが宮城県名産のほやを使ったほやたまごガチャ。

いしのまき元気いちばにありました。


  1. 漁師町から漫画の町へ:

    • 石巻市は仮面ライダーなどのIPを用いた「漫画の町」としての印象を強く受けました。

石巻駅にある仮面ライダーとサイボーグ009のモニュメント


震災遺構と記憶の伝承におけるデジタルアーカイブの役割

石巻市内の施設を含む震災遺構の保存は非常に難しい課題です。震災遺構をそのまま残そうとすると、街のインフラに影響を与える可能性があります。震災以前の街並みを写真で記録することは重要ですが、街の変化が大きい場合、写真だけでは当時の状況を完全に理解するのは難しいと感じました。私はxRの開発を普段行っていますので、技術者の観点から考察します。

  • AR(拡張現実):

    • 街の変化を視覚的に再現し、過去の街並みを現在の風景と重ね合わせることで、震災前後の比較が容易になります。また、スマートフォンでも体験しやすいことから時間変化をだれでも体験することができるという観点では一番体験しやすいです。

  • VR(仮想現実):

    • ユーザーが当時の状況を体験できる仮想空間を構築し、震災の記憶をより直接的に伝えることができます。一方で、ヘッドマウントディスプレイが必要になるため、体験するデバイスという観点で障壁の高さがあります。

  • xR(クロスリアリティ):

    • ARやVRを組み合わせた体験を提供し、今の風景と震災の記憶を多面的に伝えることが可能です。AR体験よりも没入度の高い体験になることが期待できます。しかし、VR体験と同様にヘッドマウントディスプレイが必要になります。

津波伝承AR体験

実際に行われている取り組みとして、実測された津波の高さをAR表示するコンテンツになります。実際 現地で体験させていただきましたが、高さを伝える機能に絞った AR コンテンツでした。

  • 予防と練習:

    • 津波の高さや避難方法を体験できるARコンテンツを通じて、防災意識を高めることができます。これは、実際に津波を体験するリスクを伴わずに行える有効な手段です。

知識の共有と街づくりへの応用

  • 住民の知識向上:

    • 地震の歴史やその影響を住民が知ることは、防災意識を高める上で重要なテーマになります。地震や津波は周期的に発生するため、起こった際に対応できる知識を身につけるためのデジタルアーカイブ活用を考える必要があります。

  • 街づくりへの応用:

    • 地方自治体が震災の教訓を活かし、より安全な街づくりを進めるためのデータ提供や技術支援を行うことができます。人々の防災へのリテラシーを高める効果を狙えると考えています。東日本大震災を経て、旧北上川沿いの堤防は高く作られました。

デジタルアーカイブの未来

  • 直感的な操作とデザイン設計:

    • デジタル空間でのデータの操作を直感的に行えるようにし、わかりやすいUIを設計することが重要です。

  • デジタル空間での追体験:

    • 人間の知識をデジタル空間に保管し、追体験ができる仕組みを構築することが求められます。

デジタルアーカイブを保存するだけでなく、活用することにも重点を置く必要があります。xR技術やWeb技術を駆使して、デジタル空間での体験も必然的に増えていくと思います。様々なデバイスでの体験ができることでデジタルアーカイブが活用されるようになると感じているため、私自身はxRを中心としたコンテンツ制作も引き続き進めようと思います。


心のケアと記憶の伝承

震災の記録をデジタルアーカイブとして残すことは重要ですが、それを活用する際には被災者の心のケアも考慮する必要があります。デジタルデータの活用において、地域の方々の気持ちを尊重しつつ、震災の記憶を次世代に伝える方法を模索することが求められます。時間が解決する話ではある一方で公開の範囲を明確にし、正確な取材を行う必要があると考えています。


国内外の事例について

自然災害から復興を重ねた海外の事例もいくつか紹介を行います。
2009年にイタリア南部の都市ラクイラで起こったラクイラ地震復興プロジェクト「Noi L’Aquila(わたしたちのラクイラ)」は、Google、ANFE、ラクイラ市が携わり、震災前の写真や記憶をデジタルで共有する企画とのことです。2024年6月現在はWebページを見るとアーカイブコンテンツが確認できなかったが、たいせつアーカイブスに近いコンセプトを感じました。
また、VR/ARを用いたデジタルアーカイブは、研究領域で行われているので、興味がある方はプロジェクトページをご覧ください。
国内の事例については、メタバース総研様がまとめてくださっているので、参照記事を紹介することにとどめます。

訪問場所のホームページのまとめ

今回訪問させていただいた企業やWebページを紹介します。


筆者紹介

群馬高専 電子メディア工学科,生産システム工学専攻を修了した。その後、筑波大学 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群 修士課程を修了し、同学の博士後期課程 2年(D2)に在籍しています。豚の健康管理システムの構築に関する研究を行う一方で、イベント運営や3Dスキャンを用いたデジタルアーカイブを全国で行いながらxR(Cross Reality)の開発も行っています。
私の活動の一例として、X(旧Twitter)にて発信しておりますので、ご興味ある方はご覧ください。
いっちーのX


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