見出し画像

水瀬いのり/heart bookmarkー希望も絶望も全部見てた空と音楽と君と肩組んで大団円の宴を踊ろう

水瀬いのりの最新作としてハーフアルバム、要するにミニアルバムがリリースされた。

今年リリースした2枚のシングルを収録、前作glowでは整理が曖昧なまま終わってしまった彼女のアイデンティティと想いと好きなモノが可愛らしい栞と共に新たに記録され整然とした姿を保っている。これと同時に音楽性は拡張と深化を繰り返すことでさらに進化した。粒揃いの名曲が並ぶ。

廃材芸術に見立てたエンターテイメントの中で水瀬いのりを再構築したツアーから1年。
早春にFC内で開催されたアコースティックツアーで得られた新しい環境と心地よさを軸に半年足らずの制作期間から生まれた音楽は一体何を伝えようとしているのか?そして思い出したくもないインターネットの闇に巻き込まれたあの日…今回は本作に辿り着くまでの過程をたどりつつ、僕が彼女に抱き続けてる夢や憧れ、“好き”を存分に語り明かす。


君の大好きが君になる

それでは楽曲を順番に追っていこう。

1.heart bookmark

タイトル曲から始まるのはアルバムとしては初の試みである。それだけ今回は自信があったのかもしれない。アートワーク撮影地として訪れたパリの昼下がりのような雰囲気を持つ陽気な音色で構成されているが、地に足がしっかりついたバンドサウンドが全体を支える。トランペット、トロンボーン、サックス、ストリングス、ヴァイオリン4本が多重に絡みながら美しい街の背景を描く。なんて言うか所謂“良いバンドサウンド”である。いのりさんはメロフラで「音が笑ってる」みたいなこと言ってたけど素晴らしい例えだと思う。

ダイヤモンドみたいに輝く一瞬だけを切り取って「幸せすぎる。もう思い残すことなんてない」と彼女のライブに行くたびに感じてしまうが、実際には幕切れのない毎日が続いていく。むしろダイヤモンドみたいな日は少なくて、それ以外の1日1日を生きてくのが僕も皆も大変である。だからこそ今この瞬間を残さなくてはいけない!という気持ちでこんなブログを記録するのだろう。いつでも好きな場所に帰って来れるように。

いつだって We are all right!
誰も味方がいない日も
味方になれるそんな歌を歌って

「誰も味方なんて居ない」と錯覚した日に暖かい言葉やエンタメを届けてくれた“好き”や大切な人が水瀬いのりさんの中には沢山存在している。今度は自分自身が誰かの味方になるんだという歌である。まるでヒーローのような頼もしさ、友達のような親しみやすさを彼女は両腕に抱えながらリスナーと向き合ってくれる。

あの日、蕾が開きました。
青い、海を目指し漕ぎ出し
いつか、虹の向こう
瞬く光見つけて
ー未来のわたしは今日のわたしと歩いてる
楽しかった出来事も 眠れなかった夜も

4枚のアルバムをリスナーは思い出すだろう。いやあ本当良かったよね。例えばハロホラツアーの時ってライブは良かったけど、地平線を見つめて何を目指し今後どんな風に変化するのかまだ先が全然見えなくて大丈夫かなと思ってた。

君の大好きが 君になる
未来のわたしは今日のわたしと歩いてる
楽しかった出来事も 眠れなかった夜も

飾らない言葉、まっすぐに平等に届く言葉、わかる人にだけ届く言葉ではない。そんな風に彼女は歌詞について語っていたけどその通りだと思う。

本当に色々あって本作聞くと全部繋がったなって思ってしまう。未来の水瀬いのりさんは今日の水瀬いのりさんと歩いてる。未来の僕は今日の僕と歩いてる。ずっと歩いていきたい。
何も知らない外野の声、昔のファンの声とか無限に聞こえてくるけどマジで関係なくて、彼女はやっぱり誰とも争わずに「好き」を繰り返すことで水瀬いのりと言う人間を作って勝ち取ってるなあと強く感じる。

曲展開に目を向けると1A→1B→1サビ→C→2サビ→間奏→D→落ちサビ+大サビになってて、つまり2番ABを抜いてるんだけど最近の水瀬いのり楽曲は結構メロ抜いたり、いきなりサビに飛ぶことが多い印象である。本作の新曲群も普通に1番と同じメロを繰り返すだけの2番がほとんど存在しなくて、「もっと水瀬いのりさんの歌を魅力的に見せる為には何をすべきか?」という試行錯誤が行われてることがわかる。

2.フラーグム
はい出ました。水瀬いのり=Mr.Children説、久々の再浮上ですね最高。俺は待ってたよ!!

特大ファンタジーに誘い込むようなイントロ!サビの歌回しやワクワク感が似てる!!少し似てるだけなんだけど!!!…めちゃくちゃ思い出しちゃったな。全体的な進行とか目の前にキラキラのストリートが現れて駆け抜けてる時のスピード感がかなり近い。

と言うのは異端の感想なので客観的な視点を書く。先行配信されたリード曲であり、10月から始まる魔法少女アニメのタイアップが付いてる。変身するような導入はその為であるがめちゃくちゃキレイで好きだ。ストリングスがね、この曲もめちゃくちゃ優秀である。ボーカルがメロディを手繰り寄せながら繋いでいくのが本当に綺麗だと思うしBメロが水瀬いのり史上最も美しい1つでもある。基本的にストリングスを聞かせるための軽いアレンジを取っているが足し算と引き算を繰り返しながら特に間奏はしっかり派手なギターを聞かせることでメリハリをつけてる。バンドメンバーの顔がしっかり見える。

全体的なメッセージ性は作品に寄り添ってるんだけど、普段から自分の“好き”を恐れず自由に発信している水瀬いのりさんの思考や姿勢を描くことでタイアップ楽曲としても、“水瀬いのりの楽曲”としても非常に魅力的な仕上がりを両立させている。数分前に「君の大好きが君になる」って歌ってた所に繋がってくるのも上手いなあと思う。

だって
特に秀でた才能も地位も名誉も持ってないし
模範的な回答しかできないよ…
それでもいい あなたがいい” と言ってくれたから ずっと

カノエラナさんの歌詞の解像度高すぎて水瀬いのり像がクッキリ見える。いのりさんは自分の事を「普通の人と何ら変わらない一般人である」と昔から繰り返してる向きが強くて、ここのフレーズはそれを体現するものだなと感じる。年々やっぱり普通に日本で暮らしてる普通のアラサーの女性の1人なんだなという理解が追いついてきた。それが良いんだよな。

小さい頃 描いてた憧れには
程遠いかもね だけどいいや
もっと好きになれるもの見つけたから
遠回りも悪くなかったよ
ー君は君でありのままでいて
ちゃんと見てるから

聞いてる側も36歳とかなんで「夢叶えた?」とか聞かれても正直困るし泣きたくなるんだけど、少なくとも仕事もやりたくないことはやってないし面白みも感じてる。幼い頃から吃音持ちで人と話すの苦手だったけど今は人と話すの好きすぎて楽しくなった。自分の障害のことを書くのは今でも簡単じゃないけど素晴らしい音楽を聴いたから良いよなって。そう言う気持ちにすらなる。だから結構なりたかった自分になってるはず。ごめんね自分語りして。
何よりこの歌詞を見た時に「水瀬いのりさんって言う好きな人、音楽を俺は見つけたじゃないか!」と思った。これはどんなファンも全員が同じ気持ちになれるし、集めたら超スーパーウルトラ強い力だよね。

そして憧れを追い続ける中で「私は私らしく私のままで良いんだ」と思い続けるのは簡単なことではない。背伸びしたり真似したり自分が何者なのかわからなくなる。

先日、尊敬する水樹奈々さんの冠番組にゲスト出演した際には「私は水樹奈々にはなれないんだと昔気づいた」と言う想いを吐露していた。glowから一気に飛躍するのではなく、ひとつずつ積み重ねてキンスパでは奈々さんとデュエットして夢中で好きを追いかけて…今改めて水瀬いのりさんは誰の真似でもない水瀬いのりさんとして立っているのである。

水瀬いのりさん「私にとって奈々さんは推しではなくリスペクトする存在という言い方が近くて。とはいえ、この曲の中で歌っている好きの気持ちは、私が学生時代に奈々さんに抱いていた気持ちとシンクロするもので。私は奈々さんがいてくれるからこそ頑張れたこともたくさんありましたし、奈々さんの音楽やライブ、アニメに癒しと感動をもらって、今この業界にいるので、そういった気持ちはこの曲にすごく入っています。」

https://realsound.jp/2024/08/post-1759637_2.html

夢と現実の狭間で揺れ動く、しかしその“ゆらめき”が放つ輝きに僕らは魅了されてきた。そんな水瀬いのりさんだから好きになったのである。やっと掴んだ光の先に見えた境界線に丁寧に挨拶を交わしたあの日が今日に繋がる。だから今の彼女は「どんな敵にもハロー」できるのである。

繰り返すがタイアップソングとして、ポップソングとして、水瀬いのりさんを魅力的に見せる楽曲として、夢と現実の間で揺れ動く美しさを描いた名曲として、推し活応援ソングとして完成させたのが本当に素晴らしい。早くライブで聴きたい。

新たな場所に向かう背中を後押ししたシングル2曲の必要性

続いてシングル群の解説へ。明らかに作品内では浮いているものの収録せざるを得なかった経緯などにも触れる。

3.スクラップアート

夢と現実の狭間を泳いで辿り着いたリスナーに「どうしてここにいるの?」から始まるの現実過ぎて怖い。本作は短編集のようか扱いで聞く前提であって前後の曲との関連性は考える必要はない。しかし考えてしまう。どれだけ“好き”を叫んで生きても「私はどうしてここにいるんだろ?何してるんだろ?」って思う日は必ずあって…そんな時間をちょっと思い出すリアルがある。

雨上がり 遠くの雷鳴が幽かに響く
傘を閉じ 道路引き摺って闇に刻んだ
星占い 濃霧のガード下 千切れたフィラメント
夜の隅 信号を待つサイレン

街の情景描写を表現する為にだけ複数の名詞を置いて体言止め、その後心情描写に繋げる手法大好きオタクです。ミスチルのAnyを聴いてください。

バキバキデジタルロック、ジェットコースター的な展開とスピード、エグいベースと打ち込み⇔生ドラムの共存に擦り切れそうなボーカルがバラバラの個性を持ちながらミクスチャーされていく感覚、その全ては何故か調和している。ジャケットのコラージュ感や種類の違うお気に入りを1枚に集めると言うコンセプトはここから来ているのではないか。

「擦り切れそうなボーカル」と表現したものの昔のように無理矢理発声しているのではない。glowを聞いた時はもうこのテイストは封印するのではないか?と思われたが形を変えながら再び辿り着いた。昨年のツアーではトラエタ、そしてidentityを披露し喉に極力負担をかけない今の歌い方でも新しいスタイルで激しい曲調を乗りこなせる事を証明していたが本当に驚いた。

君がどんなに錆び付いて 未来を歪めようとも
正しさの逃げ場所を世界が奪うなら
手を離さないよ

サビ、フラーグムとは違うアプローチで「私は君の味方だよ」と言い切るようなクールな表情がたまらない。この後の引き算、低音特化した2番Aメロから乱れた呼吸のようなコーラス→2番サビにぶっ飛ぶ展開は何回聞いてもスリリングで好き。

どうしてここにいるの 傷跡辿って来たんだよ
どうして泣いているの 見えすぎた声を癒したよ
どうしてそばにいるの 巻き込まれたくているんだよ
どうして手をにぎるの 汚れが混ざって光ったよ

涙のふるさとの藤原基央みたいなこと言い出すラスト、どんどん熱と時間感覚が加速していく。きっと僕も何かの傷を辿った時に誰かや、水瀬いのりさんを求めた。そしてこれからも巻き込まれたい。良いことばかりじゃなくて汚れても君といたい。君といたいのである。

4.アイオライト

スクラップアートに続いてこれまでになかったタイプのシングルが続く。ゴシックなムードが強いがおそらく彼女が敬愛するセカオワからインスピレーションを受けたのではないかと思われる。

MVの雰囲気、パントマイムのようなダンスまでかなり引用している。Wonder Caravan!における“炎と森のカーニバル”引用、またメロフラ内でsilentを紹介したことから考えてもセカオワ好きで間違い無いだろう。ディズニー的なファンタジー世界を描くことが多いバンドではあるが彼女の趣向と重なる部分が多いと思われる。

基本的には延々と後ろで鳴り続けるピアノと怪しげなストリングスに音色の全てを任せながら生のベースで重厚さを保ちつつ、そこにあえて打ち込みのドラムを乗せることでビートが目立つタイトなトラックに仕上がっている。非常に好み。
曲が進むにつれて少しずつボーカルの熱量が高まり、サビを繰り返すたび水瀬いのりワールドに没入していく快感が走る。ライブで聴くと本当に奥深い音だったので来月のツアーも楽しみで仕方ない。あとアウトロのストリングスで終わるところめっちゃかっこいいよね。

て言うかそもそもアイオライトってなんだっけ?

AIによる解説

なるほどね、進むべき道を示す歌だね確かに。
貞操観念や誠実さの意味もあると。水瀬いのり=初期3枚のアルバムのイメージこそが特定のリスナーにとって正しさとして押し付けられた時、そうではない私らしさを私は求めていくという歌にも聞こえる。

すれ違っていく人混みの中で
照らした月の明かりに迷って
何度も願った夜の向こう
弱い自分 嫌った記憶
あれもこれも「僕」だった
どれほど探し続けても
見つからないその「答え」は
何千と何億の時を越えて
「孤独」と寄り添った

glow後の次の一歩を踏み出すにあたって改めて過去と今を整理する必要があったわけだが、彼女が選んだのは過去を否定しないことであったように思える。そして孤独という生き物と向き合い、共に生きることが水瀬いのりの音楽を待ち望むリスナーと向き合うことだと理解している。

アイを祈る 光る菫青石(アイオライト)
この全て 心刻み付けて
鼓動がどれだけ辛くとも
「それでも、それでも!」
僕が謳う 喜びも痛みも
望むなら この手抱き締めて
答えはどこにも無くたって
「それでも、生きるよ」

辛くても痛くても、それでも、それでも生きたいと願い祈りながらアクションを続けた。それこそが今に繋がることを水瀬いのりと言う本能は知っていたのだろう。水瀬いのりと言う道をここからもう一度歩き出す。決意表明が強く響く。

さてシングル2曲がアルバムの流れをぶった斬るように続いたわけだが、やはりこの違和感を口にしないわけにはいかないだろう。

僕は色々考えたけど結論としては上記ツイートだった。そしてこの想いがアルバムを何周も聴くたびに強く強くなってきたのである。むしろスクラップアートとアイオライトが存在しない姿を想像できなくなった。

水瀬「glowリリースとツアーを経て、なりたい自分の片鱗をつかみかけた状態だったので、自分の幅を拡張するいいタイミングでもあったんです。」
◆何をしてもブレない自分の核、みたいなものができたのかもしれないですね。
水瀬「だからこそ、今まで通りじゃないことをしたほうが意味があるんじゃないか? という気持ちはありました。そんなときに『デッドマウント・デスプレイ』のタイアップのお話をいただいたので、巡り合わせだなと。今までの私にはなかったジャンルに挑戦できる! その背中を押してくれる作品だったので、これは全力で乗っかろう! と。作品に染まった1曲を作りたいと思い、制作に臨みました。」

https://www.tvlife.jp/pickup/565643

glowリリース時に堂々と自分のアイデンティティや歌い方の更新を言葉にした彼女の姿が今も忘れられない。とは言えまだ内心恐る恐る踏み出した一歩のように見えた。ツアーやアルバムの感触を確かめながら、それこそ「私が本当にやりたいことは?」と言う問いに改めて向き合った時に舞い込んだタイアップ。乗っかって大正解。このきっかけがなければ本作に辿り着くのはもう少し時間がかかった、あるいは存在しなかったかもしれない。

そう考えた時にやはり収録せざるを得ないと感じた。シングル2曲+アルバム曲こそが今の水瀬いのりさんそのものなのである。ここに存在するのは伝わりやすい水瀬いのりではなく、今伝えたい水瀬いのりなのである。「私がやりたいからやる。そんな私を好きでいてほしい」と言う想いなのである。メロフラ310旗で語られた「私が1ヶ月後にピンクの服しか着ていなくても『私が私であること』を好きでいて欲しい」を思い出す。僕はその姿勢を応援したい。
きっと去年のツアーとは別物かもしれない見せ方を期待してしまう2曲、楽しみにしておく。

アコースティックツアーがもたらした穏やかな環境、音楽と共に歩く水瀬いのりと僕ら

続いて5、6曲目の新曲についての感想を書く。

5.ほしとね、

すず虫の鳴く声から夏を超えて秋が舞い降りる。環境音を入れる手法もセカオワ(treeと言うアルバムで何度もあった)からかもしれない?と感じた。アコースティックライブを聴いた時「環境音と水瀬いのり!!」とか独り言こぼしてた伏線回収されましたありがとうございます。

いやーまじでこのサウンド手に入れてこの丸みのある声で歌ったのは大きいと言うかずっと待ってた楽曲だった。最新インタビューでボイトレに通ってたことも明かされたけど本当昔のままだったらこんな曲絶対出てこなかったから嬉しい。

みんなすきなやつ。
言葉ひとつひとつ、音の一粒一粒が近く聞こえるのも良い。国宝級良い声だわ。

ねえ星夜 あなたは知っていたの?
私の歌と想いの全部
口ずさむのは未来のこと
これまでに手を振るように
OK 気ままに Music
軽やかな風浴びて Starry
私が理由じゃない? 歌の鳴り止まない世界で
ーねえ星夜 あなたは見ていたの?
私の涙 弱いも全部
思い出すのは君とのこと
あの日から褪せずに残る 輝いていて

お天道様は全部見てるんだぞ??ってやつですねこれ。星と音…水瀬いのりさんの楽曲って花とか空、風、海、人間以外の生き物や自然の概念が結構出てくる印象があって何気ない毎日の風景と地続きの希望や絶望がそこにあるのがすごく良いなと思う。それを彩るBGMとして音楽がしっかり存在していて、まさにWe are the music!!を再び実感させてくれる言葉選びが素晴らしい。しかもそれらを証明するのが「私が理由じゃない?」だからね、本当に良い歌詞だなと思う。

一人で泣いていても 進んでいく運命は
このまま音に乗って

わかる〜!!悩んでても泣いても笑っても何やってても音楽と共に行き着くところがあるんだよなあって。だから好きな音楽聴いて笑ってれば良いんだよ。
自分の話なんだけど僕がここ半年くらい大切にしていることはいくつかあって、ひとつはその日の気分や天候に合った今1番自分が聞きたい音楽を選ぶってやつを続けてる。今回みたいに聞き込みたい新譜が出て来た時は仕方ないにしても毎日そういうこと考えてる。で、これを繰り返してるとめちゃくちゃ心身調子良い。今日ダメだなって時は自分に合う音楽を選べなかったんだなと思うくらいになった。だからこの曲聴いた時すごくわかるなと。音楽好きな人って生活を音楽と共に歩いててその感覚を歌に出来てる。

弱音は歌に隠すわ そんな私を見ていて

これも結構すごいこと歌って終わったなあと思う。一見するとネガティブな表現だけど「歌の中では本音で話すわ」って意味になる。声優業も相変わらず順調だけど、演技すると言う部分が強いから歌手とはまた違うと思う。自分の言葉や思いを届けられる機会としてはラジオや色んなインタビューもあるけど、音楽を自分を曝け出せる大切な場所として取り扱っていて弱い部分もちゃんと見せるんだぞって覚悟が見える。そんな私も好きでいてね…って話に再び繋がってくる仕掛けになってて本当に好き。

「そんな私を見ていて」はフラーグムの「君は君でありのままでいて ちゃんと見てるから」と対になってる。ここ繋げると今一度まっすぐリスナーとの対話を重ねていく水瀬いのりさんと目が合って最後にドキドキしたり泣いちゃう。もうね、マジでいい曲。

6.グラデーション

信号機の環境音から街の風景に繋げてくる構成から始まる。

行き交う人波
家路に急ぐ数えきれない足音
ひとり ひとり
生活と退屈を抱えながら
ぼやけた街にとける
明日もまた 繰り返し 繰り返し
このままでいいの?
いつまで続くの? なんて
答えのない言葉まで吸い込まれて

路上ライブを想起させるアコギ、ピアノから音楽と日常が重なっていく展開は“ほしとね、”からの延長線上に見える。こちらもglowの時には出せなかった質感で、冬の窓ガラスに息を吹きかけるようなブレスの響きがたまらない。

朝から夜に向かう、あるいは夜から朝に向かう空の色と変化し続ける心模様を重ねていく。生活と退屈を繰り返す。同じような日々が続くこと、本当は幸せで大切なことなのに悩んでしまう。何もかも真っ暗に思えるほど絶望してないが、まさにグレーなグラデーションに塗りたくられた帰り道の情景をイメージできる。

今日がまた昨日の焼き直し、明日からは明日こそはと誓えども明日はまた今日の焼き増しだったり…と歌った曲を思い出した。

淡々と続く日常のリズムが少しずつ変化していく音作りをしている。1:49からのポエトリーリーディング(全然もっと長くても聞ける!)と重なる星屑のようなギター→リバーブがかかったドラムが鳴り響く間奏がもう好きすぎて…そして3:17からの音についてメロフラでは「ギター3本入ってて未来へ向かう2本のギターと過去を回想する1本のギター(逆再生)になってる。これによって現在、未来、過去が混ざり合ってグラデーションとなる」的なエモい解説があったんだけどココはマジで技法も発想も天才的だと思う。

ひとつ ひとつ
時の砂の上重ねた
まっすぐじゃない足跡
不器用でも わたしらしい気がしたの

夢に向かってまっすぐ歩いてきた成功者でもないし、皆の期待にばかり応えて敷かれたレールの上を歩いてきたわけではなくて自分の足で自分らしく歩く。それは誰かから見たら繰り返しのように見えても、きっと違う。そんな自分の小さな変化を日々からちゃんと掬い上げていきたい。そんな人生をこれからも彼女には歩んでもらいたいし、もうだめだなって時は休憩してほしい。僕もそんな感じで歩いていくので。

朝へと向かうグラデーション
「いつか」の先のディスティネーション
永遠なんてないけど 歩きつづけなきゃ
大丈夫 今はまだまだ道の途中
光の中で深呼吸

再び歩き始めた旅の途中、水瀬いのりと言う物語は特定の目的地を持たずにこれからも続く。

ジャパニーズポップスと水瀬いのり最新版誕生!!大名曲に全てが帰結する

アルバム最終楽曲について。トンデモ名曲の誕生について、様々な観点から語る。

7.灯籠光柱
本作のラストを飾る化け物楽曲、初めて聴いた時「なんやねんこれ」て唱えながらサビで泣いた。

まず最初に思い浮かぶのは日本の祭りだと思う。日本人の中に根付く、身体が喜んで動き出すやつ。ありがちな祝祭感、多幸感でコーティングされているだけの楽曲ならすぐ剥がれてしまうのだが(本当によくある)これは中まで味が染み込んでいる。椎名林檎さんの“長く短い祭り”とかサカナクションの“夜の踊り子”のような夏祭り系ジャパニーズポップスの系譜すら感じる。

イントロは二胡?なので中国ぽい要素も入りながらEDMのリズムパターンが裏で鳴ってる。この時点でちょっと変な曲だなという印象になる。音数は序盤は少ないが徐々に音を足していく展開がとても気持ちいい。
Bメロからは全体的なリズムをサンバで作り上げているが底抜けに明るいというわけでもなくインドぽい音色、ホイッスル、水瀬いのりと言う土地に息づく精霊を讃えるようなコーラス(ガヤも含めて全部いのりさんの声らしいからすごい)をバックにサビが進行しながら少年のようにイノセントな歌声が全てをポップスとしてまとめあげる。

これは最近好きなキューバ音楽をベースにしてる若いバンドなんだけど、ここらと結構関係性深いのではないかと思う。自分が勝手に好きで聴いてる曲と繋がる要素が水瀬いのりさんの中にも入ってるだなんて思わないじゃないですか、やばい。

コーラスやピアノに着目して聞くとボーカルが裏でなっているようにも聞こえるし、他の楽器を主軸として聞き直しても面白い。何回でも楽しめる。そして聴いた時に様々な要素が何故かひとつに整理されているという事実に驚く。

これは水瀬いのりさんの楽曲でありながら、声優アーティスト楽曲が持つ雑食性とリンク性(幅広い視野を持ち続けトライした)を最大限に活かしてジャンルの違う音色の共存、多様性の世界を“祭り”と言う概念で抱きしめることに成功した素晴らしい音楽だと思う。もう1人の音楽好きとして単純に興奮、感動した。このおもろい曲アリ??

春空を初めて聴いた時に「上手いとか下手とかじゃない。なんて可能性に満ちた無邪気な歌声なんだろう?この子はいつか本当にもっとすごい歌を歌うかもしれない」とずっと思っていた。何というか聞けば聞くほど日本の代表的かつ第一線に立つミュージシャンだけが持つポップスを操るオーラが溢れ出ていた。僕が勝手に思ってるだけの話なのだが。良いじゃないか好きなものを好きに語って…何も過言だなんて思ってない。それくらい水瀬いのりさんが持つ歌声、アーティスト性に僕は魅力を感じているだけの1人のファンなのである。

このテンションのままでは多分後3万文字くらい書いてしまうので方向性を変える。

水瀬:「燈籠光柱(とうろうこうちゅう)」という曲名は、海に浮かぶ漁船の光の帯が柱のように見える「漁火光柱(いさりびこうちゅう)」と、灯篭流しの光が柱に見えるという2つの「光柱」を合わせた言葉になっています。光の柱が「私たちのこれからの道になっていく」というイメージのもと作られた曲になっています。これまでの葛藤や過ごしてきた時間、「これからも一緒に過ごしていこう」という約束が歌詞の中で表現されています

https://numan.tokyo/feature/eubc7psc/#

普通の人には出てこない発想だなと思った。数々の名曲を手がける柳舘周平さんが、水瀬いのりさんや彼女を取り巻く世界をテーマに書き上げているがコンセプトが出来上がりすぎてて横転する。色んな考察も見てたんだけど光柱=ペンライトと捉えるのが正解みたいで、まさに柳舘さんから見た水瀬いのりワールドやライブ会場は我々が光の柱を振り回しながら祭りを楽しんでいるように見えているらしい。そこに様々なファンが存在することを想像すれば、多種多様のサウンドが1曲の中で鳴り響くことにも合点がいく。

我を忘れた酔い病みの煙に
呑み込まれそうになっても
私たちは信じていた 信じている 信じていく
紡いできた想いを 続けてきた祈りを

やっと歌詞についての考察。祭りと聞いて騒げれば何でも良いという輩も当然出てくるし、騒げない祭りなら参加しない…あるいはぶち壊してやろうと言う輩さえ見てきた。僕らはそんな物には決して支配されない。ただ純粋に水瀬いのりさんを信じているから。水瀬いのりを続けてきた水瀬いのりを信じている。この祈りを音楽に捧げる。

星空を見上げるたびに 
私たちは思い出すでしょう
街並みを見渡すたび何度でも
長く長い日々を
祭囃子 注ぐ火花で 思うように進めなくても
逸れないさ これまでの道が謳う
長く長い距離を

喜びも悲しみも迷いも、その全てを見下ろしていた星空と踊る。そこには水瀬いのりさんがいて、彼女を支える家族や仲間たち、彼女を愛するファンが大勢いる。こんな宴ができるなら何度だって悲しみと喜びを経験していきたい。全てを音楽と人生の糧にする。時には孤独を感じたとしても、1人きりになることはない。何故なら光の足跡を辿ればお気に入りの場所にいつだって帰れるから。これから先も、どれだけ長い距離を歩いても変わらない事実。1曲目で彼女はそれを歌っていたのである。

振り返れば静かに旗めく
旅を続けた証がまだ
謳い奏でていく
私たちの想いを 私たちの祈りを
星空を見上げるたびに 
私たちは思い出すでしょう
街並みを見渡すたび何度でも
今 今 目にして聴こえる全部 
匂いも熱さもすべて

遠い約束の歌、深く刺した旗が揺れる。熱狂の渦が鳴り止まないまま楽曲は終わる。これ本当にライブで聞いた時どんな風になるのかなって何度も今想像してしまう。その空間に流れる匂いも熱さも全部、どんな風に感じられるか楽しみで仕方ない。

これは光柱=ペンライトがほぼ確である以上絶対にないと思うんだけど、いつか見たい。この曲を聴いた時に思い浮かんだのはロックフェスの1番でかいステージ、深い夜だった。何万人と言う客がステージの上の水瀬いのりさんたった1人とバンドメンバーから溢れ出す音楽で踊り狂う姿。今まで自分が彼女の楽曲を聴いて想像した中で1番デカい場所だった。そんな妄想すらしてしまう。夢はデカい方がいいだろ?夢見よう。

そんなわけで水瀬いのりさんを追ってきた中でも史上最大の夢を見せてくれた傑作でした。
総評としては本当に色々あった旅路を今まで続いてる物語として繋げつつ、水瀬いのりさんが自由に自分らしく生きられる作品…glowの続編のようなコンセプトでやり切ったところが素晴らしいなと思う。これと同時に人間を構築し突き動かす“好き”の気持ち、お気に入りを溢れんばかりに詰め込みながら昨今加熱する推し活云々議論に現代的にも向き合っている…奇跡みたいに色んな長所が肩を組んで仲良くしてるアルバムだなと思う。

さて、いよいよツアーが始まるわけなんだけど…果たしてどんな仕上がりになるのか?色々考えるけどキリがないからアルバムを聴き込んで聴き込んで楽しむこと考えて向き合おうと思う。

水瀬:水瀬いのり応援マニュアルとかないですから!(笑) 人と違う応援スタイルだと浮いてしまうとかもないですし、私の中では「ファンのみんなと私」ではなく「応援してくれるあなたと私」という関係だと思っているので。あまり「みんなが」「周りが」と意識せずに応援してくれるほうが、お互いに良い距離感、良いペースで活動を続けられる気がします。あなたの推したいように推してもらうことが、私にとっての幸せ。お互いに無理せず頑張れたらと考えています(笑)

https://numan.tokyo/feature/eubc7psc

僕は水瀬いのりさんとその音楽に出会えた人生を今後も自分のペースで続けて楽しんでいく。好きなものは色々他にもあるし、もっと色んな音楽を聴いていくと思うけどその中でも彼女はやっぱり特別なひとつ。こんなに楽しめる物に出会えてラッキーです。でもみんなも無理はしないように。最後まで読んで頂きありがとうございました。

お気に入りのマイルームです!



-----------------------------------------------

SNSと言葉について

はい。アルバム聴き終わったので、ちょっと振り返ってあの日の話を改めてするよ。以下アルバムの感想ではないため読まなくても大丈夫です。

と言うわけで相変わらずと言うか長文で駆け抜けてまいりました。ここまで飛ばしてでも読んでくれた方すごいと思います。
書いてる途中でインタビューが何本も出てきて読み込んだり、最終的には考えをまとめられなかった部分もあります。どのタイミングでアルバムの感想を書くのか?改めて難しいと感じました。

振り返ればスクラップアートツアー、町民集会、アコースティックツアーと本当に楽しい時間を過ごした昨年下半期〜今年序盤でした。

しかしインターネットの闇に巻き込まれるあの事件が発生し、改めて推しとは何か?自分にとって水瀬いのりさんとは何か?を考える機会にもなりました。情報を整理しつつも仲間と助け合いながら乗り越えました。たくさんのポジティブな言葉を使ってくれたフォロワー様に本当に感謝しています。いのりさんはどんな気持ちだったのかな?想像しても想像できないです。騒動直後のラジオでは何事もなかったかのように振る舞って、それこそ自分の“好き”を無邪気に語る姿が印象的でした。ファンの声も届いたと思うし、家族や仲間の助けはあったと思うんですが、あの人ちょっと強すぎて心配になります。悪い人が見たら「これだけ強い人間ならもっと酷い言葉で痛めつけても良い」と思うかもしれなくて、絶対にそう言う奴を許せないです。とにかく元気になってこんな素晴らしいアルバムまでリリースしてくれて、今は心底良かったと思います。

割愛しますが2度とあんな思いしたくなくて、これは他の音楽が好きな人、水瀬いのりさんではない誰かを好きで応援してる人にも経験してほしくないなと。その為には我々は憶測だけで他者を傷つけるような言葉をなるべく使わないよう心がけ、間違っても直接ナイフで刺すような引用やアクションをしないよう気をつけることが大切だと感じます。これを読んでくれてる人にも同じ気持ちでいて欲しい。

でも批判するなって話ではなくて、そのあたりは検索避けのワードを入れて語ったり。それこそリアルの信頼できる仲間と通話なり飲みに行って話して全然良いと思うんですよね。僕はも特に事務所関係、その対応は未だに許してないので。いつでも肯定の言葉しか聞こえてこないのも気持ち悪いし閉鎖的な世界になるのが1番嫌なんで。だから素直な言葉を使いながらも傷つけない為にはどうしたらいいかな?って。難しいけどSNS使ってる以上は今後も失敗しながらでも改善していきたいですね。自分もマジで偉そうなこと言えた人間ではありません。

とにかく誰かにナイフを突きつけるんじゃなくて、そんな暇あるなら好きな音楽聴いたり好きな場所に出かけたりアホみたいに長いブログ書いて平和な世界を作っていきたい。僕はそう思います。自分がされて嫌なことは誰かにしない。そんな祈りを捧げ、この記事の終わりの言葉にしたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました!!

いいなと思ったら応援しよう!