夢帰行5
病室にて3
「おめえの具合も聞かなきゃなんねぇし、ちょっと先生のとこ行ってみるわ。」
僅かな時間に自分の言いたいことだけを捲くし立て、仁志に伝えたいことに気が済んだのであろうか。幸江は思い立つとそのままナースセンターへ向かって行った。
病室に残された仁志は、所在なさげに佇む奈津子に
「今日は帰っていいよ。面倒臭いだろ。」
と促した。
奈津子には面白くないひとときが風のように通り過ぎた。
白いミニスカートをヒラヒラと翻し、
「うん。じゃあまた明日来るね。」
と言い残し病室を出て行った。
医者の元へ行った姉に対し、医者は仁志の病状を正しく伝えるのだろうか。
余程悪いか、大したことがない限り、仁志に言ったことと同じ説明になるのだろうと思っていた。
投薬と食事制限だけで治るなら、こんな重病人患者だけの部屋に入れるはずがない。
1週間の入院生活で自分の病気のおよその見当がついていた。
「遙と同じ運命になるのか・・・」
薄々感じる自分の病の感触と遙の危機的状況を重ね合わせている。
そこに後悔はあるのか、自分にも整理がつかないでいる。
「俺だって心配してたんだ。」忘れていた訳じゃない。
重病の子供を置いて離婚し、新しい若い女と遊んで暮らしている。
周りの人は思っているのだろう。姉の幸江も実家の両親もこの事実を知る人は、そう思わずにはいられない。
だがすべて別々のことなのだ。
仁志が清美と結婚したのは、妊娠したからだが、それはきっかけに過ぎない。清美が大学を卒業したら一緒になろう、と考えていた矢先に妊娠しただけのことだ。
結婚生活は、清美の望む形であったはずだし、それなりに幸せだった。
ところが、やはり遙の病気がきっかけで二人の歯車が嚙み合わなくなってしまった。生命に関わる病気に対する認識の差、対応する二人の温度差。
結婚生活を続けていく基準が悉くずれてしまったのだ。
それを一つ一つ説明することは、言い訳にしかならず、理解を得られないと思っていた。家族には結果だけを伝えておいたのだ。
慰謝料も養育費もきちんと取り決めたし、支払っていた。
大人の責任は果たしているつもりだった。
だが世間は、病気の子供いながらなぜ離婚したと非難する。
それにどう答えれば正しいのか、仁志は答えを持っていなかった。
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