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昭和奇譚「The GREAT PRETENDER」 EP1「ロック・アラウンド・ザ・クロック」
『1962年の夏、あなたはどこにいましたか・・』
私のオールタイムベスト、若者たちの一夜を綴った名作
「アメリカン・グラフィティ」。その劇中に流れる数々のヒット曲をイメージし、創作したショート・ストーリー
~One, two, three o'clock, four o'clock rock!~1,2、3時、4時ロック~~・・~Nine, ten, eleven o'clock, twelve o'clock rock
9,10,11時、12時ロック・・~We're gonna rock around the clock tonight~・・今夜は通してロックンロール~♪・・
ブラウンのコンポラ・スーツに、白のピンホールシャツ
ゴールドの極細ナロータイ。
これがユキオの最上級お洒落スタイル。
土曜日、「VIVA・YOUNG」は午前3時まで営業(やって)いる。
既に満ぱいだったが、ユキオはどうにかテーブルに着くことができた。
店内は日本人バンドが、フィリピンバンドとの引継ぎ曲
「グリーン・オニオンズ」を演奏している。
ジン・トニックを注文し、近くのテーブルの同級生らや、その向こうの先輩らに挨拶方がた、フロアーを見渡し”お目当ての女性”を探してみる。
ディスコにハマっているユキオは、週3でこの「VIVA・YOUNG」に
通っていて、近頃ちょくちょく見かける”その女”を今夜こそ
”ものにしよう”と企んでいた。
引き継がれたフィリピンバンドが、ビルヘイリー&ヒズ・コメッツの
「ロック・アラウンド・ザ・クロック」を演(や)りだす。
フロアーに踊りに出た客は10人程度。
ロックンロール曲は他にも、キャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」なんかがバンドのローテーションに入っているが
今はソウル・ステップが全盛、なのでユキオもまだフロアーには出ていかず、最近覚えたジン・トニックをチビチビやりながら様子を覗っている。 と・・
「いた!来てる!」
フィリピンバンド、ボーカル野郎と一緒にツィストを踊っている。
まっ赤なメンズジャケットを羽織り、ネイビーのチルドレンニットセーターにグリーンタータンチェックのミニスカート。
フロアーは薄暗くミラーボールの反射光程度だが、バンドのプレイする場所はライトが照らされていて、ネイビーのソックスやグレーブラウンのサドルシューズまではっきり見えた。
間違いなくユキオの”お目当ての女”だった。
フィリピンバンドの連中はやたらとモテるし、ちょくちょく”お持ち帰り”もするのでユキオはヤキモキしだした・・。
同級生がユキオに(行けよ!)と顎で合図をしている。
曲がテンプテーションズの「ゲット・レディ」に変わった。
振り付けのある大人気曲なので、ドッと客がフロアーに飛び出していく。
ユキオも続いたがイモ洗い状態でなかなか目当ての女に近づけない。
女はフロアーの真ん中まで来て踊っている。
踊りも適当に少しづつ近づく・・、
だが女の元には男どもが1人また1人と踊りながら寄ってくる。
女はフロアー1人気を集めているようだった。
踊りも適当になんとか女の向いまでたどり着くユキオ・・。
軽いパーマをかけた髪をおさげにし、化粧品のCFモデルのような切れ長の目をした美形・・ 目が合った・・!。
すかさずボーカルの唄に合わせ「Sо get ready~♬」
「get ready~~!🎵」と唄いながら両指で女を指す仕草、続けて
「今日もひとりなの!?」思い切って声をかけたところで次の曲
「可愛いひとよ」のイントロが流れ出す。
フロアー全体がさらに盛り上がる・・ と、
リーゼントにTシャツのガタイのいい男がユキオを押しのけ女と向かい合って踊りだした・・
(あ・・!)・・、
ユキオの「可愛いひとよ」の振りが固まる・・。
ブラックジーンズを腰まで下げたその男はオカモトと言い、ユキオとは3つ年上、町の若者の間では顔役だった。
ユキオは、挨拶に行こうかと思ったが、まだまだそういう連中とは関わり合いたくない、という思いもあり・・止めた。
(くそぉ・・オカモトさんにナンパされたか・・!?)
~♪~可愛いひとよここへおいで~♬~・・・
最高潮に達するフロアー。
この、阿久悠作詞、クック・ニック&チャッキーの歌う、巷でナンバー1のコミカル和製ソウル曲を、
ユキオも2人を眺めながら踊っていたが、気乗りせず、フロアーを背に、
テーブルに戻って行ってしまう・・。
スティービー・ワンダー「迷信」、エドウィン・スター「黒い戦争」、ストリーズ「ブラザー・ルイ」・・
(時間はまだある!)気を取り直しユキオは、他の”目ぼしい女”を見つけにフロアーに出る・・。
数曲ステップを踏み踊りながら・・それでも、ちらちらと女の様子を伺っていた。
女は、かなり酔っているようだった。
曲がプロコル・ハルムの「青い影」になり、チーク・タイムになった。
フロアーは数組のカップルだけが残って踊っている・・。
相手のいないユキオは、またもテーブルに戻ると、同級生らは席を立ち、
ザンネンだな、ガンバレよ、という表情で帰って行った。
女とオカモトはまるで恋人同士のように踊っている。
オカモトの肩に頬を埋め、女は泣いているようにもユキオには見えた。
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