昭和奇譚 「ゆうれい狂騒曲」
「えッ!?ゆうれいが出る!?」
「なになにどこにぃ!?」
わたㇲとおチャがナカジの話に食いついた。
おチャはクラス1の活発娘で、漫画「ハリスの旋風」に出てくるヤンチャなヒロインみたいだと感じ、たわたㇲが付けた愛称だ。
わたㇲら5年2組は結構男女の仲が良い。
今も、昼休みが終わり混合ドッジボールで我がチームのおチャが2回も最後まで勝ち残り、
意気揚々と教室に引き上げてきたところだった。
そのおチャから最後にアウトを食らったナカジが、
「近所にゆうれいが出る」と教室に入りながらポツリと言い出したのだ。
ナカジの家は、わたㇲらの住宅から1キロほど南にある市営住宅で、大通りを隔てた所に町営のゴミ焼却場があるのだが、
そこに「出る」、と言うのだ。
ドッジボールメンバー10数人が、興味津々でナカジの机を囲んだ。
まだ担任は来ていない。
「ゴミの山に登りかけると、ぜったい出てくるんだ!オレも見たし他に何人も見てるんだよ~」
ナカジは運動神経は良く、積極的にみんなと遊ぶ方だが、ちょっと気の弱いところがあった。
わたㇲは何度かナカジの家に遊びに行ってるので、そばに焼却場と大きなゴミの山があるのは知っていた。
「よし!行こう、行こう!みんなで見に行こう!!」
金持ちの家のコで、5年2組のボスは自分だと勘違いしている
ヒサシが、一度昼間に皆で見に行こうと、話をまとめた・・。
とりあえず視察には、わたㇲを含め案内人のナカジ、ヒサシ、おチャ、アカネの5人で行くことになった。
アカネは体形、髪型などはおチャに似ているが、ドッジボールは殆ど外野にいる運動音痴。
性格は穏やかだが探求心旺盛で勉強家、ここぞという時には意見を通すコだ。
わたㇲとは家が近所で保育所も、入学してからもずっと同じクラスで、1,2年生の頃は、連れだって登校した仲だっだ。
町営ゴミ焼却場には家屋が隣接していて、そこの家主が町から委託され作業の一切を行っているらしかった。
稼働始めたのはわたㇲらが2歳の頃で、バッチ式とかいう、焼却炉から掻き出した灰や残骸、不燃物などを家屋の反対側へ廃棄してあり、
3階建て高さほどに積み上がっているその廃棄の山の向こうは森になっていた。
通りから見て、家屋、処理場をぐるっと森が囲み、左右、通りに近くなるほど森から雑木林や桑畑という様態だ。
土曜日で、焼却炉は稼働してない。
なので敷地内には容易に入ることが出来た。
「山に、登ると出るんだから・・!」ナカジはわたㇲらを警告するように言った。
山ゴミは裾の方まで広がっていて膝ほどの高さまであり、電球や蛍光灯など不燃物も多かった。
ナカジが呟きだす・・・
「ここの家の子供がゴミ山で遊んでて・・・」
亡くなったらしい、と言う。
「子供は双子でオレたちくらいだったって・・、そのゆうれいじゃないかって・・。」
「オレの見たのはふたりだった・・・。」
「ひとりのゆうれい見たって人も何人もいるよ・・。」
「ふ・・双子の・・・。」わたㇲはちょっと寒気立った。
「夜、ゴミの山に登ろうとすると山の上から出てくるんだ・・」
焼却炉が止まっていて作業員もいない時には、子供らがゴミ山で遊んだり、夜は”商売”になりそうな物を探しに来るアヤシイ連中もいるようで、
「けっこう”お宝”あったりするんだよね」とナカジ
「お宝か・・!よし!ちょーさ(調査)!」ジャリジャリとゴミ裾に上がっていくボス気取りのヒサシだが、
好奇心旺盛のアカネは、すでに山裾脇の方を見に歩いている。
わたㇲも、恐る恐るゴミ裾に上がってみる・・。
以外に硬かった。
おチャも続くがナカジは上がって来ない。
山裾脇の方から「あっ!」とアカネの小さな声が聞こえた。
「なんだなんだ!」わたㇲらが走り寄ろうとすると
山の向こうから 「ボンッ」 という大きな音がした!
「うわぁッ!」「なんだぁ!?!」一瞬恐怖を感じ、山裾を滑り降りるわたㇲらに、
「ゴミの電球が割れた音だよ」ナカジが事もなげに答える。
「ここでは電球や蛍光灯が、自然に破裂したりするんだよ」
電球が割れると爆発音がするというのをその時知った。
「なんだよぉ~!びっくりした~!!」ヒサシの大声に被せるように建屋の方から
「コラァ!!」
「ここで遊んじゃダメだーッ出ていきなさーい!!」
従業員ぽい大人に怒鳴り立てられ
「やべぇ!」「逃げろ!」
一目散に焼却場の外へーーー・・・。
走りながらヒサシが「よし!明日の夜また来よう!全員集合だ!」
「オッケー!明日また。でも見れるかどうかはわかんないよ~。ンじゃ!」住宅の路地を曲がり家へと帰っていくナカジ。
わたㇲは「「あっ!」ってアカネ・・」何か見たのか訊こうとするが、
アカネは意味あるげに含み笑いし、おチャになにやら耳打ちしたのだった。
次の日の夜ーー
焼却場近くの集合場所の公園には、ざっと数えて30人・・
クラスの男女殆どが集まっていた。
ヒサシが集めたのだが、まだこの時代、電話を引いている家は少なく、金持ちのヒサシがの家にはあったが、脚を使い伝言で集めたのだった。
来なかったコ達は、興味がないか、親に止められたかだろう。
ワイワイガヤガヤと、まるで工場見学へ向かうように5年2組は焼却場へ・・。
入口まで来ると皆静かになり、
ナカジは小声で「山には登ると出るんだ」と言って回っている。
登る役はわたㇲとヒサシになっていた。
山は遠目の入口からの方が見やすいが、道路にたむろするわけにもいかないので、皆、静か~に、静か~に場内に入っていく・・。
アカネはまたおチャに、何やら耳打ちしている。
わたㇲとヒサシがそぉ~と山裾に上がる。
ジャリッ・・ジャリッ・・・
誰かが「あっ!あれ!!」とゆび指す建屋の方から
スス・・とふたつの白い、ヒト影のようなものが山の向こう側へ消えた。
「出たァ~!!」 「ヒェッ」と戻ってしまうヒサシ・・。
ナカジ「ふ・・双子か・・」
「ゆうれい、山の上に出るんじゃないの!?」
ざわつく5年2組・・。
(今のは何だ!?まだ登ってねーぞ)わたㇲは勇気を振り絞り登り始める。
1歩、ジャリッ・・2歩、ジャリ・・
「ボンッ」と
電球の爆発音に、恐怖で抱き付き合い何人かが帰りかけてる。
・・若干の静寂があり・・・
山の向こう側で、シュゥー・・・・と小さな音がして、
てっぺんを見上げると
真っ暗闇に、青白く光るふたつの影がーーーーーーーーー!!!
「キャアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「出たァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
泣いてるやつもいる、怖がりながらも嬉しそうにしてるやつもいるが、今度はだれも逃げようとはせず”ゆうれい”を凝視している。
”ふたりのゆうれい”の前を人魂が漂い
やがて青白い色から白い色に変わり・・・
ひとつの煙になり・・・その中から人影が・・・!!
「ーーーーア・・アカネとおチャーーーー!??」
奇声やどよめきのなかで、
アカネとおチャは、消えかかった沢山の手持ち花火を見せ、振り回した。
二人ともマスクをしている。
山を下りてきながらアカネが
「ゆうれいの正体はコレよ!」
続けておチャも「花火の勢いがなくなってきて、ふにゃら~んと振ったのがヒトダマね!」
「あ~~びっくりしたぁ~~!」
「ホンモノかと思ったぜ~」
「すごーい!アカネ!」
「しんぞー(心臓)止まるかと思った・・」
「双子のゆうれいって聞いてたからナ~・・」
「2人は体形似てるしね~」
「おもしろーい!」
「なんか楽しくなってきたぁ!」
緊張が解けて6年2組は、遊園地の出し物でも観たかのような状態に変わった・・。
”双子”というワードで、
わたㇲも”ホンモノ”に見え一瞬身が縮んだ。
マスクを外しながら裾山をピョンと下りる2人
わたㇲ、「じゃあ、あの時「あっ!」って言ったのは・・」
アカネに訊ねると
「裏の方の山裾に、この花火の燃えカスが沢山あるの見つけたの」
おチャが続けて、「それでわたしたちで”ゆうれい”やってみよう・・って、いちよう(一応)花火とマッチ持ってきてたンよ」
「さっき白いのがスッと山の方に消えたでしよ」
アカネが続けて、「それ!って2人で山裏へ様子見にいったの。
そしたら人は居なかったけど新しい花火が沢山置いてあって・・」
「手持ち花火かぁ~」
「夜だと煙でもゆうれいに見えちゃうだろーねー」
ワイワイ ガヤガヤ・・・
余興の昂奮冷めやらぬまま、ワイワイと5年2組は焼却場を後にする・・。
わたㇲ、「だけど花火を置きに来たヤツはどこへ・・?」
アカネ、「わたしたちの足音で森へ隠れたみたい」
ヒサシ、「でもなんでそんなことやるんだぁ!?」
アカネ「キケンだからじゃない!?」
「山に登らせないように、来させないように・・。」
「本で調べたら”分解したごみから生じる可燃性ガスで火災が発生することがある”って書いてあったから。」
おチャ、「だからマスクも二重にして登ったのダ」
ヒサシ、「でもでも・・そンなら「コラッ」って叱ればいーじゃん」
おチャ、「24時間見張ってらんないしー」
わたㇲ「じゃあ、大人じゃなく・・子供・・!?」
アカネ、「ひとりのゆうれいは発生したガスか、花火の煙がひとつになってしまったのか・・」
「双子って、けんざい(健在)なのかもよー」
「ええッ!??」
驚嘆するナカジ、ヒサシ、わたㇲ・・・
ナカジ、「じゃ・・じゃあオレの見たのは・・・・・」
アカネ、「双子の・・」
「あ・・」
「でも」
「もしかしたらホンモノ・・だったのかも!!」
ゴミ山のてっぺんで、
白い体操着、体操帽、マスクをした”白装束”の双子の子供が
帰途につく5年2組をジッと見つめていた・・・。
***
実は当時、そのゴミ山で、従業員らの居ない時間を見計らって、ナカジ(仮名)達とたまに遊んだ事はあった。
当時はバッチ式とかで(?)燃えないゴミも燃焼を終えたゴミと一緒くたにしていた。
山は固く、電球や蛍光灯も沢山あり時々爆発したりで、キケンはキケンだったが、”お宝さがし”で夢中になったものだった。
私はぶっとい(すごく太い)針無しの注射器を見つけ、「病院にあるヤツだ!すげぇ!」と、家に持ち帰ったら父親に「汚い!危ない!」とこっぴどく叱られすぐに捨てられしまった事もあった。
しかし、幸い誰もケガしなかったし、病気にも罹らずで、その町営焼却場は1969 年に、連続燃焼式のごみ焼却炉 「第 2 事業場」が完成し、廃止された。
隣接する家屋に住んでいた家族と、私と同世代の双子の男の子が居たのは事実でアル。