野良電通のメソッド
いいものをつくれば誰かが見つけてくれる、というのは選択肢が少なかった時代の話で、今は宣伝しなければ選択肢にも上がりません。
SNSでバズって売れたり、重版かかった例もありますが、レアケースなので、それを期待するのは賭けのようなものです。
宣伝を出版社に任せられると思ったから商業誌やってるのに…という気持ちはよくわかるんですが(わたしもほんとにそう思います)、いまの出版社に既刊をマメに宣伝する余裕はないです。やるにしても新刊以外は、売れたものを重点的に宣伝することになるので、まずは売れてください、という無茶振りです。何万部突破、みたいな宣伝を打つには、まず何万部か売れないといけないわけです。
そもそも同人誌の場合、作家が宣伝するしかないです。
そんなわけで今の時代、作家も宣伝ノウハウを知っていて損はないと思います。
(今の出版社に人手も暇もないのはじゅうぶん承知しているんですが、出版社のSNSで作家の宣伝を無言でRTしてくれるだけでも作家は助かるし、やる気も出ると思う…。RTやいいねの1票入るだけでも、その投稿の重みづけが変わるので。もちろん探すのは大変だから、それ用のハッシュタグつくるとか、検索用キーワードを入れるとか、ルールを決めたらいいと思います。運用も、たまにしかできない、たくさんあったときは絞る、とりこぼしたらごめんねでいいし。)
旗艦となる宣伝ツイートをひとつつくればOK
ここでは、X(Twitter)で本を宣伝する場合を例に説明していきますが、応用すれば他のSNSや媒体、コンテンツでも使えると思います。
(Xでは呼び名がツイート→ポスト、みたいに変わってしまいましたが、Twitter用語のほうが概念がわかりやすいので、ここではポスト→ツイート、RP→RTで説明します。「ツイート」という言葉、「Twitterでの投稿」という限定的な意味に使えたので便利だったのですが…)
ひとまず、これだけ見たら本の情報が得られ、その気になれば即買える、というツイートを「ひとつ」つくります。
作家の宣伝は、基本的にこれひとつあればいいと思います。
重要なのは、「必要事項をひとつのツイートに入れ込む」ことです。
もとからそうですが、最近はゾンビに餌やることにもなりかねないので、情報を分散してツリーにぶら下げても、あまり見てはもらえません。
入れるものは、
本の正式タイトル(略さない)
著者名:発信アカウントでわかったとしても、検索キーワードになるのであったほうがいいです。
概要:本の内容がざっくりわかるものや、おすすめポイント、注意点など。タイトルやURLなど必須事項を入れたあとの、残りの字数で言えることだけ書けばいいです。検索キーワードを並べて、「を」や「の」などの助詞でつなげる感じにするとつくりやすいと思います。字数が足りなかったら、画像に入れ込む手があります。
購入できるURL:在庫に余裕があって、直接購入できるところ(購入ページ)がおすすめです。イベントのみ頒布なら省略で。作品や商品ではなく、イベントの告知やお店の宣伝なら、都道府県から具体的な場所を書きます(たまに「お客さんが来ません!助けて」みたいなツイートを見かけるんですが、ぱっと見で都道府県わからないとRTしても意味あるのかどうだかわからなくって、そのまま流されるケース多いと思います。日本は広いので)
画像:書影やPOP、ページ見本など。このあとで説明します。
ステータスや属性:【予約受付中】や【新刊】など。わたしは冒頭に【】で囲んで入れています。【】は目立つので。
重要な情報や理解しやすい情報を先に、購入など最後におこなう操作に関係するものを後ろに、という感じにすると、動線に沿った並びになると思います。
宣伝に時間や労力を割けなくても、これさえあれば、というツイートをひとつつくっておき、思い出したときにRTしたらいいので、楽です。
わたしは、余裕のあるときにそういうものを用意してブックマークに入れておき、タイミングよさそうなところでRTとか、引用で追加情報を添えてRTなどの方法をとっています。負担が比較的少なく、効果的に宣伝できると思います。
情報をひとまとめにしたツイートがあると、拡散を手伝いたいファンや知り合いは、ひとまずこれをRTすればいいというのがわかりやすいです。そのうち買おうと思っている人のメモがわりにもなります。
実際に買ってみておすすめしたい!と思ったときは、このツイートを引用すれば、本についての情報をまとめる必要がないですし。
とくに日本で暮らしていると、自分のつくったものをおすすめするのは、心理的なハードルが高いのが普通です。
とってもスペシャルでナイスな新製品をリリースしたからみんな買ってね!きっと気にいるはずよ!というテンションでお知らせできるひとのほうが珍しいです。
なので、作品のフラットな説明に徹するのが楽です。情報さえしっかり入っていれば、テンション低めでOKです。もちろん、おすすめポイントを考えることができれば、そっちのほうがいいです。
作家さんはここまでやればじゅうぶんだと思います。以降は蛇足です。興味のあるかただけ読んでください。
画像のメリットを活用する
画像があると、文字だけのツイートより面積が広くなるので目に留まりやすく、そこに色が使われていると、目に留まる確率がさらに上がります。
プロモツイートで、画像がついてないものってまずないですよね。インプレゾンビもだいたい画像(動画)をぶら下げています。基本的に、プロモとゾンビを参考にすると間違いないです。
加えて、画像は言語に比べて記憶できる量が多く、記憶している時間も長いという、「画像優位性効果」があります。画像の情報は、非言語システムと言語システムで二重に処理されるので、記憶されやすいんだそうです。
こんな感じなので、もはや画像をつけない理由はないと思います。画像に正式タイトルやキャッチコピー、QRコードなどを入れ込み、画像単体でも宣伝になるようにしておくのもいいのではないかと(つまりPOPですね)。
このあいだ試してみたんですけど、保存した画像の中にあるQRコードからも、サイトにアクセスできます。XはたまにURLを含むツイートの重要度を下げる、みたいな謎仕様になることがあるようなんですが、そういうときも画像に仕込んでおくといいかもしれないです。
素材がテキストしかない場合も、フォントや色などを工夫して画像化したものをつけておくだけでも、記憶に残りやすいと思います。
色の力を使う
色自体に、目を引く/引かないものがあって(色の誘目性)、目を引く色を少し取り入れるだけでも効果があります。基本的に、カラフルなものやコントラストが強いもの、彩度が高いもの(彩度の高い色が少し混ざっているだけでも)が目につきやすいです。
動くものも注意を引くので、GIFアニメや動画も効果的です。ただし、目がチカチカするものや、本題に入るまえの時間が長すぎるものなどは逆効果になりそうです。
目を引きやすいもの
人間は、顔認証カメラのように、顔に注目してしまう性質があるらしいです。つまりヲタ絵みたいなキャラクターイラストなど、顔が入ったものはそもそも強いです。スマイルマークひとつ入っているだけでも違うと思います。最強はアンパンマンですね…
ただ、顔には好みがあるということも、気に留めておいたほうがいいと思います。
その他の人間のパーツも認識しやすいと思います。たとえば手に持って撮影すると、置いて撮影したものより、見てもらいやすいかもしれません。ただし、ネイルのほうが目立っちゃうとか、手の皺が気になるとか、そういう問題はあります。
最近だと、エモい系グラデーションも強いと思います。青と黄色、青とピンクのように、混ざり合ってきれいな色になる組み合わせがおすすめです。ドラッグストアの女性向けのシャンプー売り場を観察してみてください。いまならたくさん見つかります。
Illustratorがあればフリーグラデーションで簡単につくれるので、イラレユーザーの知り合いに協力してもらうといいかも。Photoshopでも工夫するとつくれなくもないです。そのうち素材化してBOOTHに置いとこうかなとも考えています。
↓BOOTHに置きました。
内容説明や使いかたなどはこのnote↓に。
現実世界とのつながりをつくる
宣伝につける画像で、紙の本なら、写真を撮るという手が使えます。
写真に撮った紙の本というのは、強い引きがあります。
新刊を出したとき、「買ったよ」って写真つきでツイートしてくださる読者さんがたくさんいらっしゃるのですが、これをやるにはそれなりの手間がかかるのに、ほんとにありがたいと思っています。他薦は本人のツイートより何十倍も響くんですよ。
電子しかない場合は、iPadなどに映したものを撮影してもいいと思います。
とにかく現実に存在するものは、認識しやすく、印象に残りやすいです。
ネットプリントなど、コンビニで印刷できるサービスを使って、ペーパーやイラストカード、ステッカーや掛け替えカバーなどを配布するのも、現実とのリンクという点で有効なんじゃないかなと思っています。隅に宣伝やQRコードなどを入れておけば、情報を手元に残せます。
これまでにつくったネットプリント本はこのnote↓に。
構図と数の工夫
Xの場合、画像を4枚あげると高さが最小限になるうえ4等分されてメリハリがつかないのと、めんどうなので結局どれもちゃんと見ない、という結果になりやすいです。トリミングされるので、大事な部分が欠けることもあると思います。
どうしても4枚入れたいときは、見せたいものがそれぞれ画像の真ん中にくるようにするといいと思います。
3枚の場合は重要な画像をひとつめに置くと、最も大きく表示されるようです。
思い切って1枚に絞ると面積が広くなるし、縦長でもそのまま表示されるので、ちゃんと見てもらえるかもしれません(このあたりは仕様が変わることがあるかもしれないですが)。
投稿の時間帯も有効活用
SNSは、時間帯で人口が変わります。
見てもらいやすい時間帯として、よく挙げられるのが、朝の出勤時間帯、昼のランチタイム、帰宅から就寝までの、3つの時間帯です。このうち、夕方くらいが一番効果あるそうです。個人的に、お買い物系は夜が落ち着いてていいのかなと思っています。
「SNS」「投稿時間」などで検索すると、記事がいくらでも出てきます。
自分はどんなときにSNSを覗きたくなるか、ということを考えてみるといいかもしれません。
投稿したときの閲覧量?によってツイートの重みづけが決まってしまい、あとでリカバリーはできないようなので(経験的観測から)、宣伝の場合は人がいそうな時間帯を狙って投げるのをおすすめします。逆に、一度バズったものは何か情報が付加されるのか、何度RTしてもまたバズります。
あまり見てもらえてないようなら、時間を変えてRTより、人のいる時間にツイート自体をやり直したほうがいいかもしれません。あまりやりすぎると、bot認定されて凍結のおそれもありますが。
以前Twitterで実験してみたんですけど、1日3回(朝、昼、夕)×3日間宣伝しても、フォロワーさん含め閲覧者の25%くらいにしか認知されてない感じだったので、ちょっと宣伝したくらいでは無なんだと思います。
ただし、同じツイートを狭い間隔で何回もRTすると、凍結のおそれがありますし、何より流石にフォロワーさんがうっとおしくなるだろうと思うので(ミュートされますよね…)、忘れた頃に流すのがちょうどいいかもしれません。
お役立ちネタに絡める
Xを眺めてると思うんですが、人間は役に立つものが好きなんですよ。あと、自分が便利だと思うと、ひとにおすすめしたくなるので、自然と拡散されやすくなります。おいしいもの情報とか、使ってよかった日焼け止めとかよく回りますよね。
実用系じゃないから役に立ちそうなことがない…と思っていても、たとえば小説なら舞台にした場所のプチ情報とか、作品を書いていたときにこの曲聴いてたら捗ったとか、原稿追い込み時期のごほうびおやつ、とかでいいんです。
服薬補助ゼリーの「おくすり飲めたね」みたいに、情報をするっと飲み込みやすくする媒体みたいなのを、上手に用意できると、興味を持ってもらいやすいんじゃないかなと思います。
おしながきの参考になるもの
イベントで頒布する同人誌やグッズの情報を1枚の画像にまとめたものを、同人界では「おしながき」と呼んでいます。イベント前はツイートに貼り付けて宣伝に使える、当日は大きめに印刷して掲示するとお会計がスムーズになるなどのメリットがあります。
はやい話が商品カタログなので、ショッピングサイトや、スーパーのチラシ、飲食店の写真入りメニューなどが参考になります。
面積の大きいものが目につきやすいとか、左上から右下へ見るであろうとか、デザインの基本的なことを知っていると、レイアウトの迷いが少なくなります。
縦に長すぎると下のほうは見てもらえない(F型)ということもあるので、縦長につくる場合は、白銀比(コピー用紙の比)程度の長方形におさめるのが無難だと思います。
「選択のパラドックス」という、選択肢が多いと迷ってどれも買わない現象もあります。品数が多い場合、メインを3つくらいに絞って大きく表示し、残りを小さくしてメリハリをつけると、多すぎて迷う感じを防げるかもしれないです。
同人イベントの場合、「ここにあるものぜんぶください」という石油王もいらっしゃるので、読者さんがそういう傾向の場合は心配いらないと思います。
以上、わたしの経験から得たことをつらつら書きましたが、ノウハウは見てるとうんざりすることもあると思うので、ほどほどに。Xにも書いたのですが、宣伝に慣れないうちは、ひとのものおすすめして練習してみるといいですよ。