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2022年の音楽フェスのDX

2019年のWILD BUNCH FEST.からスタートした弊社のOEMフェスアプリパッケージサービス『FESPLI』。確かな手応えから「いよいよ!」というところで新型コロナウィルスが襲来し、2020年、2021年と多くの音楽フェスが中止や特別な形での開催を余儀なくされ、弊社もアプリをリリースしては中止となり、殆どの現場に行くことができず、という日々を送ってきました。

2022年はこれまで通りの形とはいかないまでも、多くのフェスが試行錯誤しながら無事に開催されました。それに伴い多くのフェスでアプリを導入していただき、今年は計16のフェスの現場に足を運ぶことができました。

2022年にFESPLIを導入いただいたフェスティバル

今年はまず「フェスを取り戻すこと」が多くのフェスにとって目標となっていました。しかし、開催してみると多くの若い世代が初めてのフェスを経験し、逆にこれまでフェスに足を運んでいた人たちが思った以上にフェスに戻ってきていないという現実がありました。コール・アンド・レスポンスや自然発生するモッシュや前方エリアの熱気を経験してきた人達からすると、今のフェスをどこか物足りなく感じてしまうのも当然かもしれません。

従来の姿を取り戻したいと想う、主催者やオーディエンスはたくさんいるということも事実ですが、ポストコロナそしてZ世代の価値観に向けたフェスのあり方というのも真剣に考えるべきタイミングでもあるということを強く感じました。そんな状況の中で今年はどんな1年だったのか。そしてフェスのDX(Digital Transformation)について今の考えを年内に書き留めたいと思いnoteを書きました。

二分した前方エリア抽選

今やフェスでは当たり前になっている、ステージの前方エリアの事前抽選。このシステムの始まりは弊社がアプリを提供した、2020年の「大阪文化芸術フェス presents OSAKA GENKi PARK 」です。


コロナ禍にフェスを開催するにあたって命題となったのが前方エリアの密です。これまでのフェスでは、フロントエリアは体がぶつかり合い、すし詰め状態というのは当たり前の光景でした。
また、目当てのアーティストを少しでも前で見たいがために、フロントエリアに長時間滞在するオーディエンスも少なくありません。ライブが終わると留まりたい人と、出たい人と、前に行きたい人が入り乱れるカオスとなっていました。

そんな前方エリアに秩序をもたらすために考えられたのが「前方エリアの事前抽選制」でした。事前に前方で見たいアーティストに申込み、抽選で当選した人だけが前のエリアに入ることができるというものです。

「OSAKA GENKi PARK 」では初めてのトライということもあり、課題も多く残りましたが、この仕組みが業界内で一定の評価を得て、翌年の2021年に実施された多くのフェスで前方抽選が導入されました。

このシステムがオーディエンスにもある程度浸透した後の、2022年は実施するフェスとしないフェスとで二分されました。オーディエンスの賛否も二分したように思います。体験した人は分かると思いますが、前方抽選は手間もお金もそれなりにかかります。また、多くのフェスの主催者はできればコロナ前のスタイルに戻したいという想いを持ってるようです。

しかし、前方抽選には密の回避とは違う視点からも良い面があることも分かってきました。

  • 前方エリアの場所取りが消えた。

  • 前方が本当のファンで埋め尽くされるので、より熱量の高いコミュニケーションが発生している。

  • 小さな子どもや女性が前方でも安心してライブを見ることができる。

  • 前方確保ができなくなったため、徹夜や早朝から並ぼうとする人がいなくなった。

  • 開場時に自然と分散入場が行われた。

など、密を避けることが思わぬところにも影響を与えていました。前方抽選には本当に様々な意見があります。この仕組みに好意的なオーディエンスや、このスタイルしか経験してないオーディエンスも数多くいる状況で、フェスの主催者としては悩ましい状態で2023年を迎えることになりそうです。

RISING SUN ROCK FESTIVALの22年目の革命

ひとつ今年のアプリを活用したDXの事例を紹介します。RISING SUN ROCK FESTIVAL(以下RSR)で本アプリを導入いただき、RSRの課題解決に取り組みました。

RSRは北海道石狩の広大な土地に数千のテントサイトが立ち並ぶオールナイトの野外フェスティバルです。会場内にテントを張ることができるため、ステージがよく見えるエリアは大人気。前日から徹夜で入場ゲートに並び、入場ゲートのオープンと共に新年の福男の如く、テントサイト受付までの短距離走がRSRのひとつの風物詩となっていたようです。シンプルに危険です。

そこで、今年からテントサイトの割当を公式アプリにて事前抽選制とし、弊社でそのシステムを構築しました。

入場ゲート前の徹夜がほぼなくなり(習慣として少しだけ徹夜組もいたようです)、テントサイト受付業務が不要となりました。このことにより、運営面で劇的な効率化を図ることに成功しました。

  • 前日の徹夜組を管理、整理するスタッフが必要なくなった。

  • テントサイトの受付場所を設けなくて良くなった。

  • 受付スタッフ及びその整列スタッフを手配しなくて良くなった。

かなりの人件費を削減できたと聞いています。参加者も徹夜で並んだり、到着時間や移動手段について悩んだり、徹夜組に不満を感じる必要がなくなったため、精神的・肉体的なストレスから開放されることでRSRの本来のコンテンツに集中できるようになったと思われます。

さらにRSRは地面のコンディションなどによってテントの区画を移動させることがあります。これまでは空いてる区画を受付に確認し、担当スタッフがテント本部に走り、新しい使用証を紙で発行し、それをまた利用者に届けるというフローが発生していました。今回、使用証を電子化したことにより、空いている区画をシステム上で確認ができ、遠隔のやり取りだけで使用証の再発行ができるようになりました。広大なテントサイトエリアをスタッフが何往復も駆け回る必要がなくなり、テントサイトの振替にかかる時間が激減しました。ここでも業務効率の改善が見られました。

長年テントサイトの運営を担当されていた方も「ずっと抱えていた多くの問題や手間が解消された。革命的だった。」とおっしゃっていただきました。オーディエンスからも「今後も続けて欲しい」という声を数多くいただき、ITが大きくフェスティバルに貢献できた良い事例となりました。

相次いだ電子決済問題

ここ数年で一気に種類が増え、世の中に定着した電子決済。フェスの現場で電子決済がスタンダードになったのも今年からという印象です。一方で電子決済のトラブルも各地のフェスで相次いだ印象です。

最もよく見られたのが通信回線の混雑によるもの。4G回線を利用している決済端末は万単位の人が集まるフェスの現場と相性が悪く、決済ができない、決済にとんでもなく時間がかかるということが多々見られました。おつりのやり取りをなくし、支払いをスムーズするハズの電子決済が現金よりも時間がかかって回転率が落ちてしまう、というのはまさに本末転倒。電子決済ができると思って現金をあまり持ってこず、困ったオーディエンスもいることでしょう。

その他にも手配したデバイスが用意したWi-Fiの通信規格に対応していなかったり、決済サービスとの契約内容に条件があったりと現場はかなり電子決済周りのトラブルに手を焼かれていた印象です。短期間のイベントで予期せぬトラブルは付き物なので、電子決済についてはここから色々と学んでいく必要がありそうです。5Gよ、一刻も早く普及してくれ、という状況です。

事前決済&オフライン受付が可能なアプリ販売が最強

管理リスクのある現金支払い(数万単位で数字が合わないなんてこともよくあるそう……。)、トラブルが起きがちな店頭の電子決済。そんな中で安定した運営を約束してくれるのが事前決済のシステムだと感じました。

今年、弊社のアプリではグッズのモバイルオーダーの機能を実装。複数のフェスで導入していただきました。事前にアプリで決済が行われているため、当日は画面を提示して商品を受け取るだけ。

私の計測によると通常の窓口販売の場合、通信環境が良い状態で1人のお客さんの対応に100〜120秒ほどかかっています。一方、モバイルオーダーの受取は1組4、50秒程度。お客さんは受取時間を指定するため、並ばずに商品を受け取ることができ、スタッフも計画的に人員を配置することができます。

フェスのグッズ売場は長蛇の列。
一方モバイルオーダーは全く並ぶことなく受け取ることができます。

グッズの事前販売サービスは他のフェスでも実施していますが、ブラウザで確認画面を表示するサービスの場合、会場の通信環境が悪く、確認画面が中々表示できないというトラブルもあったようです。その点、ネイティブアプリは一度表示していれば、オフラインでも確認画面が表示できるため通信環境に左右されないスムーズな運営を実施することができます。

またグッズに限らず、事前販売は予め需要を把握することにも役立ちます。「当日に数が足りない!」「利用が少ない!」と慌てることもありません。フェスティバルは事前決済を促進することで現場の安定化・効率化・収益化につながるという事実は揺るぎないように思います。

当日モバイルオーダーでWIN-WIN

モバイルオーダーに関する内容をもうひとつ。多くのフェスではグッズを事前の期日までにオンラインで購入し当日会場で受け取る形が採用されています。というのも当日にオンライン受付を行うと、グッズの在庫管理が難しくなるからです。併用する場合は、窓口販売用とオンライン用とで在庫を予め分けておく形が基本となります。

この夏、アプリを導入いただいたとあるフェスでは、事前受付とともに開催当日もモバイルオーダー受付を行いました。ただしすぐに売り切れてしまうであろうアイテムやもともと生産数の少ないアイテムは窓口のみで販売し、数に余裕があるアイテムのみ在庫を分けてモバイルオーダーで販売するという形式を採用しました。

さらに会場が広くグッズ売り場がライブエリアから遠い場所にあるため、一度ライブエリアに行くと中々グッズ売り場に戻ってくることはできません。「あの行列には並びたくないけど、アプリから買ってすぐに受け取れるようなら買おうかな」というお客さんのマインドに見事にハマったようでした。

グッズの売上数を伸ばしつつ、お客さんのニーズにも答えられるまさにWIN-WINな状態となりました。当日、グッズ売場の大行列を見て購入を諦める人は少なくないように思います。またグッズの列に並んでライブを見ないというのは主催者としても、避けたい事象だと思います。開催当日のモバイルオーダーはぜひ積極的に導入していただきたい機能のひとつです。

分散するツール、混乱するユーザー

様々な便利なサービスが提供される反面、そのツールが多岐にわたり、ユーザーが混乱している様子も見られました。

チケットの発券はプレイガイドのアプリ、前方抽選は公式アプリ、物販の整理券はLINE、グッズ事前購入はECストア、さらにシャワーやクロークの前売りはまた別のチケットサービスなど、サービスを提供するツールが分散し、「どこで何が提供されているのか理解が追いつかない」「ひとつのフェスに参加するために様々なサービスのアカウントを作成しなければならない」という状況も少なくないように感じました。

ツールの導入には様々な事情があることは承知していますが、オーディエンスの立場からすると全てがひとつの場所にまとまっている、そして利用・購入しやすいものであることに越したことはありません。

弊社はフェスにおける殆どの事をアプリだけで完結できることが理想だと考えており、それらを提供できるシステムをこの1年間かけて構築してきました。ツールをひとつに集約することでユーザーは当日の管理もしやすく、主催者は横断的な利用データを取得することができます

アプリからVIPエリアや優先観覧エリアを予約・事前購入
アプリに集約することでマイタイムテーブルとその他の予定を合わせて管理できます

フェスのDXにおけるミッションとは

この1年を通して、これからさらにフェスのDXを推進するにあたっての「ミッション」とは何か?を考えるようになりました。何のためのDXなのか。それは

フェスのコンテンツをオーディエンスに最大限楽しんでもらうため』

全てはここに集約されると思いました。フェスのコンテンツとはライブ、装飾、演出、体験型のコンテンツ、食事、グッズなどフェスを構成するあらゆる要素のことを指します。

多くの人が集まるフェスにはたくさんのストレスが待ち構えています。駐車場やシャトルバスの大渋滞、グッズや飲食店、トイレの大行列、ステージの入場規制、そして客席エリアの密集、密接。「駐車場の渋滞で会場入りが遅れてライブに間に合わなかった」「グッズに並んでいてライブが見れなかった」「欲しいグッズが買えなかった」「隣の人との距離が近すぎてライブに集中できなかった」こういったフェスでの残念な思いをオーディエンスにさせないために、デジタルそしてフェスアプリはあるべきだと私は考えます。

例えばですが、お気に入りアーティストの登録者数から、各アーティストを適切なキャパシティのステージに設定することができます。ステージのミスマッチはアーティストにもお客さんにも不幸を呼びます。もしこれで入場規制の発生を防ぐことができたとするならば、オーディエンスの楽しみがひとつ奪われなかったことになります。これもひとつのDXだと思います。

テクノロジーによってフェスの会場で起きる不幸を減らし、オーディエンスがライブやコンテンツを最大限楽しめる環境をサポートすること。これにより、フェスティバルの収益が高まり、コンテンツのクオリティが高まる。お客さんはさらにフェスティバルを楽しみ、フェスティバルのファンになる。このサイクルをドリブンさせることがフェスにおけるDXの役割だと感じています。

アプリを通してこのサイクルを加速させること

2023年はより多くのフェスに、より分かりやすく、確かな形で課題を解決できるようなれるといいなと思います。

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