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住宅の省エネ基準再考①

 今回から改めて、いまの住宅の省エネ基準(以下「省エネ基準」)について考えてみたい。

省エネ基準になぜ外皮基準があるんだろう?

 「省エネルギー基準」という言葉を素直に聞けば、「エネルギーを省くための基準」というふうに捉えられる。だったら、別に外皮基準など必要はないはずで、とにかくエネルギー消費量の基準を設けて、それをクリアするような仕組みにすれば良い。

 もちろん外皮性能を向上させれば、暖房と冷房のエネルギー消費量は減る方向に向かう。でもそれは「省エネルギー」に向かうひとつの工夫に過ぎず、たとえば効率の良い給湯器を使うということと同等な位置にあるはずだ。なのに外皮性能だけ「別格扱い」になっている。

 そのような別格扱いにしたのは、おそらく省エネとは別に住宅の温熱環境を良くしようと考えたからだろう。それは適切だと思うが、それであれば「省エネ基準」ではなく「外皮性能・省エネ基準」とか「温熱環境・省エネ基準」とか「暖涼環境・省エネ基準」といった名称にすべきだ。

 こうした「言葉の問題」はとても重要で、それによって世間の認識や世の中の動き方が大きく変わってくる。「省エネ基準」ではなく、たとえば「暖涼環境・省エネ基準」という名称にしたら、「省エネには興味はない」と考えるようなつくり手の印象もきっと変わるだろうし、一般市民の関心も高くなるに違いない。

 国の説明義務制度を建築主に解説する漫画の資料では「省エネ住宅=高断熱・高気密&省光熱費住宅」と説明している。「外皮基準クリア=高断熱・高気密」としているのはいろんな意味で不適切だという問題はさておき、国は「省エネ住宅=高断熱・高気密&省光熱費住宅」という認識を強引に定着させていこうとしているように感じる。そんなまどろっこしいことをするより「省エネ基準」という名称を変えたほうが圧倒的に省エネ基準の理解が早く進むだろう。

 こうした問題とは別に、国から出ている省エネに関する言葉には「研究者用語をそのまま使っているもの」がとても多くて、わざと難しく感じるようにしているんじゃないかと思うくらいだ。

 わかりやすくする配慮を欠きながら「省エネ基準の適合率が低いから義務化はやめた」と言う神経が理解できない。私は外皮計算を「温熱環境について(熱の移動について)学び始めるときにはもっとも大事なもの」と考えているので、外皮計算をできるだけとっつきやすく、楽しいものにする努力を続けてきた。国がそうした努力をしてきていれば、外皮計算をやる住宅会社はもっと多くなり、適合率も上がっていたはずと確信している。

室温基準を設けるべき

 話をもう少し本質的なところに移そう。住宅の温熱環境は居住者の健康にも影響を与える。だとすれば、その確保は厚労省の仕事だろう。でも現実にはそうなっていない。また住宅の省エネを温暖化対策のために進めるのであればそれは環境省の仕事だろうし、エネルギー基本計画との関係を考えればそれは経産省の仕事になる。ますます住宅のあり方は多方面に影響を与えるようになっているので、このあたりの役所の仕事の整理が必要だが、時代の要請に追いついていない。

 このあたりを整理しようとしてつくられたのが住生活基本法なのだろう。しかしこの法律の位置づけが曖昧で、実際に住宅の内容を決めていく法律や基準に生かされていない。私が考えるには、健康という視点で厚労省から、温暖化対策という視点で環境省から、エネルギーのあり方という視点で経産省から国交省に要求を出し、それを国交省が具体的な形での法律や基準に落とし込んでいくという役割分担が適切だと思う。とくに健康という視点から厚労省がたとえば「室温基準」を要求することで、このあたりの整理が格段に進むはずだ。

 国交省はその室温基準を満たすような「建物性能と暖房スケジュール(暖房範囲、暖房時間、設定温度)の組み合わせに対する基準」を考える。住んでからの暖房スケジュールをどうするかは住宅提供者側では管理できないので、契約時に施主(住まい手)の責任として施主が合意する。「あなたの健康を守るために、この建物であればこのような暖房スケジュールにせよと国が言っています」と住宅提供者側が伝え、それに施主が合意するわけだ。

 建物性能が悪ければ、暖房範囲と暖房時間は増え、設定温度も高くなる。当然暖房エネルギーは増え、暖房費も増える。それを施主は事前にわかるようになるから、建物性能を上げたいと考える施主が増えるだろう。

 ちなみに、いまの省エネ基準では暖房スケジュールがあらかじめ3つのパターンに決められてしまっていて、そのスケジュールで暖房エネルギーが計算される。だから建物性能が少々悪くても、居室間欠暖房を選択すれば暖房エネルギーは多くならない。

全館連続暖房にすればエネルギーの基準値が甘くなるという変な措置

 一方、全館連続暖房を選択すると、建物性能が少々良くても暖房エネルギーが大きくなる。それは当たり前だが、全館連続暖房は快適で健康的な室温が得られるメリットがあるから(室温レベルは低いが、暖房エネルギーが小さい居室間欠暖房との不公平を解消しようとして)、国は全館連続暖房のエネルギーの基準値を大きくする(甘くする)という措置を取っている。この考え方は室温とエネルギーという別モノをごちゃまぜにしていてとても変だし、「基準には合格している全館連続暖房」がどんどん増えていったら、国全部の住宅のエネルギー消費量はいまより増えてしまう可能性がある。

 エネルギーの基準はどんな家でも同じにして(規模の不公平をなくすために床面積あたりのエネルギー消費量基準にするのがよいだろう)、先に書いたように「建物性能と暖房スケジュール(暖房範囲、暖房時間、設定温度)の組み合わせに対する基準」を設ける。そうすれば、居室間欠暖房は暖房スケジュールが厳しくなるから自動的に暖房エネルギーが増えることになるし、室温レベルをかなり良くしたいと考えて全館連続暖房を選択する人は「暖房エネルギーは大きいんだ」と気がついて、他のところの省エネを図ることになる。

 エネルギー消費量基準の柱になっている「エネルギー消費性能計算プログラム」はこのまま進化させていけば良いと思う。繰り返しになるが、ここでぜひ変えてほしいのは「エネルギー消費量の基準値が暖房スケジュールによって変わる」というところだ(実際には、冷房も暖房と同じ考え方をしているので、冷房についても変えてほしい)。

 まだ言いたいことがあるので、それは次回に。

 

 


 

 

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