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豊かさの陰で霞んでいたもの

仕事を終えると最短距離で家に帰る。

買いものにも必要最低限しか行かずに、家にあるもので何を作ろうか考える。

手洗いうがいをこまめにして、栄養と休養をきちんと取れているか、毎日自分を省みる。

もっと苦しい生活を想像していたが、質素ながらも案外健やかに日々を過ごしている。

外食や飲み会を重ねるうちに冷蔵庫で期限を迎えてしまった食品たちを捨てていたこと、もらい物のお菓子やお茶の存在を忘れてコンビニで飲み食いをしていたこと、空調の効いた静かなプライベート空間を寝るとき以外はほとんど使わずに出かけてばかりだったこと。

豊かだと思い込んでいた日々のなかで、どれだけのものを蔑ろにしていただろう。

買ったことすら忘れられていたツナ缶が夕飯のメインになり、増え続けていたもらい物のお茶の葉を毎日ひとつ選んで味わう。

慌しい日々に揉まれて書けずにいた手紙をあの人へ送ろう。週末の夜には少し夜更かしをして、少し長い映画にも挑戦してみようか。

もしかしたら私は、ものの豊かさに依存して、心の豊かさを失っていたのかもしれない。

これからまたどれだけ豊かな生活が戻ってきたとしても、心の豊かさを失わないように。

これからしばらく豊かとはいえない生活が続いても、心の潤いは絶やさないように。

炊きたての白米をよく噛んで味わうように、一日を、一食を大切に生きてゆきたい。

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