水やり
乾いた土に水が染みていくとき、みしみしと音がするのを今日はじめて聞いた。きっと私が聞いていなかっただけで、今までもずっと鳴っていたのかもしれない。ジョウロを片手に不思議な音だなあと思いながら色濃くなった土を眺める。このひと時はなんだか、コーヒーを淹れる時の蒸らしの時間に似ている気がする。次はもう少し早めに水やりにくるね、こころの中で小さく謝る。
数日前まで続いていた雨のおかげで、玄関先の鉢植えの水やりをすっかり忘れていた。今日のテレビは真夏日のような暑さだと話していて、ふと思い出して玄関に出ると、鉢植えの土は乾き切った黄土色をしていて、脱水気味の葉は少しくすんだ深い緑をしていた。
雨にも直射日光にも当たりにくい、内ではないが屋外とも言い切れないようなこの軒先は、この植物にとって果たして良い場所なのだろうか。植物を育て慣れていないので、陽当たりや水やりの程よいバランスが今ひとつ分からない。ひとつ前に育てた木は、水やりの加減が分からないまま、よく陽に当てて枯らしてしまった。今の木も冬場の寒さと乾燥でいくつかの枝葉が色褪せたが、めげずに脇から柔らかな芽を伸ばしてきている。全部そのまま伸ばそうとするとどうしても影になってしまう芽が出てくるため、選んで摘んだりしてみているが、伸びた姿を想像して形を整えるというのはなかなか難しい。
上手に育てられ、きれいに整えられて店先に並んでいた、購入当時の容貌とは遠くかけ離れてしまったが、まあ、これから先の伸び次第でどうにでもなるだろう。前より少し不恰好にはなったものの、こんな私の雑な世話にも枯れずに、生長してくれる木の強さと逞しさを、とても好ましく思う。
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