どうでもいい話

 母親と関係は良くないのかもしれないと気がついたのは、5年ほど前の一人暮らしを本格的に始めた頃だったと思う。

 一人暮らしを始めてすぐの頃、隣県だったこともあり毎週末実家に帰っていた。しかし、そんな事をしていては、今自分が毎日生活している家を片付ける事も出来なくて、次第に1ヶ月に1回は帰らない週が出来、それは2週に1度になり、1ヶ月に1度になって行った。

 その、1ヶ月に1度実家に帰っていた頃の話。実家から一人暮らしの家に戻ると、静かだった。暗い場所が出来るのが嫌で、全ての部屋に明かりを点けて生活していた。

 その日は日曜、午後2時。家に着いて、洗濯機を回して干す。そんな時間から干して大丈夫と思っていたから、きっと季節は夏だったと思う。
 洗濯機を回して、掃除機を掛けて、まだ引っ越し後の段ボールに手が着けられずに放置してある。

 翌日からのお弁当のおかずを作り置きする、ご飯を炊く、夕飯には帰り道に購入したお惣菜で食べよう。

 そう、私は金曜の夜に実家に行き、土曜日を過ごし、日曜の午前中に実家を出て午後2時頃に戻る。平日は朝8時に家を出て、帰宅は19時から20時頃。洗濯はいつも週末にまとめて行っていたし、掃除機も週末だけ。かろうじて、お弁当作りは朝起きてから詰めるだけの状態にしていたので毎日できた。

 ふと、これ実家に帰らない方が良くない?となった。いや、分かっていた。分かっていたからこそ帰る頻度は少なくなっていた。

 ただ、3連休などの際は、母親が帰ってくる前提で話をするので、そういうものか、といつも帰っていた。

 次の3連休、私は仕事が忙しいからと言って、実家に帰らなかった。
 なんだか、悪い事をしているような気がしたけれど、一人暮らしの家で盛大に揚げ物を作って、一人で食べた。ちょっと高い牛肉を買って、牛カツを作った。唐揚げは唐揚げ粉を2種類買って、2つの味を作った。フライドポテトも2種類買って、それはもう盛大に揚げ物を作った。

 作り終えて、牛カツをご飯と一緒に食べたらおいしくて。
 寂しいかと思っていたけれど、外は晴れて清々しい。電車に乗っての長距離移動も無いから、ぐったりしながら家事をしなくてもいい。

 油の臭いがするから、まだ16時だけどお風呂に入ってしまおう。

 実家だと、出来なくても一人暮らしだったら、別に良い事がたくさんあった。お風呂なんて最たる例で、実家ではお風呂は夕飯の後と決められて居て、先に入るとか深夜に入るのは許されない。母親が準備と片付けの時間を決めているから、それに合わせないといけない。

 ちょっと暑いだけでクーラー入れて良い。私は暑いの苦手だけど、実家でクーラー入れると、電気代がとそれとなくこぼされる。電気代なんかどうでもいい、暑いのが嫌。自分で払ってるんだから。

 朝にパンを食べなくても良い。ごはんでも、何でもいい。
 部屋に花を飾っても良い。
 急にラーメンが食べたくなって、出かけても良い。

 どれも、くだらない事だと思う。何で駄目なのか分からないと思う。実家で母親と居るとどれもできなかった事なんだけども。

 朝はパン以外だと母親がとにかくキレる。自分で準備するのも駄目、ご飯だとおかずが要るから駄目と朝は絶対にパンだった。パンに目玉焼きだのスープだの準備するのは良いらしい。意味が分からないけれど、それを言うとキレるだけなので従っていた。

 部屋に花を飾ると、飼ってる動物が気にするから駄目と。自分の部屋でも駄目。誰が水を替えるのかと。私が替えると言っても駄目。これも意味不明。

 急に何かが食べたくなって出かける事も駄目。休日、平日を問わず、食事は絶対に母親が作る。出かけるから要らないと、数日前に申請してやっと、「日曜は昼ご飯要らない、じゃあ夜は?夜は?夜は食べるの?外で食べてくるの?要るの?要らないの?どっち!教えておいて!準備の事があるから!」
 くらいの問いかけになる感じ。

 めんどくさいな、と思ってからも母親からはLINEが毎週来ていたけれど、今はもうこちらから連絡するまでは連絡しないでと言って、しないようになった。多分、その辺りが母親としての最大限の譲歩なんだと思う。