親切な暗殺【毎週ショートショートnote】
「本当に、大丈夫?」
心配そうな顔をした彼に、私は少し震えた声で答える。
「うん、大丈夫」
彼の部屋のベッドの上で二人きり。電気の消えた部屋の闇が、私の頬の紅潮を隠してくれる。
「でも最初はみんな、痛いらしいよ」
「痛くてもいいよ。だってあなたのためだもん」
私は彼をぎゅっと抱きしめた。想いに応えるようにして、彼が手を背中に回してくる。彼が握っていたそれの感触は、ずいぶんと冷たかった。
「じゃあ、いくよ」
「うん」
短い会話を経て、彼はそれを丁寧に持ち直す。そして意を決したように軽く息を吸うと、私の腹部へ押し込んできた。
冷たいナイフの感触が、掻き回すようにに内臓を刺激する。みるみる傷口が熱を帯びて、焼けるような熱さを感じた。
全身の細胞が悲鳴をあげそうになるのを何とか我慢しようとして、声にならない声が出た。
でも、私は大丈夫。私を殺すだけで、彼が組織に居続けることができるんだと考えたら。
たまには、私にも親切させてよね。
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