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shinsukesugie
忍者ラブレター【毎週ショートショートnote】
私はそれを、忍者ラブレターと呼んだ。
春の間だけ毎朝、下駄箱には薄桃色の手紙が入っているのだ。しかも、私が高一の頃から毎年。
中身は着飾らないもので、ただ『がんばって』とだけ書かれている。それも鉛筆の力強い文字で。
最初は誰かの間違いかと思ったが、学年が上がって下駄箱の位置が変わっても、手紙は私の元に届いた。
一度、送り主を突き止めようと学校に泊まったこともある。けれど誰も私の下駄箱には指一本触れていなくて、相変わらず手紙は入っていた。
そして今年の春、私は高校卒業を迎えた。卒業式の日には春が終わりかけて、もう夏が目の前まで迫っていた。
卒業証書を片手に下駄箱を訪れた私は、手紙が入っているのに気付いた。すぐに中を開いてみると、
『おめでとう』
乾きかけた涙目で空を見上げると、そこには桜の木があった。もうほとんどの花が散って、残すところは数枚となっている。
ずっと、見ていてくれたんだね。
私は慎重に一歩を踏み出して校門へ向かいながら、小さく呟いた。
「ありがとう」