青かった頃の痛い女の話をしよう #1
氷点下4度のすすきの。
「今日も寒いな。」
鼻を赤く染めながら街頭でお店のチラシを配っている。
分厚いダウンから出る足があまりの寒さで痛み出した。
お店の制服が白いシャツにベスト、黒革のミニスカートというせいで160デニールのタイツでも霜焼けになりそうだった。
「お疲れさん、今日も立たされてんの?」
声をかけてきたのはスーツに身を包んだスラッと背の高い好青年の桂木まこと。
彼は客引きだが、そこら辺の女の子に声をかけると百発百中で落ちるというナンパ師でもあるとの噂があり、私はこの男が苦手だ。
「うるさいな。今日はお店が空いてるの!」
「うわ~、今日も寒そうな格好して、なんなら俺が温めてやろうか?ほら」
彼が私の方に何かを投げてきたので、それをかじかんだ手で取るとそれは缶のおしるこだった。
「げっおしるこ嫌いなのに・・・」
「それうまいんだそ、あっいらないなら俺に返せ。」
「フン!私がカイロ代わりに使ってあげるから感謝しなさい」
「まじで可愛くない・・・お前モテないだろ。どうりでお店に人が来ないわけだ」
「今日はたまたまだもん!いっつもは満員で忙しいんだから」
私はBar「キッピス」で働くバーテンだ。
店内は落ち着いた雰囲気のBarだが、店長の趣味丸出しの制服に私は最近不満を抱いている。
丈が短いスカートは横に際どいスリットが入っているせいで下着が見えそうになる。
「うむ!見えそうで見えないのが男のロマンだよな」これが店長の口癖だ。
そしてお店に人が来ないと決まって外に立たされる・・・のはいいが。
桂木がことあるごとに私に話かけていくるのが鬱陶しい。
こちとらチラシを配らないとお店に帰れないのに、正直仕事の邪魔なのよ。
今日こそ、文句を言ってやろうと思ったのに・・・これじゃあ言えなくなるじゃんとブツブツつぶやいていた。
「なぁ俺が居なくなったら寂しい?」桂木が真面目な顔をして私の方をじっと見ている。
「え?な、何言ってんの?唐突すぎて回答に困るんだけど」
困惑する私の顔を覗き込み、桂木はニヤリとほくそ笑み「冗談どうぇ~す」と言って去っていった。
「何あれ?意味分かんない。」
私はこの時まだ知らなかった。
彼が私の人生を狂わせることになるとは・・・。
つづく。