羊毛フェルトのしろくまを愛でる
その店の前を通りがかった時のこと。
ふと、窓際のディスプレイに目がとまりました。ぬいぐるみでしょうか。体長30cmほどのしろくまがうつ伏せに寝そべっています。
なーに、このしろくま。だら〜んとした格好しちゃって。
ひと目見て癒されました。
よく見ると値札のようなものがついています。このしろくまも売り物のようです。
ああ、これ欲しいなあ、と思いました。ただ、タグが裏返しになっていてお値段がわかりません。その日は定休日のようだったので出直すことにしました。
後日、そのしろくまを店内で見せてもらいました。ぬいぐるみではなく、羊毛フェルトの作品とのことでした。
価額は、予想を上回っていました。決して手の届かない額ではありませんが、私には身の丈に合わない買い物のように思われました。
お店の方に「予算的に厳しいので今回は諦めます」と申し上げると、それならもっと小ぶりで手頃なものもありますよ、といくつか紹介してくださいました。
どれも小さいなりの可愛らしさがあります。その中で特に惹かれたしろくまがいました。
何てすてきな笑顔なのでしょう。やさしい表情にほっこりします。想定外の出会いでした。このしろくまを連れて帰ることにしました。
家にお迎えして、改めて対面。見る角度によって表情が違います。幼い子熊のように見えることもあれば、哀愁漂うおじさんのようにも見えたり。後ろ姿も実に味があります。お店で会った時には気づかなかった姿でした。毎日見ていても飽きません。
素材が羊毛ということもあり、あたたかい手触りも魅力です。
羊毛フェルトってどうやって作られるのだろう?と思って、GoogleやYouTubeで調べてみました。材料の羊の毛を針のような道具で繰り返しつつくうちに繊維が絡まり、形が作られていく。そんな感じです。この方法で作られたものは「ニードルフェルト」というそうです(羊毛フェルトの作り方には他の技法もあります)。この小さなしろくまが出来上がるまでには、きっと多くの手間と時間がかかったことでしょう。ひとつひとつ手作りされたものだと思うと愛着もひとしおです。
お店の窓辺で寝そべっていたしろくまが再び目に浮かびました。手作りの一点物ですから、この世には他にいません。
この出会いを逃してしまったら絶対に後悔することになる。一度は諦めたつもりでしたが、やはりあのしろくまは私がお迎えしよう、と決めました。
この寝姿が醸し出す、ゆるっとした空気が何ともいえません。それでいて、ふとした瞬間に佇まいの美しさを感じることも。こちらのしろくまも、いつまでも見ていたくなります。
実は、お店で手に取った時に、ところどころ汚れているように見えました。ところが、それはあえて作られているというのです。色の違う羊毛を重ねることで、「汚れ」を表現しているそうです。この芸の細かさにはびっくりです。
私は、ホッキョクグマは全身が真っ白だと思っていました。でも、ネットで写真や動画を見ますと、しろくまって結構汚れています。まだらに黄ばんでいたり茶色くなっていたり。
大きいほうのしろくまは、このように細部まで凝っていて、作品として見応えがあります。
でも、どちらのしろくまにしても「リアルすぎない」ところも気に入ってます。そのあんばいが絶妙なのです。
もし剥製みたいにリアルであったとしたら、あまり「かわいさ」や「癒し」は感じられなかったでしょう。このあたりの好みは人それぞれでしょうけれど、動物をかたどった人形やぬいぐるみの愛らしさは、適度にデフォルメされたところに宿ると私は思います。
しろくまたちは、普段は机の上にいます。そこだけ穏やかな時間が流れていて、目に入るたびに気分が和みます。
年甲斐もなく、ぬい撮り(ぬいぐるみではないので正確には「ぬい撮り」とは言えませんが)の真似事も始めました。楽しみが増えました。
暗いニュースを見聞きした時や、メンタルが疲れ気味の時に、ほんわかした雰囲気のしろくまたちを眺めていると、すーっと心が落ち着いてきます。私にとっては精神安定剤の役目も果たしてくれています。お迎えしてほんとうに良かった、としみじみ思いました。
これらのしろくまは、こもりえりさんという羊毛フェルト作家の作品です。もし興味を持たれたなら、ぜひこの方のインスタをごらんになってみてください。いろいろな作品を見ることができます。しろくまの他に、フェルトのスリッパなど実用的な小物も製作されているようです。
ちなみに、私がしろくまに出会ったのは、「冷えとりとくらしの店clove」というお店です。湯たんぽや靴下など、体を冷えから守る雑貨を販売しています。しろくまのご縁で、こちらで買った手編みの手袋など愛用しています。あったかいですよ。
このショップでは、冬の間だけ、大きなしろくまが店番をしています。