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環境保全型農業アンケートから見る農業の現状

とても興味深い研究論文を見つけたのでご紹介したいと思います。

その研究論文は「永井 孝志(2021)各種環境保全型農業の取り組みに関する生産者の特性分析と類型化,農研機構研究報告 第 6 号:43 ~ 52」です。

最近様々なところで話題になる地球温暖化対策や生物多様性保全などの環境保全型農業に関してのアンケート調査を実施し,その結果をとりまとめたものです。なお環境保全型農業は農林水産省が以下のように定義して,推進しようとしています。

農業の持つ物質循環機能を生かし,生産性との調和などに留意しつつ,土づくり等を通じて化学肥料,農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業

このアンケート調査はWebを通じて実施されており回答者は,農業者の全国平均と比べると若い・男性が多い・学歴が高い・専業が多いという方向に若干偏った層となっていて,農業をある程度収入の中心と考えている人たちと見ていいでしょう。

アンケート内容について

アンケートの集計結果を見てみましょう。

まず環境保全型農業への取り組みについてですが,46.9%が慣行型のみと回答しています。つまり約半数が何らかの環境保全型農業の取り組みを実施しているということです。これを多いと見るか少ないと見るかはそれぞれの考え方によって異なるかも知れませんが,時代のトレンドとしてある程度定着しているということではないかと思います。
そして,環境保全型農業への期待として,「生産物価格の上昇」を挙げているのは39.6%でした。またデメリットとして,「作業負担が大きい」が62.2%でした。

生産者の頭の中では「環境保全型農業をやらなきゃいけないのだろうけど,手間ががかかるし,付加価値向上にはつながっていないよね」という感じがあるのでしょう。

アンケートの中にはIT活用度に関する質問もあります。圃場での利用に関しては,「あてはまるものがない」が81.2%を占め,生産活動においてIT技術の活用はほとんど進んでいません。経営での利用に関しても「あてはまるものがない」が43.0%となっており,改善の余地がありそうです。
実際に農家さんのお話をうかがっても,生産や流通に関する実作業が忙しすぎて,やりたくても手が回らないというのが実情だろうと感じています。

農家の分類について

この研究論文では統計的手法を用いてアンケート結果を数値化して,農家を5つの型に分類しています。この分類方法がとても興味深いです。

①平均型 ②高齢零細型 ③環境意識高い型 ④環境に興味なし型 ⑤スマート農業型

それぞれの型がどのような特徴を持つかと言うと,

①平均型
・比較的小規模(販売金額300万円以下)
・ITの利用度はそこそこ
・情報源としてはセミナーや講演が多い

②高齢零細型
・小規模・専業割合が最少・コメ農家の割合が最多
・情報源としては身近な人,テレビ・新聞が多い

③環境意識高い型
・男性割合が最多・専業は少ない
・IT利用度比較的高い
・情報源は書籍が多い

④環境に興味なし型
・男性割合が最少・専業が比較的多い
・IT利用度が最少
・情報源はネットの口コミが多い

⑤スマート農業型
・専業割合が最多・小規模割合は最少
・IT利用度は最も高い
・情報源として身近な人,ネットの口コミはあまり利用していない

①平均型はあまり特徴がなく,②高齢零細型は名前の通りです。

③環境意識高い型はいろいろ学んで取り組んでいるが,あまり儲かっていないというのが正直なところではないでしょうか。

④環境に興味なし型の男性割合が最も低いのは意外です。IT利用度は低いが,情報源としてはネットの口コミを重視しているというところはおもしろいところです。専業割合は⑤スマート農業型と10%しか変わりませんが,小規模割合は30%の差があり,収益性に問題ありと言わざるを得ません。

⑤スマート農業型は収益を上げることを優先に取り組んででいて,情報も満遍なく多くのソースから取り入れようとしているのでしょう。エコファーマーの割合が最多になっているなど環境保全型農業への取り組みもアピール性重視のとろもあるかも知れませが,結果として取り入れることになるでしょう。

環境保全型農業への取り組みに関するアンケートですが,農業に関する現状の全体が見えてきていると思います。

まず最も大事なのは収益性を上げること。その結果として環境保全がついてきます。収益性を上げるということにフォーカスすれば,IT活用度にはまだまだ改善の余地が多くあります。僕が貢献できることがありそうです。



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