父
今朝、久しぶりに台所の窓を全開にして洗い物をしていると、
涼しい風が顔に吹いてきた。
暑さ寒さも彼岸までと言うが、本当にその通りなんだなぁと、
今さらながら 妙に感心した。
今日は墓参りを予定していたのだが、今にも雨が降りそうな空模様…。
ほんの少し躊躇しながらも、行くことにした。
寺に着いた頃には、雨はけっこうな降りになっていた。
傘を… と思ったが、花やら水やらを抱え傘をさすのは大変なので、
濡れて行くことにした。
坂道を登ること百メートルくらいで我が家の墓地がある。
途中、前を歩く夫婦連れの奥さんの方が振り向きざま僕に近寄り「車に行けば折り畳み傘がもう一本あるので、貸しましょうか?」と言ってくれた。
なんてやさしい夫婦なんだと、ありがたさや嬉しさを通り越し感動した。
もちろん「いえ、僕も車に行けば傘がありますので」などと無粋な事は言わない。「ありがとうございます、大丈夫です、ありがとうございます」と、
思わず二度「ありがとうございます」と言っていた。
決して僕が水もしたたるイイ男だったからではなく…(笑)
おそらく二人で決めて、そう言ってくれたのだと思う。
この心根のやさしいご夫婦に、たくさんの幸せが訪れてくれますよう、
ぼくは祈った。
かなり前の事になるが、父急死の報を受け急ぎ実家に戻った僕は、
溢れ出る涙にかまうことなく、ただただ呆然とするばかりだった。
婿養子でこの地に来た父は、とても寡黙で真面目な人だった。
とくに趣味もなく黙々と働き、黙々と日本酒を飲んでは、いつも満足そうに
目尻を下げていた。
小さい頃、父の背中で見た花火は、今も目に焼きついている。
父に背負われ歩いた夜の山道は、少しも怖くなかった。
あまり話す事はなかった父だが、ぼくは 大きな愛を感じていた。
ブドウ畑に囲まれた家で幼少期を過ごし、辺り一面が田んぼの家で少年期を過ごしたぼくには、あの黄金色の田のさざ波に、ぼんやりと父との思い出が残っている。
実家の整理をしているとき仏壇を見ると、燃え尽きた線香とともにタバコの燃え残りがあった。 理由は分からないが、父がした事だった。
以来僕は、墓参りには必ずタバコに火をつけ線香とともに供える。
今日もそうしたのだが、そういえば吸っていたのはセブンスターだったよなと思い出し…
ケントでごめんよ(。-人-。) と言いながら、手を合わせた。
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