「文系AI人材になる」の著者が『シン・ニホン』を 読んだら「AI総合職」の未来が見えてきた 〜シン・ニホン読書感想〜
のぐりゅう(野口竜司)
ZOZOテクノロジーズ VP of AI driven business
『シン・ニホン』との出会い
はじめまして。野口竜司と申します。のぐりゅうと呼んでもらえると嬉しいです。私はZOZOテクノロジーズでAIをビジネス活用する責任者をやりながら、中高生にAI教育を広めるような活動をしています。(参考:中学・高校へのAI本の無料配布活動)
私は、『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)という本を2019年12月に出版しました。『シン・ニホン』が出版されたのが2020の2月なので、約2ヶ月前のことになります。『文系AI人材になる』は、その名の通り「文系」でもAIを使いこなす人材になるための本です。少し大げさにいうと、「これからのニホンのことを考えると、AIを作る『理系AI人材』だけでは不十分だ。むしろ、AIを使う側の『文系AI人材』を数多く育成しなければいけないのではないか。私の使命は、『文系AI人材』を量産しようという国内ムーブメントを起こすことにあるのではないか」。『文系AI人材になる』を出版したのはそういった思いからでした。
そのような中、私の本の出版から間も無いタイミングで『シン・ニホン』(NewsPicks パブリッシング)が出版されました。気になって検索してみると、なんと副題には「AI×データ時代における日本の再生と人材育成」とあるではありませんか。私の日々の課題意識と近しいものを感じ、他人事とは思えない心境で『シン・ニホン』と向き合いはじめたのでした。
『シン・ニホン』はニホンの未来を創る”最強の”教科書
『シン・ニホン』を初めて読んだとき、衝撃が走りました。そこには私が自著(『文系AI人材になる』)で世の中に伝えたかったことが、すべて書いてあったからです。しかもデータによるファクトベースでの論理展開と、高い視座からの問いかけには、私の考えとの奥深さの差をはっきりと感じ、劣等感すら覚えました。
一方で、一つの前向きな手応えもありました。それは、『シン・ニホン』と自著が、「同じベクトル」を向いていることでした。「同じベクトル」のその先にあるものは何か?それは、「AI活用」「人材育成」を充実させることによる「ニホンの明るい未来」です。
私は、こう考えるようになりました。両著は「ニホンの明るい未来」を目指し、「AI活用」「人材育成」を重視する点で共通している。自分が出版を通じて目指したことを『シン・ニホン』がずっと高い次元で実現しているのならば、私は『シン・ニホン』を誰よりも深く理解し、たくさんの人に広げる役をやればいいのではないかと。
私が知るかぎり、『シン・ニホン』は、ニホンの未来を創る”最強の”教科書です。この”最強の”教科書の理解者となり、そして伝道者となることで、ニホンの明るい未来を作ることができるかもしれない。自分の本を差し置いてそう思わせてくれるほどに、素晴らしい本に出会えたことに感謝しています。
なお、とにかくこの本は奥が深いです。一章一章に、むしろ、一節一節のレベルで非常に濃厚に、かつ繊細に事実と想いが綴られています。まだ読んだことがない人はぜひ読んでください。すでに読んだことがある人も、ぜひ何度も読み返してみることをお薦めします。
「AI-readyなニホン」を創ろう
さて、話を具体的な本の内容に移していきます。みなさんは経団連によるAI活用戦略をご存じでしょうか? このAI活用戦略の中でとりわけ注目してほしいのが、『シン・ニホン』でも紹介されている「AI-ready化ガイドラインの5段階」です。これは、企業のAI-ready度、つまりAI活用に対してどれだけ準備できているかを5段階で表したものです。
実は、私は企業向けにAI研修を行う際、必ずと言っていいほどこの「AI-ready化ガイドラインの5段階」を紹介してきました。このガイドラインと『シン・ニホン』で再会したときは驚きました。また、安宅先生がこのガイドライン作りに深く関わられていたことも知り、私はますます『シン・ニホン』にのめりこんでいきました。
「AI-ready化ガイドラインの5段階」は、すべての日本企業が拠り所にすべきモノサシだと言えます。『シン・ニホン』の中でも語られていますが、これから世界はデータ×AIの本格活用期に入り、指数関数的な、驚くべきスピードで変化していきます。この変化に適応できるかできないかは、変化の源泉となる「データ×AI」を使いこなせるかどうかにかかっているのです。
にもかかわらず、日本企業のほとんどがデータ×AIに対する備えがレベル1もしくはレベル2であると言われています。日本が十分な生産性を保ち、国の豊さを守るために、このAI-ready化のレベルを引き上げ得ることは企業にとって必須であると考えていいでしょう。
AI-readyなニホンを創るには、多くの企業のレベルを引き上げなければなりませんし、そのためにはまず企業内でAI-ready化のリーダーシップを取れる人材を育成しなければいけません。AI-readyな企業を量産するにはAI-readyな人材の量産が必要なのです。
「シン・ニホン」はAI-ready化を推進するための「人材育成本」でもあります。AI活用人材の育成のためにも、ぜひ、この本を企業内で多く活用していただきたいです。
引用:https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/013_honbun.pdf
『シン・ニホン』を読んだら「AI総合職」の未来が見えてきた
『シン・ニホン』を何度も読むことでたくさんの学びがあったのですが、中でもとりわけ大きな収穫は、「AI総合職」という未来の職業の形が見えてきたことです。
なお、「AI総合職」という言葉は『シン・ニホン』の中には出てきません。私がこの読書感想文を書くにあたり命名しました。
この「AI総合職」という言葉の反対には「AI専門職」があります。「AI総合職」と「AI専門職」のそれぞれの仕事内容や問われる能力は、次のように分かれます。
「AI総合職」の仕事内容と求められるもの
・AIを「使う」側の仕事
・AIにより「課題を解決」する
・業界や組織内のドメイン知識が重要
・リーダーシップやマネジメント、コミュニケーション全般が問われる
「AI専門職」の仕事内容と求められるもの
・AIを「作る」側の仕事
・AIを「構築したり賢くしたり」する
・AI、サイエンス、エンジニアリングの深い知識が重要
・専門領域における探求力が問われる
これまでの日本では、企業での採用や人材育成においても大学での教育においても、データサイエンティストやデータエンジニアなどの「AI専門職」にフォーカスが当たった議論ばかりだったように思います。
『シン・ニホン』の中では、データ×AIを活用する人材として、「AI専門職」のみならず、「専門家レベルではないにせよAIの知識を持ち、AIを使いこなす人材層」についても言及があります。同書では、「専門家層」とは違う層として「リテラシー層」が設定され、また「課題を設定し解決する力」と「データ×AIの力を解き放つ基礎能力」を持ち合わせる人たちは「リテラシー層」と定義されています。
私は、この「リテラシー層」をより親しみやすくするために、「AI総合職」と呼ぶようにしています。
「文系・理系の区分」がもう古い?!
あえて私が「AI総合職」という言葉を使ったのは(「文系AI人材になる」という本を書いている張本人から言うのは勇気がいるのですが)、「文系・理系」の区分自体がすでに世の中にフィットしていないのではないかと思い始めているからでもあります。ここまで「AI総合職」と「AI専門職」の2つについて述べてきましたが、学校教育現場においても、たとえば大学も学部を「文系」「理系」と分けるのではなく「総合と専門」と分類にするべきなのかもしれません。
学校におけるAI教育の観点からみても、「総合と専門」に分けると、「AI総合職」と「AI専門職」の両方を育成することが可能にもなります。なんとなく形成されている「文系だからデータやAIのことを学ばなくてもいい」という雰囲気を払拭し、専門家・エクスパートでない人でも、基礎教養としてデータ・AIの基本を必修で学ぶような教育の基盤ができれば、「リテラシー層」つまりは「AI総合職」を日本中で量産できるようになるはずです。
「残す価値のある未来」を創る人材を育てよう
これまで論じてきたように、企業サイドでは社内のAI-ready度を上げること、つまり社員全員のAI-ready度を上げることが急務ですし、教育サイドでは「文系・理系」の枠組みさえ乗り越えた、新しい概念でのAI教育を早期に進めることが必要です。
この考えを後押ししてくれたのは、紛れもなく『シン・ニホン』という一冊の本でした。
また、もう少しスコープを広げた話として、「AIを使いこなせる人材を増やして何を実現するのか?」という問いについても、『シン・ニホン』は明確に答えを示しています。人材育成の先にあるのは「残すに値する未来を創る」ことだというのです。
『シン・ニホン』は、残すに値する未来を創るために、「私たち現役世代が何をしなければいけないのか?」「何からアクションができるのか?」「人とどのように手を取り合わなければいけないのか?」、このような問いを無限に与えてくれます。この「問い」は、私が専門とするAIには到底解くことができない問題です。むしろ、人間だからこそ解くことができる問題なのです。
個人的な解釈ではありますが、『シン・ニホン』の中のたくさんの「問い」は、「AIを本格的に活用する時代で、人間はどのように価値を生み出すべきなのか?」という、これからの人材育成の本質に迫る、大きな「問い」のためにあるのではないかと思います。
私は、『シン・ニホン』を通じて、「問いは人を創る」源泉であるということを確信しました。AIの本格活用時代に必要な人を創るための本質的な「問い」が詰まった『シン・ニホン』は、やはり、ニホンの未来を創るための”最強の”教科書であると断言することができそうです。そして『シン・ニホン』はニホンの未来を強くする「AI総合職」に、AIを活用する際の正しいマインドや感性・知覚を与えてくれることでしょう。
最後に、『シン・ニホン』の著者である安宅和人さん、『シン・ニホン』を産み出したNewsPicksパブリッシング編集長の井上慎平さん、編集に関わられた岩佐文夫さん、『シン・ニホン』出版に関わった全ての人に感謝を申し上げます。