NO GUARANTEE MAGAZINE ARCHEIVE 彩羽匠インタビュー③(2019年)
理想のスタイル
ひと言で言うと「魅せる」なんです。プロレスでは当たり前のことではあるんですけど。難しいな、言葉にするのは。たとえば、女子プロレスには女子プロレスの「間」、男子プロレスには男子プロレスの「間」があるんです。現代の女子プロレスって「間」があまりないんです。その間を見せるためには、一発一発の技だったり重みだったりがある。女子プロレスって体が小さい人も多いし、パワーが男子よりない。ドロップキック一発にしても、女子は、すぐ相手が立ち上がってくる、それくらいの威力。そうすると、また技を仕掛けていかなければいけない。でも男子ってドッロップキック一発でダメージつけて、「間」ができる。男子ほどできないにしても、その「間」ができることで、お客さんと会話ができる。しゃべる会話ではなく、表現だったりとか、お客さんに伝えることができる。今の女子プロレスを、ちょっとでも、その「間」に近づけたいと思っています。
プロレスは、試合を通して相手やお客さんと会話ができる。言葉じゃなくても。相手に賭ける想いとかを自分だけが持っていても仕方ない。人間って隠しやすい性質。泣きたいけど我慢する。悔しいけど、そんなの見せたら恥ずかしい。プロレスで、お客さんと一緒に喜んだり。そういうのって大事。(旗揚げ1周年の)世志琥さんとの試合ぐらいから、自分の感情が押さえきれなくなってきて。世志琥さんとはいろいろあったので、感情が忙しかったですね。それがお客さんにも伝わったことによって、世志琥さんを知らないマーベラスのお客さんにも試合を通して、世志琥さんに対する自分の気持ちが伝わった。それをみなさんが良かったと言ってくださるんですけど、逆に周りの声を聞いて「良かったんだ」と思いました。そういうものって、練習とかではないもの。そういうプロレスがいっぱいできたらいい。
マーベラス旗揚げ1周年では、世志琥と対戦。お互いが納得の内容で、試合後の二人は、満足感いっぱいの笑顔を見せた。その前後からSEAdLINNNGやWAVEといった他団体からのオファーも増え、対戦相手の幅も広がった。彩羽が、プロレスにありがちなマイクパフォーマンスでアピールすることは少ない。言葉ではなく、行動で見せるタイプ。美闘陽子とのタイトルマッチ終了後、負けたわけでもないのに、ベルトを美闘の腰に巻いてあげるシーンを見た時、「なんて素敵な心のあるプロレスラーになったんだろう」と思ったことを強烈に覚えている。
試合を通したコミュニケーション
(手の合う人は誰かという問いに対して)世志琥さん。引退された美闘さんもそうでしたし。七奈永さん。七奈永さんは試合を通してのコミュニケーション。世志琥さんは、自分が思っていることを受け入れてくれて、逆に返してきてくれた。美闘さんは、存在は知っていても、どういう選手かよく知らなかった。試合を通して、初めましてという感じで挑んだんですけど、初めてじゃない感じで、前から知り合いでしたっけという感じだったんです。七奈永さんは感情が強すぎて、「ウワー」とぶつけても「そうなんですね」という感じ。Sareeeさんは、体が小さいけど、気が強い。気が強いアピールされると自分も負けられないので、どんどんヒートアップしていくという感じでしたね。感情は出していきたいです。その感情を言葉で表現できたらいいと思いますが、そこは自分の弱点ですね。試合の前とかも、どんなに面白くなるんだろうとか思ってもらえることを言えたら。そうしたら、試合でもどんどん感情が上がってくだろうし。もっと喋る機会を増やした方がいいのかな。もうそろそろ結果をだしていかなければいけないし。
ベルトには興味はなかったんですが、巻いたときに、周りからの対応が変わりましたね。今まで自分がやってきたことをやって、タイトルマッチで勝って、そこにベルトがついてきたという感覚だったんですが。ベルトを巻いたら、試合をしたいという選手も増えたし。取材もしてもらったし。勝った証にベルトがついてきたと思ってたのが、ベルトを持つことで影響があったり。「マーベラスを自分がひっぱっていくんです」と取材でも言う。ベルトによって自覚が、すごく変わったので、ベルトの良さに気づいた。持ってみたら、ああこういうことなのかというのがわかりましたね。マーベラスにはベルトがないので、他団体から奪ってくるしかないんですけど。長与さんはつくらないと言ってますが。ベルトがあって、それを団体内で競うのも楽しいですね。
ありがたいことに、WAVEさんでは、タイトルマッチに呼んでもらったり、SEAdLINNNGさんでもチャンスを与えてもらったり、大事なところに呼んでもらってるのは、良い経験ができる。マーベラスではできない経験も積ませてもらってるし。対戦相手とか、タイトルマッチの緊迫感。スターダムの時もアウエイ感が楽しかった。自分の中では久しぶりですという感覚だったのが、誰だよ?的な反応で、上等だよという感覚が面白かった。ヒール向きかもしれない。一回長与さんに言ったことあるんですよ。「ヒールをやってみたい」と。そしたら「お前結果出してから言え」。仰る通りです。
長与千種イズム
長与さんからは、基本、反省は自分でしろと突き放されるんですね。それは、自分が一番わかっていることなんですけど。自分でわからなければ、これからの伸び代がなくなっていくから、自分でさがせと。マーベラスに入って、最初に言われたのが、「頭の先から指先、足先まで、すべてがプロレスだと思え。指先一つの動かし方、頭の動かし方、髪の毛の揺らし方、それが全部お客さんの目に入っているから、絶対に気を抜くな」と。前の団体で教わってないことを最初にパンと言われて。それが衝撃的。ただ技をやればいい、受けていればいい、勝てばいいとかではない。自分が捉えていた物から外れたことを言われたので、それは衝撃的でした。印象に残っています。
長与さんは、携帯で試合の映像を撮ってくださるんですね。最初は見るのは嫌だったんですけど、今は見ます。恥ずかしいんです。でも、お客さんの反応が良かったとしても、意外と自分の目線で見るとショボっと思ったりするんです。練習で10回中10回できないと試合でやっちゃいけないと思っていて。失敗は見せちゃいけないけど、相手に怪我をさせちゃいけない。落とし方一つにしても数ミリの世界ですから。危ない落とし方一つにしても。試合中に、練習と違うとちょっとでも思うと、めちゃくちゃ反省しますね。怖い技とか自分が危険な技とかは、アドレナリンが出てないから練習ではやらないけれども、本番では、お客さんが見てくれているからできるというのもあります。怖いこともできちゃうこともあるんですけど。例えば1回できても次できなかったら意味ないと思うので。
後輩の子にも教えてますね。例えばプランチャをやるときに、指先を開くのか閉じるのかとか。どうせやるならカッコいい方がよくない?と。長与さんから教えてもらったことは、自分なりの解釈で教えています。長与イズムって、深いところにあると思うんです。技とか受けの美学というより、人間性だと思うんですね。人の痛みだとか、悲しさ苦しさを共有したり寄り添ったりできないと、自分が苦しいこと痛いことされても、相手には伝わらない。相手の気持ちを知ろうとしないといけないと思うんです。深すぎるんです。いろんなことがあるので。長与さんに教わった人たちを見ると、備わってると思うんですよね。みんなそれぞれカラーは違うけど。挨拶ひとつから教わっている。そういうところから、長与さんは教えてきたのかなと思います。私も、挨拶できない子にはプロレスを教えないし。ごめんなさいを素直に言えないとやらせないというのはありますね。
プロレスって正解がない。よく後輩が色々言われて反省して落ち込んだりしてるんですけど、「自分でも反省がないときはないよ。100人いたら100人の受け止め方があるし、見方もある。正解がないんだから。完璧を求めるよりも、自分が求めるプロレスラーになることが大事。くよくよするんじゃなくて、それをプラスに考えることが大事」。何も言われなくなったら、自分は終わりだと思うので。
4へ続く