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弾薬の生える森-やんばるの米軍廃棄物と世界自然遺産(中)

世界遺産に隠蔽と虚偽で挑む

  (上)では、沖縄島北部の現状と、世界自然遺産登録に向けての審査項目をクリアしているのか否かをIUCNの審査と日本政府の対応を通して、現時点では世界自然遺産登録にそぐわない状況であることを述べた。そぐわないというよりは、「ユネスコに大金を払っているのだから登録しろ」と言わんばかりの対応と、杜撰なそして適当な虚辞を並べて登録に推薦している。これは、世界遺産そのものを貶める行為であり由々しきことではないだろうか。

 正式名称をジャングル戦闘訓練センター(Marine Corps Jungle Warfare Training Center)と呼ばれる北部訓練場が、世界遺産にとって最も重要なプロパティ(コアゾーン)の保全にあたるバッファゾーンに位置しており、日本政府はこの事態を

推薦資産に対する重要な実質的緩衝地帯として機能し、(略)

(世界遺産一覧表記載推薦書-奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(仮訳)2019.1日本政府 5.a.3 238頁 ※以後、2019年推薦書と明記)より抜粋

と、して実質的にバッファゾーンとして機能していると示している。しかも、「重要な」と付け加えるほど絶賛していることは、前回紹介した通りである。更に、ここで強くお伝えしておきたいことは、以下のように日本政府が北部訓練場の実状を無視してありがたがっている状態である。

景観の連続性に貢献し、固有種・絶滅危惧種の重要な生息地を提供している。

2019年推薦書 5.a.3 238頁)より抜粋

 不愉快と不可解なことは資料を丹念に読めば一目瞭然であるが、すべての人が目を通すわけではないので、以下にわかりやすく2019年推薦書の367枚325頁内にある「該当文字」と「該当文字の使用回数」をまとめてみる。

米軍基地・・・・・・5回
米軍・・・・・・・・20回
北部訓練場・・・・・31回
北部訓練場返還地・・7回
廃棄物・・・・・・・2回

上記該当文字は、主に米軍との日米共同でのマングース対策についてや、返還された事実またはそれに伴って使用された言葉となっている。廃棄物については以下の2回となっている。

防衛省が関係法令に基づく土壌汚染調査や廃棄物処理等を行い、土壌汚染や水質汚濁等がないことを確認し、返還地は、2017年12月に防衛省から各土地所有者に引き渡され、

2019年推薦書 2.b.1 110頁)より抜粋

当該返還地については、防衛省において、米軍接収以前を含む土地の使用履歴を調査し、土壌汚染や水質汚濁等の蓋然性を把握した上で、ヘリパッド跡地や林道、過去のヘリコプター墜落地点等を中心に、関係法令に基づく土壌汚染調査や廃棄物処理等を行った。その結果、土壌汚染や水質汚濁等がないことを確認し、2017年12月に土地所有者である林野庁、沖縄県及び国頭村等に土地が引き渡された。

2019年推薦書 Box 8 118頁)より抜粋

 防衛省・環境省・外務省の認識では支障除去は終わっているとされている。これも、世界遺産登録に向けての準備に含まれる虚偽である。世界自然遺産を推している環境省の見解は、実際に現地へ出向いて調査した見解ではなく、防衛省が支障除去完了と言っているから支障除去は終わったという姿勢である。また、防衛省に聞けば米軍の使用履歴を元に調査を行ない適切に対応・処理したという。しかし、現時点でも廃棄物がやんばるの森の中から発見されていることは、防衛省も環境省も認識しており、何をもって「支障除去完了」としたのかとの回答には常に「土地所有者(林野庁)や関係機関と協議の上」としている。つまり国家ぐるみの話し合いで既に終わった話とされている状態である。
 廃棄物などない美しいやんばるの自然を世界遺産にしようとすること自体に異論はない。しかし、実際には廃棄物だらけである。廃棄物があることを隠蔽してまで世界自然遺産に登録したいと懇願する理由は一体なんなのであろうか。廃棄物を適切に回収し、堂々と胸を張って世界自然遺産登録を目指すべきではないだろうか。

防衛省の植民地根性

 防衛省が米軍の使用履歴を元に支障除去を行なったとされるが、米軍の使用履歴に「有害物質を使用した施設もない。有害物質を埋めたという経緯もない。」との回答があったとされる北部訓練場返還地内から、(上 銃弾が生え有害物質が残置される候補地)で示したように放射性廃棄物コバルト60が付着した電子管がコンクリートに埋められていた様子で発見されている。

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  電子管の第一発見者は、防衛省(沖縄防衛局)に委託された「いであ株式会社」である。発見した令和2(2020)年10月5日に公表はせず、翌日6日に沖縄防衛局宛に「鉄板の掘り出し作業中にコンクリートガラ・金属片と一緒にペール缶が出てきました」というメールを送付している。上記2枚の画像はその時に添付された画像である。その後、同年10月25日に蝶類研究者の宮城秋乃氏はこの電子管を発見し、これを専門の研究者に持ち込んだところ放射性物質のコバルト60が検出された。また、電子管に付着していた布からはPCBも検出され、12月15日から大きく報道がなされた。その報道を受けてようやく沖縄防衛局が慌てたのであろう。開示請求で得た資料によれば、同年10月6日にいであ株式会社が沖縄防衛局に送付したメールに対しての返信はしなかったようであるが、12月16日午前9時37分に再度いであ株式会社が沖縄防衛局に電子管についての資料をZIPファイルにしてメールで送信している。それを元に同日午後3時29分から沖縄防衛局からG-7政務外交部への英文を含めた問い合わせや、省内へのマスコミ対応についての詳細などをまとめる対応に追われている。ここには環境省や沖縄奄美自然環境事務所などとの口裏合わせや見解の承認・確認などが行なわれた形跡もある。気になるのは、政務外交部からの返事が無いことである。我々の防衛機関は米軍に関する問い合わせをしたところでまともに返事をもらえない。しかし、でも米軍をあやかり、持ち上げ、信じてやまない。目の前にある事実よりも「米軍からの回答は「有害物質を使用した施設もない。有害物質を埋めたという経緯もない。」のだから、防衛省の見解も「ない」のである。または「あった」ことも「ない」ことにしなければならない。これが我が国家の防衛機関の態度である。なんとも情けない。

どこまでも無知な米軍の環境保全

 防衛省がどうしようもないのは事実であるが、米軍という組織も相当どうしようもない。米軍と大きく広い意味で述べてきたが、米軍の中でも海兵隊については、手のつけようもない程にどうしようもない組織であることは強調しておきたい。これは大事なことである。詳しくはまた別の機会に述べることとする。北部訓練場では海兵隊が日夜訓練を行なっている。ベトナム戦争時には、北部訓練場のジャングルで訓練をした海兵隊が戦地へ向かった。そのときに作った蛸壺は現在もそのままであるが、時としてこの蛸壺を特定のゴミ箱にしていたと思われるような大量の弾薬や野戦食の袋が集中している場所も多々ある。
 米軍が実弾は使っていないとされていた場所から実弾が出てくるし、米軍が有害物質は埋めていないとされる場所から放射性物質が出てくる。こうした虚偽は、単なる虚偽なのかそれとも戦争で忙しいといった具合での適当な回答なのか、あるいは日本が完全に馬鹿にされているのか、いずれにしても正解ではあるが、甚だ遺憾に思うことは、米軍は常に正しいと思っている姿勢である。

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 この画像は、令和元(2019)年11月に放送された「汚された奇跡の森〜世界遺産候補地のリアル〜RBC琉球放送」の、ザ・フォーカスによる放送回でのスクショで、米海兵隊太平洋基地環境保全課のデイヴィッド・ローエン課長が、誇らしげに北部訓練場内や北部訓練場返還地における環境維持活動を語っているシーンである。最後に、取材班に'返還地で弾などが見つかっていること'について問われると、'知らない'と簡潔に答えているのは何とも滑稽であり、これが環境保全を肩書に持つ米軍上層部の見解であることを肝に命じて世界自然遺産を考えなければならない。こうした「自分たちの組織があたかも正しいことをしてきたと語る組織によくありがちな過ち」ほど、その外に生きるものに対しての迷惑なものはない。この見解からもわかるように、日米合同のやんばる地域における環境保全などというのはスタート地点からデタラメなのである。

格好だけの無意味な調査

 2017年10月に生物学者であり地理学者のバスチャン・ベルツキー(Bastian Bertzky)氏が来日し現地調査を行なったが、2019年にも再度来日し非公式に現地調査を行い、IUCN科学アドバイザーとして再推薦に向けてのアドバイスを環境省に行なっていたのである。氏はアジアにおける世界遺産地域の開発や森林破壊を危惧する記事を掲載しているプロジェクトチームの大変優秀な学者の一人であるが、現地調査で氏が目にした光景は表面的且つ一時的な部分に過ぎないことが以下の文章から読み取れる。

 今回の現地調査において、北部訓練場(以下「NTA」という。)返還地を含む数カ所の現地視察で、これらの地域の重要な価値と完全性が確認され、これらの地域を推薦地に包含することの重要性を確認した。すなわち、NTA返還地は林齢の高い樹木や重要な希少種も存在し、既存の推薦地と変わりの無い重要な地域であり、これらの森林は保全価値の高い素晴らしい森林である。

環境省九州地方環境事務所-非公式現地調査を踏まえたバスチャン・ベルツキー氏からの助言  資料2-1別紙より引用)

 この時の氏の調査は、2019年推薦書123頁にも「助言を受けた」として記載されている。わたしは北部訓練場内に入ったことはないが、北部訓練場を高台から見下ろした時の光景を思い出すとそれは壮観であり、氏のこの発言は事実だと推測出来るが、やはり何か大事な部分が抜けていると指摘せざるを得ない。米軍によるヘリの離着陸する際の防風や地響きはもちろん、射撃の演習などが調査日に意図して行われていなかった場合は致し方がないのであるが、氏が生物学者であり地理学者であり、さらには環境保全のスペシャリストとしてその実態を目にした上でのこの感想だとしたら、氏は未来永劫環境保全を語る資格はない。もし、そうではないとするならば、その場合は環境省が案内している箇所が意図して米軍による騒音のない場所へ案内していた可能性や、あるいは米軍が意図して訓練を行わなかった可能性もおおいにある。なぜそう言えるのかは、環境省も防衛省・防衛局も実際のところ、沖縄島北部の山中にそれほど詳しくはない。膨大な敷地の中にある特定の箇所については詳しいにしても、ジャングルの中をくまなく知った人はいないだろう。ジャングルの中に入るには時間もかかり体力も使う。そのため、防衛省あるいは防衛省に委託された民間会社や、森林管理署でさえ一度行き着いた場所でさえ次に行けるかは困難を極める為、目印をつけている。更には、一度現状を見にいった防衛省の職員が、FBJヘリパッド跡地について「かなり険しい山ですし、崖のようなものもたくさんありまして、私はあまり山歩きになれていないので登山靴で行ったのですが、FBJに登るのはかなりきついところであると認識しております」と発言している。(※2019.08.28 島ぐるみ会議東政府交渉 youtubeより
 こうした見解も踏まえると、誰がわざわざジャングルの中や険しくて危険な場所へ案内が出来るのだろうか。足元に未使用の銃弾が落ちている場所で、暴発でもしたらひとたまりもない(世界遺産登録には程遠くなる)ところへ誰も案内などしたくはないだろう。そうしたことから、安全と安心が整った状態の沖縄島北部にバスチャン・ベルツキー氏は案内され、調査したのだろうと安易に推測が出来る。つまり出来レースの報告書作りに、専門家の調査が入ったという事実を加えたかっただけであろう。

良心に問う

 無駄なことだとしても、あなたの良心に問いかけることをいま試みたい。沖縄島北部の現状を知った上で、世界自然遺産登録となることは本当に素晴らしいことなのだろうか。わたしはそうは思わない。先述したとおり、廃棄物を適切に回収し、堂々と胸を張って世界自然遺産登録を目指すべきではないだろうか。現状で登録されても、素晴らしいとは言えないはずである。わたしはこの登録が正式に決定すれば、我々は嘘つきで嘘を突き通すことに成功したと世界中の人々から指を刺されるような気がして大変な苦痛であるし、どうもわたしは、この堂々としていない姑息な体質が嫌いなようである。空気に巻き込まれて同調し、歓喜をあげることなど、どう藻掻いても出来ないし、自分の中で許されないのである。やんばるの森は本当に美しく、感動が詰まった場所で、人々を癒す場所には間違えない。しかしそれは同時に、一旦やんばるの森の魅力に取り込まれて奥へ進むと、悔しくもあり残酷でもある光景を目の当たりにして落胆してしまう場所であることにも間違えないのである。ノグチゲラの鳴き声を聞いていると、鳴き声を真似たくなって声に出して真似てみる。そのわたしの声に反応したわけではないのだろうけれども、またノグチゲラが鳴いてくれる。わたしはそういう単調な、決して着飾った話ではなく、単純につまらないと思われる程度でいい、自己満足で終わる程度の話がしたいのである。しかし、ノグチゲラの声をかき消す米軍機の低空飛行は、声をかき消す程度では収まらず、地響きと暴風を撒き散らし、森を一気に豹変させる。その後、しばらくノグチゲラは鳴いてくれないのである。このようにして、わたしのつまらない単純な自己満足な話が出来ない。わたしも含めて大概の人は、簡単には返事も出来ない複雑で頭をうまく使わなければ答えも出てこない話を聞いたら直感で面倒だと思うことがある。話をしてきた相手にもよるが、あるいは不愉快になることもあるかも知れない。だからただ美しい、ただ癒やされる、ただ貴重だと言ってやんばるの森を多くの人に知ってもらうことが出来たらどんなに楽で簡単だろうかと思う。もちろん簡単な方を選択することはとても容易いことなのかも知れないが、わたしはノグチゲラを含め多くの希少生物のことを思うと、あの森が豹変する光景が不憫でならず、胸が苦しくなってしまい、簡単な選択が出来ないのである。大量の廃棄物や化学物質ばかりではなく、今後まだ発見されるであろう危険物や、米軍機による地響きや暴風がやんばるの森を異常にしている。この事実とどうか真剣に向き合って欲しい。

(下)に続く

参考文献・参考ページ

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 世界自然遺産候補地(環境省)
非公式現地調査を踏まえたバスチャン・ベルツキー氏からの助言(環境省九州地方環境事務所)
elsevier-Losing the world’s natural heritage(エルゼビア-James R. Allan, Oscar Venter, Sean Maxwell, Bastian Bertzky, Kendall Jones, Yichuan Shi, James E.M. Watson Biological Conservation, Volume 206, February 2017, Pages 47-55)
2019.08.28 島ぐるみ会議東政府交渉 youtubeより
これが民主主義か?辺野古新基地に’’NO’’の理由-影書房(汚された世界遺産候補地-北部訓練場返還地⦿宮城秋乃 123頁)

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