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祓い、護る者たち 41話


中田:えっ.....嘘....でしょ........

途切れる声で、最期にそう呟いた中田は、抵抗することなく断面を軸に上半身が滑り落ちる。

美月:そ、そんな....花奈さんと日芽香さんが......

目の前で呆気なく殺された二人の姿を見て、絶望の声を上げる美月。

他のメンバーも口には出さないものの、美月と同様の心情であり、その顔は絶望の色に染まっていた。

すなわち、自分達はここで死ぬのだと。

術師達にとって憧れの存在であり、術師となった自分達が目指していた存在でもある一級術師。

彼女達がいれば、大丈夫。

新人である美月達の間にあった共通の認識は目の前に倒れている二人の死体によって、瞬く間に崩れ去った。

「なんや、一級って案外大したことないんやなぁ〜」

先程までの嬉々とした態度から、今は少し残念そうな表情を見せる関西弁の男。

その口調や風貌からだけでは判断できないが、二人の一級術師を文字通り瞬殺したことから、この男の実力は恐るべきものであることが分かる。

そして、同時に自分達ではこの男の足元にも及ばないということも。

「雑魚を弄ぶのもええけどなぁ〜。少しくらい耐えてもらわんと萎えるしなぁ.....」

そう言って、男は舐め回すように美月に視線を向ける。

その視線に、恐怖からか、はたまた嫌悪感から美月と久保は自身の身体がゾワッとなるのを感じた。

「フフフッ、まずは君からにしようかなぁ〜っと!!」

瞬間、クルクルと回していた刀が美月の首目掛けて振るわれる。

が、光る物が風を切る音を鳴らしながら美月の顔のすぐ脇を通り過ぎ、カキンッという音と共に刀を弾いた。

突然の出来事に目を見開いて驚いた美月は、反射的に後ろを振り向くと弓を構えた蓮加の姿があった。

美月:い、岩本さん....?

蓮加:アンタ達、ボケっとし過ぎ。このままじゃ、全滅するよ

この状況でも、冷静さを一切失わずに戦い続けている蓮加。

「なんや、まともな子もおるやん。君はええなぁ、最後にとっておくわ。僕なぁ、ケーキの苺は最後に食べる派やねん」

そんな蓮加の姿を見て感心する関西弁の男は嬉しそうに笑うと、視線を美月達に向ける。

「あっ、そういえば、自己紹介がまだやったな。僕の名前は、裟羅僧しゃらそう。よろしゅうな〜」

関西弁の男改め、裟羅僧が簡単に自己紹介を終える。それは、その場にいる者達にというよりは蓮加一人だけに向けたものだった。

裟羅僧の目には、蓮加しか写っていない。美月や久保のことは最早、戦力してカウントしておらず、ただの雑魚。道端にころがっている石ころ程度の認識しかしていない。

と、次の瞬間、裟羅僧は地面を蹴って前方へと飛び出した。

そこには、先程までのおチャラけた雰囲気や遊びなどは一切なく、ただ純粋な殺意のみが感じられる。

それをその場にいる誰よりも早く感じ取った蓮加は、すぐに弓を構える。が、標的である裟羅僧の身体が一人の味方術師の陰となり、矢を射るのに一瞬の躊躇いが生じた。

しかし、すぐに思考を切り替え、一か八かの賭けに出た蓮加が矢を放とうとしたその時、一本の稲妻が走り、美月達と裟羅僧との間に落ちる。

裟羅僧:なんや?

いきなりの出来事に裟羅僧も急停止し、訝しむ視線を落雷地点へ向ける。

「ふぅ....何とか間に合ったみたいだね」

落雷した場所からそんな言葉が聞こえてきた。

砂埃が晴れ始め、視界が徐々にクリアになっていく。すると、雷が落ちた場所から一人の男の姿が。

美月:お、お兄ちゃん!?

自分達の危機に登場した男の正体に、いち早く気がついた美月が驚きの声を上げる。


『山下 温』

一級術師にして、山下美月の兄。


「ちょっと、温! 先行かないでよ!!」

稲妻に乗ってやって来た温に続いて、今度は文字通り風に吹かれながらやって来た一人の女性。

その女性の登場に、今度は久保が驚きの声を上げた。

久保:お姉ちゃんも!?

帆華:やっほ〜、史緒里!


『久保 帆華』

一級術師にして、久保史緒里の姉。


それぞれの妹の危機に参上した二人の一級術師に生き残っている新人達から、安堵や歓喜の声が漏れる。

裟羅僧:おぉ〜、なんやなんや。さっき斬ったのよりもマシな奴らが来たやんか。自分達もあれやろ? 一級なんやろ?

二人の実力を瞬時に察知した裟羅僧は、口元に笑みを浮かべて生き生きとした目を温と帆華へ向ける。

温:それがどうした?

裟羅僧:せやったら、僕と遊ぼうや。な、ええやろ?

温:いいだろう。お望み通り、僕が相手してやる!!

眼鏡をクイッとして、力強く宣言する温。それに続いて、帆華も続く

帆華:私の可愛い妹に手を出そうとした罪、その命で払ってもらうから!






一方その頃、ハワイ帰りの衛藤は、突如として現れた堕者によって霊魔の群れの中に放り込まれていた。

衛藤:あー、もう! 面倒くさっ! 何でこうなるかな〜?

霊魔からの攻撃を高そうなワンピースを汚さないようにと器用に躱しながら、衛藤は自分に降り注いでいる理不尽を呪っていた。

と、そこに、

「美彩様ぁあああああああああっ!!!」

下の名前に様付けで呼び、衛藤を求めるとある一人の少女の声が土煙を従えながら、凄まじい勢いで近付いてくる。

進路に立ち塞がっている霊魔の群れを、まるで道端の小石や空き缶を蹴るかのように蹴散らしながら向かって来る。

衛藤:あっ、めいじゃん! いい所に来てくれた!

すぐに気づいた衛藤は「やっほ〜」と呑気に手を振って迎える。

鳴:当然です! この鳴っ! 美彩様の為なら、例え火の中、水の中、霊魔の群れの中!! どこにでも参ります!!!

何かものすっごい忠誠心を発揮しているこの子は、黒髪ポニーテール少女のめいちゃん。

地図にも載っていない様な山奥の村出身。幼い頃に親に捨てられて、山の中で一人、自給自足のサバイバルで生きていたという中々な過去を持つ少女である。

そして、ある時、霊魔に襲われていた所を任務で来ていた衛藤に助けられ、そこから衛藤のことを命の恩人として崇め讃えている。

衛藤:早速で悪いけど、鳴。あれを出してくれる?

鳴:承知しました!

あれという言葉だけで衛藤の求める物を察した鳴は、すかさず右手の薬指につけていた収納用指輪型人工霊具ーー〝宝箱〟に霊力を注ぐ。

ちなみに、この霊具は怜奈の発明品。

霊力を流し込むと〝宝箱〟が純白の輝きを放ち、一つの巨大な鎌が出現した。

鳴:どうぞ、美彩様!

衛藤:ありがとね

片膝をついて、王に献上するような形で鳴が差し出した巨大鎌を衛藤は笑顔で受け取る。

衛藤:ふふっ....さぁ、始めようか






"ぎゃぁあああああああっ!!!"

"た、頼む.....やめてくれ.......やめーー"

"い、嫌....嫌! 嫌ぁああああああああ!!!"

東京支部の敷地内の一角で、耳を塞ぎたくなるような術師達の悲鳴が響き渡っていた。

その悲鳴の中心には、満面な笑みを浮かべている一人の少女が。十代前半、中学生くらいの少女である。

「キャハハハハハハハハッ!!!」

まるで赤いペンキを頭から被ったかのように、全身が真っ赤な返り血で染まっている。その姿は、深紅のドレスを着ているどこかの貴族の娘のよう。

だが、笑い狂って、踊り舞うその姿は、まさに狂気。

少女を止めに来た術師達の四肢を千切取ったり、串刺しにしたりなどと一人残らず返り討ちにして、赤い鮮血を飛び散らしていた。

「あ〜あぁ....もうみんな壊れちゃったかぁ〜」

そう呟く少女は、動かなくなった術師達の死体に壊れた玩具を見るような視線を向ける。その視線と声音から分かるように、すでに術師達への興味は失われていた。

が、その時、

"くそっ....まだ終わって....ねぇ、ぞ......"

全身血塗れで、片腕を失っている一人の術師が、今にも消え入りそうな声で口を開いた。

「およよよよ? あっ、まだ元気な人いたんだぁ!」

親に玩具を与えられた子供みたいに、パァと顔を輝かせる少女。その笑顔だけを見れば純新無垢な可愛らしい少女だが、顔にまで飛んでいる返り血がいっそう彼女の狂気さを際立たせている。

「ねぇねえ、さぁと遊ぼうよ!」

"ふざ....けるな......貴様みたいな....何も分からないガキとなんて、遊んでいる暇はない。大人しく死ーー"

ブシャ....

術師の頭がトマトのように潰れた。それによって、血液やら脳みそやらが一気に弾け飛び、辺り一面に散乱した。

眼球がコロコロと少女の足元に転がる。

「さぁの悪口言う人、きらぁ〜い」

さっきまでの子供のような笑顔を浮かべ、明るく元気な声音とは一変して、感情ゼロの声でそう呟いた。顔からも感情という感情がごっそりと抜け落ちていて、それはまるで能面のよう。

「もっと丈夫な玩具いないかな〜」

顔に飛び散っていた術師の脳みそや血を手で払って立ち上がり、他に生きている者がいないかと辺りを見渡す。

と、そこに術師達とは見た目が異なった一人の男が少女へと歩み寄っていき、話しかける。

「お〜、こりゃまた随分と散らかしてんなぁ」

玩具を散らかした子供部屋を見ているような口調で、血肉が散乱した現場の感想を述べた男。

「あ〜、填筒てんとうさんだぁ! やっほ〜!」

話しかけてきた男の名を呼び、親しそうに手を振る少女。填筒と呼ばれた男も父親のような、または兄のような眼差しを少女に向ける。

填筒:しかしなぁ、お前の戦い方どうにかなんないのかよ? 俺みたいにスマートに殺せよ。なぁ、沙耶香

沙耶香:えぇ〜、さぁはこっちの方が楽しいんですよ! 血がバァーと吹き出して、キャーっていう人の悲鳴が聞こえてくるのがいいのにぃ〜

填筒:おいおい、悪趣味だな

沙耶香:ひっどいな〜。すごく綺麗なのにぃ.....

填筒の苦笑いに、頬をプクッと膨らませて抗議の声を上げる沙耶香。と、二人がこの場とは似つかない雰囲気で会話をしていると、新しい二人の術師がやって来た。

「くっ、間に合わなかった」

「相手は二人。愛未、一緒にやるよ」

填筒と沙耶香の前に現れたのは、新人研修で桃子や梅澤達の班の監督官を務めていた能條愛未と斎藤ちはるの二人だった。

沙耶香:あれれ? さぁ、この人達見たことある!

填筒:そりゃそうだろ。こいつら事前情報にあった一級術師だ。でも、監督官として、新人共の子守りしてたはずだろ

ちはる:生憎、あの子達はすでに安全な場所に避難させてるから

填筒の疑問に、ちはるが簡潔に答えた。

能條:アンタ達は、愛未達がここで倒す

填筒:いや〜、面白いこと言うな。アンタら二人で、俺達に勝てると思ってんのか?

自分達の勝ちを疑わない填筒が煽るように言ったその時、第三者の声が木霊する。

「じゃあ、四人ならどう?」

その場にいた全員が声のした方へと視線を向けると、大鎌を携えた美女ーー衛藤美彩とその相棒の鳴がいた。

ちはる:みさみさに鳴ちゃん!

能條:よかった、戻って来てたんだ!

衛藤:久し振りだね、二人とも

久し振りの再会に一瞬の間だけだが、喜びを感じ合う衛藤達。

填筒:邪魔しないでくれよ、おばさん

衛藤の登場が気に食わない填筒が鼻で嗤うように言う。

が、これが衛藤のあるトリガーを引くことになった。

衛藤:おい、小僧。今なんて言った?

ドスの効いた声が響いた。

隣でいち早く衛藤の様子の変化を察知した鳴は、今にも爆発しそうな核爆弾を見るような目で衛藤を見ている。口に手をあてて、アワワワとしている。

填筒:聞こえなかったのかよ? 耳も遠いのか...笑 おばさんって言ったんだよ。お・ば・さ・ん!

衛藤の言葉を受け、さらに煽り出した填筒。そんな填筒に、今度はスタイリッシュな自殺願望者を見るような視線を向ける鳴。

そんな視線を交互に向けながら、鳴はことの成り行きを見守ることを決めた。

衛藤:クソガキが。来い、わしが相手しちゃん

鳴:み、美彩様の口から大分弁が........

衛藤の方言混じりの言葉を聞いて、戦々恐々し出した鳴。それもそのはず、衛藤の口から地元である大分の方言が出るのは、決まってぶちギレてる時である。

このことを知っているのは、鳴を含めてごく僅か。何故ながら、衛藤をキレさせた敵は一人残らずあの世に旅立ったかるである。勿論、衛藤自らの手によって。

鳴:ご愁傷様です.......

これから先の填筒の未来を想像して、そっと手を合わせる鳴であった。



……To be continued

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