似た者同士〜やっちまったな
出勤前の嫁の朝は戦場の様相を呈している。
1分1秒が貴重なピリピリとした雰囲気の中、
送迎運転手のおれに
「ポットにお湯を!」との指示が飛ぶ。
なに、早朝の車のフロントガラス一面に広がる
頑固な霜対策。この陽気だから
必要ないとシカトしたおれが悪かった。
ガラス全面に白く貼った霜がヒーターで溶けるまで、
車内で叱り飛ばされたのは言うまでもない。
気を取り直していつもの如くたかばしへ。
最近、営業時間が早くに戻ったのか、
8時前だというのに新福菜館さんが開いている。
第一旭さんと交互に通い続けて
一体何年くらいになるのだろうか。
長い行列のお隣を尻目に、今日はすんなりと
行列なしの新福さんの店内に滑り込んだ。
客は8割くらいの入りで、
1席空いているカウンターに腰掛ける。
キングオブコントで優勝した「かまいたち」の背の高い方、
濱家くんに少し似たフロアのお兄ちゃんに
おれの朝の定番、「ミニ麺カタ」をお願いする。
ここのお店、炒飯までは従業員さんの仕事、
肝心のラーメンはお馴染みのオーナーさんが
一手に担われている。
とにかく無駄がなく、素早く目の前まで供され、
その研ぎ澄まされた職人の味は、
何十年経とうが全くブレていない。
濱家くんからゴトリと置かれた一杯から
ネギもやしの下に沈んだチャーシューをサルベージし、
撮影用に体裁を整え、数枚パシャリとシャッターを切る。
ルーティーンを終えると、
レンゲに渦を巻きながら流れ込んでくる
黒いスープを皮切りに、
あとは必死に熱々をがっつくだけ。
ハフッ、ハフッ、ハフッ!!あっという間に完食完飲!
お代650円也を支払い、楊枝を咥えて店を出た。
すると濱家くんが追いかけてきて、
「並750円です!」と不足分の100円を催促する。
「あれって並だったの?」と聞き返すと
「?? あっ、いつもミニでしたね!!間違えました」
とバツが悪そうに自分のおでこを
ぴしゃりと叩いて目を閉じる。
「いいよいいよ」と100円出すと、
「いえ、頂けません」と遠慮する。
渡す、貰えません、その応酬がしばらく続いたので、
「貰ってくれないと、次お店に行きにくーなるやん!」
とちょっと語気を強めると観念したのか、
申し訳なさそうに
「わかりました...ありがとうございます...」
と洩らして、丁寧に100円を受け取った。
こっちは全然気にしてない。
ただ濱家くん、オーナーさんに
たっぷりどやしつけられるんだろうな…
次からは気をつけような、
厳しそうなオーナーさんに叱られても
あんまり気にしなさんな。
おれだってついさっきまで、思い切り
どやしつけられてたところなんだからさあ。