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とっとこ金華ハム太郎

この寒さだもの、外待ちの列に加わるには
外套の頭巾を深く被り直す必要があった。

はじめて訪れたお店のガラス戸は
寸分の隙間もなく白く曇っていて、
中の様子は全くうかがえない。

ここは八幡男山、ベッドタウンっぽい
マンモス団地の真ん前にその小さなお店、
「拉麺 たにの」さんがぽつねんと佇んでいる。

氷柱になる前に招き入れられた店内は、
カウンター4席のミニマムさとは対照的な
ゆったりとした厨房がひときわ目立つ。
印象的で、「ラボのような空間」とも言える。

メニューは以下の3種類。
その一 天然羅臼昆布と黒毛和牛のスープ。
その二 明石蛸とポルチーニ茸のスープ。
その三 金華ハムと干し貝柱のスープ。


中華料理の巨匠だったと聞き及んでいる
オーナーさんが作る逸品は、
いずれも一癖も二癖もありそうな
独創性とこだわりに満ち満ちている感じ。

お願いしたのは金華ハムと干し貝柱の一杯。
これらの高級素材が惜しげも無くおごられる
上湯スープに、イベリコ豚の背脂が加わるという。
「牛骨その一」にも後ろ髪を引かれたが、
それは次回に繰り越せば良い。

厨房を凝視していて、ちょっと驚いた。
意外にもざっくばらん過ぎるというか、
正直なところ「雑」っぽく見える盛り付け方に
期待感とは裏腹な不安感が募っていく。
しかしそれは杞憂に終わる。

供された一杯はまるで白く丸いキャンパスに
これ以上のない絶妙なバランスで描かれた
絵画のような美しさに溢れていた。
ピカソの落書きって、こんな感じなのかも(笑)

スープは基本的にはあっさりした塩味で、
貝柱の旨味が時間差で鼻から抜けていく感じ。
これってあまり行ったことがないけれど、
高級中華料理店にありがちな上品さって
いうやつなのかな。
背脂の甘味と食感もいいアクセントとして
付加されている。

カリッと揚げたオクラも目新しいし、
チンゲンサイほか、具材のそれぞれに
きちんとした仕事が施され、こだわりの
片鱗を垣間見れる。

実はこの一杯、100円プラスして大盛りに
して頂いたのだが、その大きさがわかるだろうか。
煮卵が異常に小さく見えるはず。
余裕で50㌢は超えるであろう洗面器のような
特大ラーメン鉢は、山科の薬大前で復活した
中華料理「ちゅん」さんのボリュームを
彷彿とさせる。

それでもスープの最後の一滴までも平らげた
自分の胃袋の罪深さに呆れ、驚き、そして
頼もしさも感じながら、おそらく牛骨の一杯を
近日中に堪能しに行くのだろうと思う。

「拉麺 たにの」

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