なぜEXIT兼近大樹の本がピース又吉の本より売れなかったのか。その原因を考えてみた
なぜ、兼近大樹の本が予想よりも売れなかったのか、ピース又吉の場合と比べて考えてみる。アンチだと誤解されたくないのだが、私は兼近のことは好きで、本も読んでいるし、全部じゃなくても、好きなコンテンツだったら消費するくらいはライトファンである。
兼近(通称かねちー)の処女小説『むき出し』は2021年10月27日に上梓された。半月経った2021年11月半ば現在今10万部売れているそうだ。本が売れなくなっている昨今、10万という数字は多く見えるが、兼近のツイッターフォロワー数72万人。EXITのyoutube登録者数70万人と比べると驚くほど少ないようにも思う。
比較の対象となるピース又吉の2021年の段階で処女小説『火花』は、2021年の段階で300万部を超えている。2015年の3月に出版され数日ほどで35万部を突破している。発売当初の知名度としては又吉も兼近もさほど変わりはないはずで、むしろ今の方がyoutubeやインスタで濃いファンを育てる土壌があるぶん、有利かと思う。
原因を考えてみる。
・ファン層が若年層であり、本を読むことに慣れ親しんでいなかった?
ツイッターで#むき出し で感想を検索すると「子供と読みます」「仕事が終わった後に読みます」など想定したファンよりすこし上の世代の感想が目立った。ファン(通称はジッター)の中でも落ち着いている層のみに届いているように見える。
・芸人の小説自体が、珍しがられなくなった?
2015年、又吉の本の大ヒット以来、小説を書く芸人が急増し、芸人の小説というもの自体への社会的な興味、ファン以外からの興味が薄れているのではないか。新鮮度が減ってしまった。
・書き出しが少し稚拙である
これは本当に私の感想なので、申し訳ないが、書かせてもらう(すいません…)。又吉の本の導入は本業の方が書いた本格小説と遜色ない十分な作家性のあるものだった。アマゾンで試し読みがどちらもできるのだが、読み比べてみると、風景の描写や心象描写がやはり兼近が劣ってしまうのかなと。ジッターの方の感想にもあったが「ケータイ小説みたい」なのである。興味があった方もこの導入を読んでレベルを推し量ってみて、購入をやめたのかなと予想する。まず試し読みする時点でかなり興味があるはずなので、それくらいで購入をやめる動機になるかは不明ではあるけれど。
・番組などで兼近の過去についての告白がたびたびあり、書かれるであろう小説の内容が予想がついてしまった
文春に売春斡旋などの罪で逮捕されていたことをすっぱ抜かれて以来、兼近は番組で自身の過去について言及する機会があったので、貧困や非行についてテレビを見てる人からはある程度知られているのかなと。もちろん本には今まで言及されていなかった事件なども描かれているのだが、新事実としては「逮捕された」以上のものがないので、衝撃度を求める人には物足りない内容になったのかもしれない。私としては「逮捕された」事実以上に衝撃を受けた事件も描かれていて、兼近自身も書いていて辛かっただろうな、これを知られたら嫌われてしまうだろうなと怖かったのではないかなと読んでいて思った。普段優しいイメージのある彼からしたら信じられない行動もかなり描かれている。
・シンプルに告白本として出した方が売れた?
小説という回りくどい体裁にしたにもかかわらず、相方のりんたろー。は彼の本名の「中島さん」だし、兼近に影響を与えた作家の又吉も「又吉」表記のままである。主人公の「石山」表記も「兼近」として書いた方が伝わりやすかったのではないか。仮名にするなら全部仮名にした方がスッキリする。小説としての「物語」ですよ〜のエクスキュースにするなら全部仮名でいいのでは?
憧れの又吉と同じ芸人となって、小説を出すという業界に入る前からの夢なので譲れない部分だったのだと思う。しかしメッセージとしては伝わりづらくなった形に。
・本が好きな人(本を買う、読むが習慣化している人)に届かなかった。
兼近が芸人活動や歌手活動で忙しい中、2年もかけて書いた小説だ。これを書くために断った仕事も数多ある。売れないはずがない、と発売する前に私は思っていたが、実際のところ、予想より何倍も売れていなかった。身を削り、時間を削った中で書いたのだから発売後すぐにピース又吉のような結果が出ると思ってしまった。又吉の本が売れたのはお笑いファン以外も買ったことが大きい。ファンが買い、本好きが買い、社会現象となったところで一般層も買ったのでここまで部数が伸びたのかなと思われる。
もちろん兼近はすでに売れている芸人であり、承認欲求を満たすために小説を書いたわけではないのでこの結果でもいいのかもしれない。
また、ドラマや映画による映像化でライト層や若年層にも届けばまた部数が伸びるはずなので、今後に期待したい。