リンゴ
さ:次の方どうぞ~
(お願いします)
私は乃木坂総合病院に外科医として勤めている。今日も多くの患者さんと向き合い、日々精進している
今日の午前の患者さんが一段落すると
和:さくら先生。お昼にしましょ!
さ:そうだね
お弁当を持って診察室を出て、病院の食堂に向かう途中で
和:そういえばさくら先生にずっと聞きたいことがあったんですけど
さ:ん?なに?
和:さくら先生のデスクの上においてある写真ってどなたなんですか?
さ:あー、あの写真ね。あの人は私にとって命の恩人なんだ
和:そうなんですね
さ:うん。あの人が助けてくれてなかったら、今の私はいないくらい感謝してるんだ
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12年前
当時の私は他の家と比べて決して裕福とは言えないくらいだった。両親はあやめが生まれてから2年ほどしてから離婚し、私と妹のあやめはお母さんに着いていった
お母さんは私たち2人にご飯を食べさせる為にアルバイトをいくつも掛け持ち、夜遅くまで働いていた。初めは多少の余裕があったものの、1年ほどが過ぎると毎月、毎月がギリギリで2年ほど経った頃には1日一食が当たり前になるくらい1日1日を生きるのに必死だった
そんなある日、お腹が空いてしまった私たちは近くの八百屋にいき、店主のおじさんの目を盗んでリンゴをポケットに入れ、立ち去ろうとすると
「こら!お嬢ちゃん!」
さ:あっ...
「勝手に取っていちゃダメじゃないか!」
さ:ご...ごめんなさい
「まったく。お母さんはいるのかい?」
さ:えっと...
私がなんて答えていいのか黙り込んでいると
?:あれ?おじさんどうかしたの?
「おぉ、○○くんか。実はこの子たちが勝手にリンゴを持っていこうとしててさ」
○:そうだったんですね。じゃあ自分がそのリンゴ買いますよ。
「まったく。相変わらずのお人好しだなぁ。お嬢ちゃんたちもうするなよ」
さ:は...はい...
おじさんからリンゴ1つを買い、その場をあとにした
○:ねぇ、君たちお腹空いてる?
さ:い...いえ。だいじょうb...
グゥゥ~
その音は自分の隣にいる子ではなく、その子の後ろに隠れていた子から聞こえてきた
○:ふふっ、お腹は正直みたいだね。おれこの近くでお店やってるからおいでよ。ご馳走するよ
さ:えっ...でも...
○:安心して。あとから取ったりとかはしないから
さ:じ...じゃあお願いします
10分ほど歩いていくと一軒のラーメン屋さんがあり、◯◯さんはここの店だと言っていた。今はランチタイムの営業が終わっていて休憩時間だったらしい
○:その辺に適当に座っててよ。仕込みとかの関係で簡単なやつしか作れないけどもごめんね
さ:そんな!作ってもらえるだけ嬉しいんで。ね、あやめ
あ:あい!
○:ふふっ、じゃあちょっと待っててね。すぐ作っちゃうね
しばらくすると
○:はい、肉野菜炒め定食二人前おまちどうさま!!
あ:うわぁキラキラ
さ:こんな豪華なものを食べてもいいんですか?
○:良いよ。遠慮せずにたくさん食べてね
あ:いただきましゅ!!
○:はい、召し上がれ
私たちにとっては数十時間ぶりの食事だったから無我夢中に目の前のご飯を食べていた
30分もしないうちにこんもり盛られた野菜炒めとご飯があっという間に無くなった
○:おっ、完食した。よくこの量食べきれたね。美味しかったかな?
さ:はい。とっても美味しかったです。ご馳走さまでした
○:あやめちゃんも美味しかったかな?
あ:あい!
○:ふふっ、そっか。じゃあこれも食べて
食べ終わった二人に先ほど買ったリンゴを私たち二人に出してくれた
○:いくら、お腹が空いていたとは言え、お店の物を勝手に持っていちゃダメだよ。今回は俺があの場にいたから良かったけども他所でやっちゃダメだからね
さ:はい...
○:でも、どうしてあんなことしたの?
さ:実は...
私はこれまでのことを◯◯さんに話し始めた
○:そんなことが...
さ:はい。でも、誰にも相談とかも出来なくて...
○:じゃあさ、今度からお腹空いたらウチにおいでよ。いつでもご馳走するからさ
さ:そんな!悪いですよ。私たちは大丈夫ですよ
○:さくらちゃんは良いかもしれないけどもあやめちゃんが倒れちゃうかもしれないよ
さ:...
○:だからさ、気軽に頼ってよ。さくらちゃんが学校の時はあやめちゃんのこと預かるし
さ:でも...○○さんの迷惑になるんじゃ...
○:そんなことはないよ。むしろ、ずっとひとりでやってたから賑やかになるから大歓迎だけどもあやめちゃん次第だけどね
さ:あやめはどうしたい?
あ:...
そうだよな。いきなり知らない人を信用しろって無理な話だ。しかも、まだ幼稚園にも行っていない子だ。
数十分あやめちゃんは悩みぬき出した答えは...
あ:あや...◯◯しゃんと...一緒にいりゅ...
さ:あやめ...
○:ふふっ、分かった。じゃあ明日からよろしくね。あやめちゃん
あ:あい!
それから、私は学校が終ると○○さんのお店に立ち寄り、画題をやりお店のお手伝いをする。これが私の日課になっていた。お店の手伝いも最初、◯◯さんは「無理に手伝わなくても大丈夫だよ」とやんわりと断られてしまった
でもそんなある日私がいつものように学校から帰るとあやめが◯◯さんと一緒にラーメンを運んでいた
あ:あっ!おねえちゃ!おかえりなしゃい!
○:おかえり、さくらちゃん
さ:ただいま戻りました。あやめはいつから手伝っているんですか?
○:今日からだよ。あやめちゃんから言い出してね
あ:あい!あや、おてちゅだいしゅる!
さ:そっか。えらいねナデナデ
あ:えへへ
さ:◯◯さん、私も手伝いますよ
○:おっ!助かるよ。そしたらこれを3卓さんにお願い
さ:はい!
それからというもの◯◯さんのお店は絶え間なくお客さんが来店し、大繁盛した。その理由の1つが看板娘が可愛すぎると言うのが理由らしい
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和:そんなことがあったんですね
さ:うん。だから◯◯さんには感謝しても感謝しきれないんだ
和:良いお話ですね
そんな時だった
「さくら先生!急患です!お願いします!」
さ:あっ。はい!和ちゃん行くよ!
和:はい!
走って救命室に入ると、心肺蘇生中だった。
さ:梅澤先生。患者さんは?
梅:池田◯◯さん。40代男性。虚血性心疾患による心不全で心肺停止。救急搬送中にアレストしたらしい。
さ:…
梅:さくら?
さ:あっ…すみません。
梅:もしかして、知り合い?
さ:はい…学生時代に良くしてもらっていて
梅:じゃあなおさら助けないとね
さ:はい!
その後、あらゆる手を尽くし◯◯さんの処置をした。手術をし、◯◯さんは一命を取り留めた。でもそれは一時的な手術で完治するには心臓移植しかなかった
○:ん…
さ:◯◯さん!
○:ここは…
さ:乃木坂総合病院です。◯◯さん虚血性心疾患で救急搬送されたんですよ
○:そっか…
さ:あの、◯◯さん…
○: さくらちゃん。分かってるよ。自分の体だもん
さ:…
○:それにしても、まさかさくらちゃんが医者になってるなんてびっくりだよ。いつからここに?
さ:12年前からです。
○:そっか…あやめちゃんは元気にしてる?
さ:はい。今、あやめはモデルをやってるんですよ
そう言って私はあやめがランウェイで歩いている写真を◯◯さんに見せた
○:へぇ~。あやめちゃん綺麗だなぁ
さ:それで、◯◯さん。お話が…
○:うん…
さ:◯◯さんの虚血性心疾患ですが、現状は一時的な処置をしたにすぎないんです。根本的な解決をするなら、心臓移植をするしか選択肢がないんです
○:…
さ:それで費用なんですが約1000万円ほどかかります。
○:1000万…
さ:なのですが…
○:?
さ:費用はすでに12年前のリンゴでお支払い済みです。
○:えっ…リンゴって…
さ:あのとき、◯◯さんが助けてくれただけでも嬉しかったのに◯◯さんは見ず知らずの私たちに食事まで提供してくれた。それが当時の私たちにとってどれほど嬉しかったか。
○:…
さ:◯◯さんが居なければ今の私はいません。なので恩返しをここでさせてください!
○:さくらちゃん…
そんな会話をしていると、1人の医師が部屋に入ってきた
梅:さくら。
さ:あっ…すみません。梅澤先生
梅:良いの。話しは聞かせてもらったよ。その話、私も乗らせて
さ:えっ…
梅:盗み聞きするつもりは無かったんだけど、たまたま聞こえちゃってさ。そういうことだったんだね
さ:はい…
梅:本来なら患者さんとの過度な接触は禁止なんだけども、今回は私の方から白石さんには言っておくからさ
さ:梅澤先生…
梅:と言うわけで◯◯さん。お金の心配はしなくて大丈夫ですから
○:グスッ…ありがとう…ございます...
それから、しばらくして◯◯さんの心臓移植手術が行われた。幸いにもドナーは1ヶ月ほどで見つかり、うちの病院で移植
手術が行われ無事に終わった。
その後、◯◯さんはリハビリに励み、2ヶ月ほどで退院され、◯◯さんはお店へと戻っていた
あれから、私は時間があるたびに◯◯さんのお店に梅澤さんや和ちゃんと食べに行くようになり、いつの間にか私の病院で◯◯さんのお店が話題になった。
さらにはあやめが思い出の味を紹介するバラエティー番組に出演した時に◯◯さんのお店を紹介し、実際にお店を訪れ、◯◯さんを紹介したことで◯◯さんのお店の知名度は全国に広がることになるのはもう少しあとの話
fin...