序文 - NODUS vol.2.5 ─11のコレスポンダンス─
■ハイドン没後100年企画について
ヨーゼフ・ハイドン没後100年にあたる1909年、音楽学者ジュール・エコルシュヴィル(1872-1915)の提唱により、フランス・パリの音楽雑誌「ルヴュ・ミュジカル・S.I.M.((S.I.M. = Société Internationale de Musique = 国民音楽協会)」は六名の作曲家にハイドンの音名象徴による動機を与え、それらを用いた短いピアノ曲の作曲を依頼した。完成した作品は「ルヴュ・ミュジカル」1910年1月号に掲載された。
初演は1911年3月11日サル・プレイエルにて、国民音楽協会の演奏会の一環として、エヌモン・トリラのピアノにより行われた。
◆モーリス・ラヴェル「ハイドンの名によるメヌエット」
◆クロード・ドビュッシー「ハイドンを讃えて」
◆ポール・デュカス「ハイドンの名による悲歌的前奏曲」
◆レイナルド・アーン「ハイドンの名による主題と変奏」
◆ヴァンサン・ダンディ 「ハイドンの名によるメヌエット」 Op.65
◆シャルル=マリー・ヴィドール「ハイドンの名によるフーガ」
ハイドン生誕290年を迎える2022年3月、NODUSはこの企画に肖り、メンバー五人全員がハイドンの音名象徴を用いたピアノのための新作を作曲し、メンバーの一人増田達斗が先の六曲と交互に演奏していくという形でオンデマンド配信を行う。
■音名象徴とは?
音名象徴はアルファベットの文字を音名(A,B,C = ラシ(♭)ド)に変換し用いる方法である。人名(自分の名前や恋する相手の名前など)を一文字ずつ音名に読み替え、それを楽曲において時に大胆に、時に密やかに忍ばせることはクラシックの作曲家たちが古来より行ってきた。
例1: シューマン「アベッグ変奏曲」
例2: リスト「バッハの名による幻想曲とフーガ」
例3: ベルク「叙情組曲」の二人のイニシャル
■HAYDN(ハイドン)の音名象徴について
音楽理論上では音名はA〜Hしかない。
したがって上記の音名象徴は、アルファベットを音に直接変換できるが、ハイドン(HAYDN)については「Y」と「N」がこの範囲から逸脱している。
この問題に対して1909年の「ルヴュ・ミュジカル」の課題では、音階の七音をアルファベットで順番に七文字ずつ当てはめる事で、Yにレを、Nにソを関連付けるやり方を行った。
なお、「H」は法則通り当てはめるとラだが、ドイツ音名のHはシのナチュラルを示すため特例となる。Bはドイツ音名ではシ♭を示す。
※注 「S」も音名象徴においてはドイツ音名「Es」=ミ♭を示す。
これらの操作をすることによってハイドンの名前から次の音列を導き出す。
これがハイドンの音名象徴となる。
この音列から1909年に六人の作曲家が曲を書き、2022年に私たちNODUSの五人の作曲家が曲を書く。
百年弱の時をまたぐコレスポンダンス(往復書簡)がハイドンの名によって十一人十一色の彩りを成すのである。
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