錆びた鉄筋を鉄筋コンクリートに使ってもいいの?
現場に放置されている鉄筋、赤錆が出てると嫌な感じしますよね。
鉄筋に赤錆があると劣化しているようにみえます
そのため鉄筋コンクリートの現場では発錆しないうちに鉄筋を組み立てたり鉄筋が腐食しないように防錆剤を塗ったりして品質を確保しようとします。もしも赤錆が出てしまえばワイヤーブラシでこするなどして一生懸命取ろうとする現場もあります。
実際には問題なし
しかし、多少錆びていたとしても鉄筋コンクリートとしての性能に問題がないとしたらどうでしょう。
コンクリートと鉄筋の付着について考えると表面に軽度の赤錆がある場合とそうでない場合を比べれば前者のほうが付着が良いという研究結果があります。
ただし浮錆はNG
鉄筋の発錆が鉄筋コンクリートの性能に影響をおよぼすのは浮錆が生じるほどの激しい腐食が起きた場合に限られます。浮錆が生じた場合には鉄筋の断面積の減少による耐力の低下とコンクリート内での酸化鉄の生成に伴う膨張圧によるひび割れの発生が起こります。
しかし、適切に設計・施工されたコンクリート内部においてはコンクリート中のアルカリ性により鉄筋表面に不動態皮膜という酸化被膜ができ、またコンクリート表面から鉄筋までの間のかぶりによって酸素が遮断されるため腐食が進行しにくい状態になります。そのため、組み立てる前の鉄筋に多少赤錆があったとしても性能には問題ないと考えるのが一般的です。
そもそも鉄筋の表面は酸化している
仮に錆が悪いものだとするとひとつ疑問が生まれます。それはどの錆からは良くてどの錆から悪いと判断するのかということです。
そもそも自然状態では鉄鉱石として安定だったものを科学の力で還元して棒状に整えた鉄筋が、酸素に触れた瞬間に酸化し酸化物薄膜ができるのは当たり前のことです。
それが雨風にさらされて酸化が一層進めば、元の安定な赤鉄鉱 (Fe2O3)や磁鉄鉱 (Fe3O4)や褐鉄鉱(Fe2O3•nH2O)などに戻ろうとするのは道理ともいえます。
ベテランの発注者の監督員さんならその理屈がわかっておられるので「浮錆がなければいいよ」と承認いただけるのですが、経験の浅い監督員さんの現場では理屈がわからず「完全に錆を取ってくれ」と言われることもあり「どうしても鉄筋はわずかに錆びてしまうのでしょうがないんですよ(汗)」となんとか納得してもらおうと必死にお話するのです。
とはいえ錆びてたら嫌になるのもわかる
しかし、いくら性能に問題がないとお話したとしても監督員さんに納得していただけるかは別です。
たとえば、みなさんが家を買うとして基礎に使われる鉄筋に赤錆が出ていれば大丈夫なのかなと不安になるのではないでしょうか。いくら性能に問題がないと説明されたとしても納得できず錆を取ってくれと思うのも人情なのかもしれません。
その思いを汲んで、冒頭にも書いたようにあらかじめ鉄筋に防錆剤を塗っておいたり赤錆をワイヤーブラシでこするなどして一生懸命取ったりという不毛な作業が発生してしまうのです。
仕方ないねと錆を取る
当然、防錆剤の塗布にも赤錆落としの作業にも当然費用がかかります。しかし、そのような作業は契約した工事の内容には含まれていません。そのため、費用は工事業者の手出しということになります。
利益も誰かの喜びも産まない作業は施工管理からすると工程や原価を無駄に増やしてしまうだけの嫌な作業です。
ただし、公共工事であれば防錆剤を塗れば創意工夫ということで工事の評価点がわずかに上がります。逆に言えばそれだけの切ない作業ともいえます。
酸素と水と鉄筋がある限り、今日もまた世界の何処かで鉄筋の赤錆をゴシゴシ落とす作業が行われていることでしょう。世知辛いですね。
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