【ライブ・レビュー】アンダーグラウンド・シーンの現場から⑪ 奥住大輔, 遠藤ふみ, 安東昇, 宮坂遼太郎
奥住大輔(as)
遠藤ふみ(p)
安東昇(b)
宮坂遼太郎(ds)
2023年9月7日 中野 「Sweet Rain」
奥住率いる若手グループに百戦錬磨の安東がサポート的に参加。バラード調の耽美なムードやオリジナル曲で始まって、醸造しつつ、一気にフリーフォームに突入し加熱、集団即興をやりながら何となくソロ回しっぽいことがあり、また最初のムードに戻ってくる、という、まさに古典的で正統派のフリージャズの構成なのだが、さすがに各プレイヤーの個性が現代的で、うまくクールダウンを入れながら起伏を作っていく。パワーよりもニュアンスに軸足を置いたスタイルで、しかしリーダー奥住のサックスが煽りまくって、けっこう荒ぶる要素も出していた。ベース安東のベテランらしいどっしりしたオーソドックスなウォーキングにより、かろうじて「ジャズ」の範疇に踏みとどまる、その危ういバランスもスリリング。
ドラム宮坂の随所に「止め」を組み込んだ超変則的なタイミングと柔軟な円の動き、シンバルの美しさ、球のついたスティックでドラムをこすったりバスドラを叩くなど特殊な奏法がきわめて効果的。ピアノ遠藤のリリカルで粒の立った抒情的なタッチと、アドリブでの端正でありながら破壊力を秘めたアグレッシブさ、多彩なハーモニーの矢継ぎ早の投入など、やや線が細いとはいえポール・ブレイをほうふつとさせるものがあった。
そして、こんな個性的なメンバーを集めて激しめのフリージャズをやりながら、曲を作り、店主や客(10名)の心をつかんでもいる、奥住のリーダーとしてのプロ意識も立派。ヤン・ガルバレクのように透明度が高めの幻想性と、本来の持ち味であるペーソスに満ちた日本的な情緒など、曲想に応じいろいろなカラーに挑戦していた。もちろんトレードマークともいえる甲高くかすれたサウンドを中心にした、激しくもどこかひょうひょうとしたブロウも十分に披露。
今回、特に遠藤のピアノの持つポテンシャルの最大のふり幅を聴くことができたのは収穫。ようやくハードなスタイルでの演奏を聴くことができた。顕微鏡で鍵盤上の神経を解読するような、ガラス細工のように神経質で緻密なプレイ。まったくスィングしないのだが、ストップモーションと残響を放つことを織り交ぜる手法により、(変な言い方だが)独特のドライブ感はある。ブレーキをかけた後に自転車が慣性で滑る感覚だ。武道でいうところの「残身」みたいなことか。
そういえばジャズピアノにはその系譜もあった。ポール・ブレイの他だと、「白いセロニアス・モンク」とも言われたラン・ブレイクとか。すっかり忘れていた。ちなみにその RAN BLAKE の 「Kristallnacht」という曲がtubeに上がっており、身の毛のよだつほどシリアスな演奏で、シェーンベルクの「ワルシャワの生き残り」を思わせるほど。