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ライブ企画告知 2024年11月24日 (日)  山田邦喜+斉藤圭祐 // 田中 直美+DSFAPLS+川サキ  @「阿佐ヶ谷天」

2024 / 11 / 24 (日) 会場「阿佐ヶ谷天」 19:30開場 19:30開演
山田邦喜 Kuniyoshi Yamada (drums)
斉藤圭祐 Keisuke Saito (alto saxphone)
* * *
田中 直美 Naomi Tanaka (contemporary dance)
DSFAPLS
川サキ (drums)
https://www.tokyogigguide.com/ja/gigs/event/33285-kuniyoshi-yamada-keisuke-saito-naomi-tanaka-dsfapls-kawasaki

ドラマーの山田さんに「宿題」を出されて対バンをブッキングする企画協力の第三弾。今回は私の企画としては珍しく「ノイズ」のミュージシャンに出演してもらいます。これまでの文章で即興演奏やインプロ、フリージャズという呼称を用いてきたが、これらはそんなに一般的な言葉ではなく、世間的には「ノイズ」と言った方が通りがいいかもしれない。特にロック・ファンにはそうでしょう。

かつて中古CD屋には「ノイズ/アヴァンギャルド」という仕切り板があり、昔の吉祥寺のディスクユニオンではその棚にあるジャケットを眺めているだけで勉強になったものだ。とにかくわけのわからない前衛的で破壊的な音楽を探すならそこという感じ。今でもノイズ/アヴァンギャルドというジャンル分けはインターネット上の「タグ」として流通している。

もっとも、私は保守的なリスナーだったので「ノイズ」のことは詳しくない。実際に聴いた有名どころは灰野敬二とメルツバウくらい。メルツバウはイリシット・ツボイとの共演だったかな。朝日新聞にいた近藤康太郎だか、湯浅学だったか忘れたが、評者が書いているように「恐ろしいのは、彼らの本当の演奏が始まるのは翌朝になってからだということ。蚊の飛ぶようなキーンという音がまとわりついて離れない」(大意)といった具合に、つまり耳鳴りだが、それが次の日の一日中続く。そこまでの大爆音ノイズを浴びたのは後にも先にもその二回きりです。他に聴いているのは暴力温泉芸者(ヘア・スタイリスティックス) などで、そこまで爆音ではなかったが、えたいの知れない不気味なサウンドという印象。

そもそもノイズに定義があるのかというと、かなりざっくりしたものでとらえどころがない。「ノイズ・ミュージック」というのも語義矛盾みたいな言い方で、そのせいか「ノイジシャン」なる造語まで出てくる始末。ようするに既成の音楽の概念を超えているということだが、最近はこのノイズも音楽の一ジャンルとして完全に定着した感がある。既述した灰野やメルツバウ、「非常階段」などが「ジャパノイズ」として世界的に認められたことは周知の事実。

近来は機材の普及に伴い演者の数が飛躍的に増えているようだ。数が多いだけでなく、ほとんどの演奏家が記号のようなステージ・ネームを名乗るので、誰も全貌を把握できないだろう。使用している機器もエレクトリック・ギター以外にモジュラーシンセやサンプラーなど、視覚的には何をしているのかわかりづらいものが中心になっている。しかも、あえて自らをノイズとは名乗らない場合が多く、いろんな名称が入り乱れている。だからといっていわゆる「インプロ」(即興演奏家)の人らが自分の演奏をノイズとは呼ばないわけで、そこには隠然とした一線が画されている。出演する場所にも自ずと一定の住み分けができているようだ。ようするにノイズが出るのはロック系のハコということで、ジャズ界とは縁が薄い。

特徴としては電子機器を使用した大音量で、空間を埋め尽くすように多数の音を放出する。テクノなどとは違い定常のビートはない。もちろんメロディなどはない。耳をつんざくような破壊的で暴力的なサウンドが長時間にわたって延々と続く。・・などというと必ずそれに反したものが出てきたりするのだが、基本はこれです。

今回出演してもらうDSFAPLS氏はエレクトリック・ギターを横に寝かして弾くだけでなく、半ば打楽器のように用いる演奏を得意とする。打弦楽器であるピアノには内部奏法とかプリペアド・ピアノという手法があるが、それに近い発想で、メソッドから逸脱した使用法で既存の楽器を音響発生装置と化す方法論。フレッド・フリスやキース・ロウが先駆者とのことですが、その辺も自分はあまり探索したことはないですね。

それはともかく、このDSFAPLS氏の演奏は相当にヘビイでありつつ、ガムランのような金属的な響きは意外ときれいなものであり、チベット密教の声明のごとく空間を埋めつくすドローン(持続低音)は時に静寂さをも感じさせるのだが、とにかくダークな音です。ここまで暗い音を出せるのは向井千惠さんの胡弓ソロぐらいではないか。支離滅裂な轟音のようでいて、その実、音のひずみや膨張・収縮、また音像の表裏を自在に操る手際は巧みだ。

その完成度は高く、鏡張りの部屋に閉じ込められたかのような、心理的に耐えがたいほどの密室感があり、この演奏と他の楽器との共演はかなり難しいはずで、自分がライブで見たのもソロばかりだったので、私の企画に呼ぶという発想は今までなかったのだが、動画だと意外といろいろな共演もしているようだし、自分も最近いろんな場所に出向いていくつかのノイズ演奏を聴く機会があったので、エクストリームな表現を実現してみたいという希望が出てきたので、出演を依頼させてもらった。

私がノイズに再び目を向けるきっかけとなったライブの一つが、今回出てもらうドラムの川サキさんと、「ピカルミン」なる電子楽器を操る「嗚咽民」氏とのデュオで、それは三軒茶屋の「heaven's door」でのものだった。そしてもう一つは、やはり今回出演してもらうダンサーの田中直美さんが参加した大塚「bar 地底」での「GOVERNMENT ALPHA」氏との共演で、きわめて狭いバーにも関わらずダンサーが三人出るという冒険的なものだった。こういった異色のライブに触れることで、自分も「何でもあり」という初心に帰って企画を立ててみようというマインドが出てきたといえる。

川サキさんは「月凍」というロックバンドのドラマーとして存在は知っていたが、こういうノイズ・ミュージックとの共演もしているのはうれしい誤算でしたね。テクニカルなだけでなく、ドラムの皮が破けるんじゃないかというぐらい「徹底的にやってやろう」という意志の強さが清々しい。そして、ロックドラマーの多くは力任せだったり、即興でも定型的なビートに頼ってしまう傾向が目立つが、この川サキさんは激しさを身上としつつも、そこまでむやみにパワフルではなく、瞬発的な切れ味やコンビネーションの速さで勝負するタイプ。「止め・撥ね」がしっかりしており、技の組み立てが多彩で小気味よいです。また相手の音に惑わされることなく、自分の演奏を貫くスタンスは好ましく、彼女の研ぎ澄まされたつるべ打ちならば、DSFAPLS氏のまき散らす幻惑的なノイズにも通用するのではないか。イメージとしてはブルース・リーの映画「燃えよドラゴン」に出てくる、ミスター・ハンとの「鏡の間」での決闘、あれですね。僕はあの場面の音楽も好きなんですよ。

身体的なイメージが出てきたところで、この企画をもう一段グレードアップするには、ダンサーに加わってもらうしかないだろうなと。イベント主宰の山田さんもダンサーとの共演を得意としていて、彼もこのジャンルには人並みならぬこだわりがあるようなので、そろそろこちらが知っているすごいダンサーを見てもらいたいという気持ちもあった。そこで先述した「bar 地底」でのライブを思い返して、あれはすごかったなと。どうやらドローン的なノイズとコンテンポラリーなダンスは意外と相性がいいのかもしれない。世にはそういうユニットもいくつかあるみたいだ。なんといっても田中さんのダンスはすごいので、会場の「阿佐ヶ谷天」はあまりにも狭いのだが、ここは「切り札」としてあえて彼女に出てもらおうということで依頼した。

田中さんのダンスは背筋の通った長身を活かした手足の柔らかさと、筋力を凝集させた屹立という相反する要素を同時進行させながら、その比率を時間差を持たせながら切り替えることによる、急激なイメージの変化に特色があり、その現象を私は勝手に「爆縮」の動きと呼んでいる。また左右および前後の方向におけるアシンメトリー(左右非対称)が常に意識されており、単調にならない。そこには長く修練してきた卓越したテクニックがあり、ダイナミックなものを求めつつも、バランス感覚に富んでおり、体の軸が崩れない。それでいて、決してアクロバティックなものに見えないのも重要。若いダンサーが得てして派手な技の披歴に気を取られてしまうのに比して、表現力が段違いに優れている。

直感的に言うと、彼女は立っているだけで存在そのものが発するオーラがある。表現すべき内容があってこそのダンス、ということを経験から知っているのだろうし、その「内容」をしっかりと練り上げてきたダンサーだといえる。いうなれば、生命の根底から突き上げる不定形の衝動的エナジー。今回は「それ」を明示されたテーマと振り付けによってではなく、身体の発する声のまま、本能に従って即興で放出してもらいたいという思いがある。彼女なら音楽に鼓舞されるだけでなく、ミュージシャンをも触発するようなダンスを見せてくれるはずだ。

対するのは山田邦喜さんと斉藤圭祐さんのデュオ。現在の日本で一番鋭利なフリージャズを聴かせるコンビである。そもそも彼らが出会うきっかけを作ったのは自分なのだが、今さらそんなことはどうでもよく、この二人の殺気がせめぎあうような演奏は何とも色気があり、毒がある。しかし今の時代にこのような挑戦的な表現者は少なくなっており、他の出演者から刺激を受けることがあまりないという。そういう停滞した状況を打破するためにも、このような企画に協力することにした次第。

今回は自分としても頭をひねりにひねったアイデアで、かなり奇抜な組み合わせである上に、初対面同士の共演でどうなるか見当もつかないが、出演者の資質はどれも一流で、信頼するに値する。あとは観客のジャッジを待つばかりだ。

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