【ライブ・レビュー】アンダーグラウンド・シーンの現場から ② 〈Kiyasu Orchestra〉 2023.4.23 大久保「ひかりのうま」
巨漢のドラマー、Ryosuke Kiyasu が率いるバンド。といっても身長は普通なので、それだけ全身の筋肉が異様に太いわけだ。 私は Kiyasu 個人の演奏は聴いたことがあったが、バンドは初めて。オーケストラというのでもう少し大きい編成だと思ったが、ギタートリオでした。メンバーは下記。
tsubatics (Bass)
Kouichi Kidoura (Guitar)
Ryosuke Kiyasu (Drums)
とにかく Kiyasu のパワフルな演奏による威圧感が特徴。すさまじい腕力だし、ペダルを踏む振動が床から伝わってくるほど。その一方で、奏法は小刻みにパルス・ビートを叩きながらせわしなくパターンを切り替えたり、次々とアクセントを付ける、というフリージャズ的なもの。ベースもとにかくスピード重視で目まぐるしく、全体的にバイオレンスなムードが強い。不穏な音楽でありながら、密室的で、押し殺したフラストレーションを積み重ねていくようでもある。ドリフト走行しながら斜面を駆け下りていくようなサウンドをイメージしてほしい。このバンドは、高柳昌行の「アングリーウェイブズ」のコンセプト(アケタズ・ディスクから出たアルバム『850113』参照)を狙っているように思われる。最近こういった傾向の演奏を耳にすることがまれにあるが、こちらはフリージャズ的な手法を採用したロック・バンドという気がする。
こういった「互いに同期しながら遠心力を働かせる」ようなタイプの音楽では、各人が単独でも演奏を成り立たせられることが条件となるが、ギターの個性がやや弱く、ボリュームもあんまり上げてこない感じだ。途中でそれぞれのソロがあり、とりわけベースのソロはキュビズムのコラージュみたいで面白かったのだが、アンサンブルとなるとまとまってきてしまい、いささかノリが単調に感じられる。リーダーのドラムが主軸となるのだが、ものすごくパワフルなわりに、どこかパワーを持て余しているように見え、聴いているうちにそのもどかしさ自体がモチーフになっているような気さえしてくる。決して力任せに叩いているわけではないのだが、パワーがありすぎるのか、アイデアが不足しているのか、演奏しているという快感が聴き手にビビットに伝わってこないため、解放感に乏しく、重苦しくなってしまう。その重苦しさがコンセプトだと考えることもできるのだが、パワーやテクニックをどうやって音楽性へ転換していくか、そこでのエネルギー転換の効率にロスが生じるため、どうしても表現として密度が落ちるのだ。
音楽とはどうにも難しいものだが、プレイヤーが互いに触発されるために必要な余白とか余裕、遊びがバンドに不足しているのかもしれない。こういったエネルギッシュなミュージックはどうしても堅苦しくなり、こわばってしまいがちだが、程よい脱力がないと真のパワーは出てこない。また一方で十分に緻密ではないという面も確かにある。演奏が煮詰まってくるとどうしてもブルース風のフレーズが顔を出すなど、手札のヴァリエーションをもっと増やす必要はありそうだ。この現状を突き抜けた先に何があるのかを見てみたいバンドではある。