実は社会派映画だった。アメリカ青春スポ根映画「チアーズ!」
2000年にアメリカで公開された(日本は2001年公開)「チアーズ!」。
カルフォルニアの裕福な地域にある高校を舞台に、アメリカチアリーディングの全国大会優勝を目指す高校生たちを描いたスポ根青春もの。
ざっくりストーリーを書くと、
場所はカルフォルニア州サンディエゴ。ここは裕福なアメリカ人は集う街。キルステン・ダンスト演じるトーランスは強豪チアリーディングチーム、通称「トロス」のリーダーに就任したばかり。チームは全国大会5連覇中。今年も優勝するぞー!と意気込むものの実は、振付は盗作だったと知り、ショックを受ける。逆境の中、チームは一丸となって優勝を目指すことに・・・。
ただのスポ根青春映画ではない
キラキラ女子高生、恋愛、青春、スポーツに挫折、それとおバカなノリ。
アメリカの青春王道ストーリーと思いきや、いま観直すと、社会問題をきちんと描いていて、ただのスポ根青春映画ではないと気付かされました。
劇中で主人公のライバルチームとして登場するのが、イースト・コンプトン高校チアリーディングチーム、通称「クローバーズ」。ロサンゼルスの貧しい地域にある高校のチアリーディングチームであり、メンバーはみな黒人やヒスパニックなどマイノリティ。独創性を武器に戦っているものの、貧困であるが故に全国大会の出場資金を出せず、さらにお金持ちチーム「トロス」から振付を盗まれていました。
「貧富の差」と「文化の盗用」。
この問題をちゃんと描いているのが、「チアーズ!」なのです。
2020年に再燃した社会問題を如実に描く
ふと思うのが、2020年夏にアメリカで大きな社会運動としてムーブメントを呼んだブラック・ライヴズ・マター(BLM)。白人警官による黒人男性の殺害をきっかけに再燃した抗議運動。
続いて議論を呼んだ、「文化の盗用」(支配的な立場にある文化が、マイノリティの文化から、同意を得ずに比較的重要な何かを奪うこと)。この問題を”振付を盗む”という分かりやすい表現で示した本作。
何より面白いのが、文化を盗用し、貧富の差を示した白人は主人公たちであるということ。実は主役は悪役だったという点がミソです。というのも本作で一番シビれるシーンは、大会出場のためのお金を渡す白人の主人公の申し出を、「クローバーズ」のリーダーが断固拒否する場面。この時のリーダーの凛とした表情がかっこいんですよ。
「主人公=悪役」「クロバーズのリーダー=逆境に耐えるヒロイン」という関係性が出ており、どっちが主役だっけと錯覚してしまいます。このシーンでは、ヒロインを「聖人君主ヅラする何も知らない白人」と表現しており、画期的でした。
これぞプロの演技。1位と2位の差が分かるパフォーマンス
最後はチアリーディングのパフォーマンスが流れ、恋愛もうまくいき、ハッピーエンド。ジャッキー・チェンばりのNG集で締めくくるエンドロールも含めてエンタメ要素たっぷりだけど、ちゃんと現実を描いていて、ただのスポ根青春キラキラもので終わっていないのが秀逸なところ。
あと一つ。本作はダンスパフォーマンスも素晴らしいです。
特に最後の全国大会。1位のパフォーマンスが明々白々。「あっ、ここが優勝するな」とちゃんと観客が納得できるパフォーマンスを披露した役者陣はプロフェッショナル。
まとめると、エンタメ要素たっぷりの青春スポ根ちょっとおバカ映画だけど、実は社会派の一面を持つ考えさせられる映画が「チアーズ!」でした。