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返還前のグラマラスな香港|映画ゴールドフィンガー「金手指」
「インファナル・アフェア」の監督・脚本、トニー・レオンとアンディ・ラウが20年ぶりに共演した映画、『ゴールドフィンガー巨大金融詐欺事件』を見てきました。
このタイトル副題はどうしたものか。
原題は「金手指」。映画の雰囲気を考えると、『ザ・ゴールドフィンガー』だけで良かったんじゃないかと思うのですが、まあ事情があるのでしょう。
返還前の香港で、株価操作と株を担保にしたレバレッジで大儲けする詐欺師と、それを執拗に追い続ける香港の特殊警察のストーリー。
インファナルアフェア・金融編といったところだが、トニーレオンとアンディラウが「インファナル・アフェア」とは追う者と追われる者の立場が逆の役所です。
見ていて思ったのが、スコセッシ監督のデカプリオ主演、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(2013年)というウォール街の詐欺師の映画がベースなんじゃないかと感じるほど雰囲気が似ている。
どちらの監督も彼らが生まれ育った、古き良き時代のグラマラスな街とそこに渦めくお金と欲望、そして時代の流れを描いている。
とにかく、ギラギラ感と薄暗い裏の顔との対比がすごい。シネマ・ノワール。光の陰影を巧みに見せるスコセッシとさらに重なる。
そして、最後に主人公の刑期が3年というところまで同じだ。
2時間ほどの映画はあっという間だったが、もう少しだけ丁寧に描いて欲しかったなとも思う。実際にあった事件を元にしているらしいが、「インファナルアフェア」と比べて、娯楽作品的な要素が強いので、仕方がないのかもしれない。中国資本が強くなった事情などあるのかもしれない。
1997年に英国から中国に返還される前の香港。
中国になる前にと思い、90年代に2度ほど香港に行った。20代の私の目には、街がとても輝いて見えていた。今思えば、その裏には、この映画のような金融バブルがあったのだろう。
その後も何度か香港に行っているが、最後2018年に行った時には、もはやその輝きやエネルギーを感じることはできなかった。少なくとも表面上は。
むしろ、その前に行った深圳の方が活気を感じた。
話が逸れるが、「インファナルアフェア」のリメイク作品「デパーテッド」(これもデカプリオ主演)で、スコセッシが念願のオスカーを手にしたのだが、どちらの監督も好きな私としては、この二人の根底にあるものが共通していると感じてしまう。
この「デパーテッド」、かなり忠実に「インファナル・アフェア」を再現しているが、元の香港映画を知っている人にとっては、そしてスコセッシを愛する者としては、少し残念な映画だった。スコセッシはこの作品以外で評価されて欲しかったと切に思う。初めて映画館で見た「カジノ」は衝撃的だったし、学生の頃から読んでいた「沈黙」の映像化にも震えた。私の敬愛するダライ・ラマを描いた「クンドゥン」は今でも私の一番好きな映画だ。
最後に『ゴールドフィンガー』について、何よりも特筆すべきは、主演の二人が60代とは思えない若々しさを保っていることだ。20年の時を超えて、惚れ直す。格好の良い男とは、こういうものなのだなと、しみじみ思う。
女性献上や残忍な場面もあり、香港マフィア感も健在なので、好みは分かれるだろうが、ぜひこの機会に見ておく価値がある作品だと思う。