【外資で働くということ】プリンシプルという名の宗教について
以前、外資の会社で仕事をしていた時の話です。
その会社には、プリンシプルというものがありました。
プリンシプルとは、英語で「原理・原則」を意味し、その会社での全ての活動において「何を大切にするか」を定めたものです。
いわゆる行動規範ですね。ルールが具体的で明確な規範であるのに対し、プリンシプルは抽象的で解釈の幅の大きい規範です。
ルール:朝9時に出社
プリンシプル:全員がしっかりコミニケーションを取れるよう勤務すること
こんなイメージです。
ルールを決めるのではなく、プリンシプルを設定することで、想定内外のあらゆることに対応できるというのがメリットです。
上記の例なら、海外との時差を考えて7時に出社するとか、目的によってフレキシブルに対応できます。
全ての会社にプリンシプルがあるわけではないのですが、私が10年ほど働いた会社には、創業当時からリーダーシップ・プリンシプルというものがありました。社員全員が自分がリーダーだと思ってこのプリンシプル通りに行動せよという考え方です。
数年も経つと、この刷り込みは次第に身体に染み込み、何をするにもこの規範から物事を考えるようになります。恐ろしいもので、まるで宗教のように、考えなくても自然と教え(規範)の通りに動いてしまうのです。
ただし、会社全体がその規範を常に刷り込み続けないと、それはただの絵に描いた餅になってしまいます。そのため、社内では何をするにもこの規範が合言葉のように繰り返されます。
人事評価ではもちろんですが、会議や雑談レベルでも出てきます。
外部から人を採用する時もこの素養を持っているかを面接で見るのです。
Frugality(倹約的)という要素もリーダーシップ・プリンシプルの一つです。
例えば、誰かが「取引先に行くのに時間がなくてタクシー乗ったよ」と言えば、「それフルーガルじゃないよね」と返ってくる。
この会社では日本の社長もエコノミークラスしか乗りません(創業者は自家用機で来日していましたが)。数年前に成田空港で偶然お会いしたのですが、やはりエコノミーの列に並んでいました。知らずにビジネスを取ったディレクターはチケットをキャンセルされ、アップグレードできるエコノミーを取り直したら、全社員に「これはダメ」と晒し者にされていました。
何故って?
飛行機をビジネスに乗っても、「お客様」に何のメリットもないからです。お客様の利益にならないことは必要ないのです。
結果、社員は不必要な出張をしなくなります。代わりに仕事をしてくれる人はいない(外資だと自分の仕事は自分でやるが基本)、なので、海外出張では昼間現地の仕事をして、夜は日本の仕事をするのは当たり前。その上、移動はエコノミークラス。
どうしても必要じゃなきゃ行かないですよね。
つまり不要な経費はかけず、お客様に還元できるシステムなどの投資にお金を回す。という考え方なのです。これを続けると、強いコスト意識が生まれます。自分の会社だったら、そのお金使いますか?と常に問うようになるのです。
多くの会社では、仕事で移動しているんだから、現地に着いてすぐ働くためにビジネスに乗る。タクシーで移動時間を節約すれば、その時間でより生産的な仕事ができる。等々、もちろん会社や人によって考え方は違うと思いますが、実際、エコノミーでもみんな着いてすぐ仕事するし、電車移動でも事前にしっかり準備していれば時間をロスしたとは思わない。個人的には、それよりも無駄な出張や移動がなくなる効果の方が会社としてのメリットは大きいと思っています。1円でも多く、ビジネスを大きくすることにお金をかけたいと考えるようになります。
退職して10年近く経った今でも、10個以上あるリーダーシップ・プリンシプルがスラスラ言えます(その頃から、内容は進化しているようですが)。
そして、これは宗教(尊い教え)なので、意外と他の会社や自分の人生で役立つことも多いんです。
例えば、Bias for Action スピードを重視してまず行動せよ。というプリンシプル。
多くの意思決定や行動はやり直すことができるので、過剰な調査や検討に時間をかける必要はない。計算されたリスクを取りながら早く物事を進めることに価値がある。
6割の準備で、大きなリスクがなければ(もしくはリスクがあっても修正可能な範囲であれば)、まず走り出す。走りながら修正をしていった方が早くプロジェクト(もしくは仕事)を進められる。という考え方です。
特に日本人はリスクを嫌う傾向にあります。でも、リスク回避ばかりを考えるといつまでも物事は進まず、そもそも軌道修正する機会の前に何も始まらない。
例えば、マイナ保険証。私はこれをスタートさせたのは英断だと思っています。人違いがあった(事務的ミス)、外国人が登録できてしまった(おそらくシステムに穴があった)、こんな問題あるカードが使えるか。と言う人がいます。でも、見るべきところは、起こってしまった問題ではなく、それをどう迅速かつ的確に修正できるかだと思うのです。修正できる問題は、走りながら対応すれば、それだけ早くシステムが軌道に乗るはず。つまりベータ版リリースだと思えば良い。
ただし、何でも早く走れば良いというのも間違い。準備もできていないのに走り出すのは、ただの無謀。
想定されるリスクを予測した上で、バックアッププランを用意したり、修正の準備をしたりすることは絶対的に必要です。
失敗しては身も蓋もないので、リスクを計算した上で、これなら走れるという決断をすることが最も重要であり、一番力を入れるべきことだと考えます。そして、もちろん何かあった時に、その責任を取る覚悟も必要です。
リスクを恐れて動けない人というのは、これができないのではないでしょうか。責任を取りたくないから、リスクがゼロになるまで動かない。本来、マネージャーというのは、これをやるのが仕事といっても良いと思います。だからこその、リーダーシップ・プリンシパル(リーダーの規範)です。
そして、Ownership = 全員が自分がオーナー(リーダー)だと思って行動せよ。というプリンシプル。
社員としてではなく、自分が担当事業の社長としての意見を述べられるように行動する。自分の業務だけで意見せず、これが自分の会社だったらどうするか、という考え方をします。なので、多面的に、そして全体的な枠組みで物事を考える習慣がつくのです。
リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしない。仮に自分がやるべき仕事ではないならば、どこのメカニズム(仕組み)が間違っているのかを考えて、正しい形に修正し、正しい部署や人がその仕事を行えるように、会社の組織なりルールなりを考え・変えるのが、リーダーの仕事だからです。
この考え方は、どのようなケースでも、どのような仕事でも、どのような場面でも使えることがほとんどです。
この会社で10年間働いたことは、私のその後の人生をとても助けてくれたと感じています。もっと多くの人がリーダーシップ・プリンシプルを持って生きていけば、見えてくる世界が変わってくるのではないかと思います。
もしも、この記事が評価いただけたら、また他のプリンシプルについても書いていこうと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。