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悪魔的な日本のギャンブル

今月の大きなテーマとしてIRを議題に取り上げているが、今週はカジノと関連の深い日本の賭博について全般的な知識が必要だと感じたので共有したいと思う。IRがカジノではないと言うことを1周目に共有したが、それでもカジノの影響や存在はかなり大きなものなので個別で時間をかけてみた。

■これまでの日本の賭博の流れ

日本においてギャンブル(以降賭博)は近年のみ取り上げられた話題ではないことから話したいと思う。

古代のギャンブルは双六(すごろく)賭博がメインで689年には朝廷から禁止する法令が出ている。それ以降も賭博を禁止する法令を出し続けてきた。理由としては、現代のように賭け事を国家の収益にするという発想がなかったことと、農民がハマり過ぎた結果耕作を放棄するなど、社会のマイナス面が目立ったからと言われている。

江戸時代になると状況が少し変わり囲碁や将棋も賭け事の対象となりゲームが多様化した。江戸も過去の政権と同様に禁止令を出したり、賭博を行った者が密告をすればそのものは罪に問わないなどの策が出されたがいくら抑制しても賭博行為がやむことがなかった。

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依存症も生まれ資金欲しさに窃盗をするものも現れ、金を巻き上げられたものは小作人に転落する素人も多く、関東近郊の治安は非常に悪化していき、当時の警察組織はより強固な体制を敷いた。

しかし例外の賭博が存在した。それが富突(とみつき)、今の宝くじに当たるものだ。幕府側の理由としては財政難により寺社の再建や修繕に金銭的支援ができなくなり、その費用を集めるための名目であれば富突を容認していた。

富突の賭けに使われる札一枚の値段は高く貧しい人は買うことができなかった。しかしその層を狙った業者が公認の富突の裏で隠富や影富といった掛け金の低い同じ内容の賭博を開いていたと言われている。これにより富裕層だけでなく庶民も参加できる状態を作り、またお金を賭博で失い金銭的余裕のなくなった人が流れていく場ができてしまった。

依存症が出ることはある程度予測できるがそれ以上に経済効果を見込んでいる点や規制をかけ庶民の暮らしを守る対策は今回のカジノに非常に類似するところがある。


■カジノをめぐる上での現代の賭博

賭博とはそもそも何か軽く触れたいと思う。賭博の定義としては「偶然の勝敗により財物・財産上の利益の得喪を争うこと」つまり未知数の出来事に対して個人が所有する価値のあるものを賭けることだ。賭博を日常行わない人でも同じようなイメージは持っていると思われる。

賭博に関しては刑法で規定されているため行ったものは罰を受けることになる。

第185条
「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」
第186条
1.「常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。」
2.「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。」

一時の娯楽に供するものや常習性に該当するものが何かここで疑問を持つかもしれないが、この線引きについては法律の専門家でもなければ、法律家の間でも意見が分かれる内容なので、賭博をすれば罰せられると留めておきたい。

ではなぜその中で、大々的に知られるような賭博が行われ、テレビCMなどの広告に転載されているか、がここでの論点になりIRのカジノを語っていく上で重要になってくる。

1.合法の公営賭博

公営賭博に該当するものがレースの勝敗を予想する「競馬・競艇・競輪・オートレース」。これは公営競技と定義されている。もう一つが公営くじと定義された「宝くじ・toto」である。公営と言うこともあり、規定の中で行えば罰せられない。そのためテレビのCMや電車の広告などで公に宣伝しているため賭博を普段やらない方でも目にしていると思う。

この二つの賭博が例外的に合法な理由として、収益の用途を「公共性」と「地方財政の健全化」にあるとしているためである。賭博ではあるものの、「公」の利益に資する施策とうい捉え方だ。この考えがそもそも生まれたのが戦後の復興によるものである。戦災で資金難のため公共事業の調達方法としてこの方法を取り入れた。さらに競馬は畜産業、競艇は船舶事業など結びつきの強い産業振興の支援にも繋がり経済発展を支えた仕組みが現在まで続いているのである。

公式のカジノも同じく公営賭博に指定され運営の権利を得るのだが、賭博はダメだからと言った理由でカジノが批判の対象になって既存の公営賭博が許容されるのは奇妙な話でもある。

2.グレーゾーンの賭博

公営競技のように大きな施設を必要として特定の場所にしかない賭博はなかなか足を運ぶのに苦労するが、パチンコやパチスロは住んでいる場所の近くんに点在しているためそこで目にすることが多いと思う。しかしこの二つは賭博としては法に触れるギリギリのグレーゾーンなのである。それにもかかわらず多くの人が駆けつけて賭博を行なっているのには公営賭博同様仕組みが存在する。

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まずパチンコ店は賭博法ではなく風営法の管轄にあたる。そのため営業時間や年齢制限などのルールの範囲内で運営されていれば遊戯と解釈される。問題は換金方法である。「三店方式」を用いていることでパチンコ店そのものは客との換金の関係性を切り離し構造上は賭博の仕組みになっていないことになる。「三店方式」はパチンコをやらない人でも聞いたことのある方は多いと思うが下の図のような構造である。

3.違法の賭博

先ほどまで話した賭博は公に認めれれたもの、もしくは法を掻い潜っているものであるが、もちろん世の中に違法の賭博は存在している。どんなに低額でも賭け金が発生した場合には違法となる。つい最近黒川前幹事長の麻雀報道されたため世間的にも周知されただろう。

ただここで問題なのがどこまで取り締まればいいのか、と言う点だ。違法としてやっているため記録を残すはずもなければ、遊戯として賭けをせずにやっていた場合などがあるため事実を確認し難い。そのため完全に違法でも黙認されてしまうこともある。

賭博の法整備だけでなく時代変化に対応せずにかつての規定を引きずる状況がこのようなちぐはぐな生み出している。00年代以降はネット環境が整いオンライン賭博も誕生している。欧米などの諸外国はネット上での賭博の法整備も整い大きな市場として抱えているがそこへのアプローチも我々の国にはない。海外アクセスなら大丈夫なのかといったラインがわからない。

これだけ賭博全体が混乱した状態なのにカジノという大きなインパクトだけで批判したり賛同するのは見当違いだろう。


■カジノ規制について問う

ここまで賭博全体を語ってきてカジノに焦点を当ててみると、個人的にはカジノ単体に対して反対が起きることに違和感を感じる。ギャンブル依存症が増えたり、地域の治安悪化などの社会的に負の要素が存在することに異論はないが、その場合は賭博全体の議論をするべきだろう。先ほども記述したようにカジノは市場や施設規模として大きな存在であるが故に対象にされてしまうことも理解はできる。

時代的な背景もあるのかもしれない。戦後復興の時とは違い、ある程度成熟した社会や生活の変化だからこその論争とも捉えることができる。それでも賭博全体の背景や影響は知っておくべきだろう。

合法ではあるが、IR推進法の中でカジノにもしっかりと規制はある。ただここで我々が危惧していることは規制による二次的影響である。入場制限や入場料は主にギャンブル依存症への対策として組み込まれているが、公に管理されたカジノで常習的な利用を抑止するような行為は利用者が裏に流れてしまう可能性があるのではないかと思う。裏とは違法カジノのことでり、裏カジノと呼ばれることが多い。江戸時代の富突と同様の状況である。

これは性産業と似たような構図があるのではないかとも思う。日本では売春行為が禁止されているため性産業を運営する店舗は違法である。そのため取締り店舗型の風俗店が多く摘発された。しかし賭博と同じように古くからある産業はどの時代でも需要が尽ず、長年に渡って成り立っている市場であるため完全に消えることはない。形を変えてたり法を掻い潜って存続する。性産業で言えば無店舗型の市場がこの時生まれた産業形態だ。俗に言うデリヘル産業にあたる。

店舗が存在しないことで制御不可能な無秩序な広がりや、トラブルが外で起こることで従業員の適切な管理ができないなどの問題が生じ、どんどん裏へ潜り不可視化されてしまった。

カジノに関しても入場制限に到達した客が別の方法でカジノを行うために裏の世界に飛び込み制御不可能な状態になることも有り得る。今回の規制が本当に正しい規制なのかもう一度検討する必要があるだろう。

■候補地推薦案

せっかくIRについて議論したので今週の記事から候補地を1つずつ最後にあげて見たいと思う。

今週はIRの候補地として横浜を選んだ。横浜は市民の反対運動や山本理顕氏の構想でカジノ抜きIR案が提案された事など何かと議論の多いIRの候補地である。

横浜市の検討として横浜が東京からのアクセスや市の財政財政状況、雇用など様々な理由を列挙しているが、我々が注目した理由は山下埠頭を開発の対象敷地としている事である。みなとみらいエリアや関内エリアに近接し、周辺にはすでに既存の観光産業が存在している。

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カジノだけでなく商業施設やMICE施設など複合的な開発であることは前回 の内容を参照していただければと思うが、そのためIR施設は大規模な開発になり、未開発の大きな土地を必要とする。

横浜は他の候補地と違い開発地周辺に関内の観光資源やみなとみらいの商業施設さらには国際会議場も既に備わっている。ノンゲーミング施設だけで言うと山下埠頭を含む横浜のウォーターフロントエリアは街全体を通してIRとも捉えることができるのではないか。仮にそうだとすると足りないピースは財政面をカバーするカジノだけになる。

カジノだけを今回の開発として提案し、残りの予算を周辺エリアの整備に使用して街全体の完成度を高めるこれまでにないIRを目指すのも一つの手段としてあるかもしれない。

さらに山下埠頭に統合した施設を密集させて完結させてまうと周辺の既存の施設にも影響を与えてしまう可能性もあれば、大規模な開発で周辺の印象を大きく変えてしまう可能性もある。

このような意見から横浜市をカジノのみの開発による街全体をIRと捉えた候補地として勝手に推薦したいと思う。



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(文責:遠山)

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