見知らぬ夜の街
クリープハイプとの出会いを思い起こせば2014年まで遡る。
あの日の私は新たな出会いを求めて近所のTSUTAYAまで自転車を走らせていた。
店内の溢れる程のCDの中からいくつか見繕った。そして最後の1枚に選んだのが、クリープハイプの「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」だった。
バンド名も知らなかったし、所謂「ジャケ買い」ならぬ、「ジャケ借り」。これがクリープハイプとの出会いだった。
早速聴いてみると、ボーカルが高い声で色んなものに噛み付く様に歌っていた。歌詞カードを読むととても優しい曲だと思った。とてつもない暗闇の中にある、まだ見えぬ希望が見える曲だった。
ベースラインもギターリフもドラムのリズムも独特で、イヤホンから聴こえる音たちがキラキラと目に見えるくらいの衝撃だった。
昔の自分に国民栄誉賞を授与したい。
その日から今日まで不思議なくらい年中無休で好きでいる。
具体的にクリープハイプのどこが好きなの?、と聞かれても答えられない。
好きな所は数え切れない程たくさんあるけど、それをいざ言葉にしようとすると、頭の中で好きが渋滞して言葉が絡まる。この現象はライブ後にもよくあって、帰りに友達と感想を言い合いたいのに何一つ言葉に出来ずに黙ってしまう。
言葉にすると勿体無い気がする。私の好きが薄まってしまいそうで。
捻じ曲がって伝わるくらいなら言わなくて良い。
唯一、クリープハイプを知らない人に「クリープハイプが好き」と言った事がある。
2018年に中野サンプラザに遠征した時の帰り道。
夜行バスの乗り場が分からなくて夜の街を彷徨い、迫る時間に焦っていた。
半泣きになりながら信号待ちしている時に恥を忍んで前に居たサラリーマンの男性に声を掛けた。
「この場所ってどこか分かりますか?」
2人組の男性の1人が「そこを渡ってすぐだよ。」と教えてくれた。そして「一緒に行ってあげるよ。」とまで言ってくれた。神が降臨した。
普段なら丁重にお断りするところだが、本当に切羽詰まっていたのでお言葉に甘える事にした。
「時間がないから走るけど大丈夫?」と気遣ってもらい、しかも「荷物、持ってあげるよ。」とまで言ってくれた。(荷物にはクリープハイプのグッズがいっぱいだったので、これに関しては丁重にお断りした)(別に、盗られるのでは?と思った訳ではない)
乗り場に向かう間、少し話をした。
「どこから来たの?旅行?」
「大阪です。ライブがあって。」
「へぇ。誰のライブ?」
「クリープハイプってバンドです。」
「知らないなぁ笑、でも東京まで来るなんて、そのバンドの事大好きなんだね」
「はい。大好きです。」
迂闊にも涙が出そうになった。知らない街で彷徨った不安からなのか、親切にしてもらったからなのか、大好きなんだねって言ってもらえたからなのか、クリープハイプが大好きだからなのか。
私のクリープハイプが好きと言う真実が真っ直ぐ伝わった気がした。
嬉しかった。
クリープハイプの若いお客さんの中に、30半ばの自分が混じっている事に気後れがあった。ライブにはいつも"お邪魔してる"感覚があった。
でもその一言で、今までの気後れが消えた気がしたと同時に、ファンとして認めてもらえた気がした。そして改めてクリープハイプの存在が大きくなった。
時間ギリギリにバスに乗り込む時、「クリープハイプ、YouTubeにあるんで、良かったら聴いてください」と大阪名物の粟おこしをおじさんに渡した。
おじさんは「気をつけて」とバスを見送ってくれた。
バスで少し泣いた。
疑り深くて人に頼るのが苦手な私が、見知らぬ夜の街で経験した出来事。
クリープハイプは私にたくさんの経験をさせてくれる。
数年後、そのおじさんとクリープハイプのライブで再会した…なんて、ドラマチックな展開はもちろんないのだけれど、あの後YouTubeで検索してくれたかな?
あの時は本当にありがとうございました。
私は、相変わらず今も、クリープハイプと言うバンドが大好きです。