変身
二月の僕は、それまでの僕とは決定的に違っていた。
とはいっても、べつに目を覚ましたらベッドの上で巨大な虫に変身していたわけではない。徹底的に真面目な態度で、生まれてはじめて家計簿をつけてみたのだ。それも一切の誤魔化しを排除し、一円単位で。はたして僕の心理にどんなきっかけがあったのか。
フランツ・カフカでさえ先の読めない僕の個人的な物語が、いま唐突にはじまろうとしている。まぁ、カフカにとって先が読めない理由のほとんどは、僕がこの後のテキストを日本語で書くからだけど。
<概要>
a. 食費:33,025円
b. 日用品と雑費:9,162円
c. レジャー:5,501円
合計:47,688円
※会社に請求して相殺される類の出費は含まず。
a. 食費(33,025円)の内訳
朝:3,070円
昼:12,304円
夜:15,450円
コーヒー:2,201円
「朝/昼/夜」の区分は、厳密に「朝食/昼食/夕食」と呼応しているわけではなく、あくまでお金を使った時間帯を指している。だから朝食用の食パン(会社帰りに買う)は「夜」に計上されていて、「朝」が指しているのは出社日に買うミネラルウォーターくらい。
テレワークの日は昼食代はかからないけれど(その代わり、部屋の東西南北の隅に宗教的な様相を呈して積まれているスパゲッティが、その日の風水を基準として順に消費されていく)、出社した日の昼食は600円~1200円の間を行ったり来たり。
夕食はほとんど自炊で、お弁当やお惣菜を買うことはない。お酒を飲む習慣もない。先述のように、厳密にいえば朝食や昼食に相当するものを「夜」に買うこともあるのだけど、それを考慮しても一日あたりの「夜」の平均は600円前後に落ち着くみたいだ(帰阪していた二日間や会議があった日は、自分で夕食を出費していない)。
b. 日用品と雑費(9,162円)の内訳
美容院:5,500円
衣類:0円
通信費:2,536円
消耗品:996円
二月は服を買わなかった。滅多にスーツも着ないので、クリーニング代もかからない。通信費は僕自身ではなく、子供たちのLINEMOの契約分(僕は一月に、povo 2.0の60GB/90日間を契約済)。
消耗品に含まれるのは、封筒、ダンボール、衣類用洗剤。鈍器のようなものや頑丈なロープは買っていないし、買っていたとしても書かない。
c. レジャー(5,501円)の内訳
映画:4,010円
音楽:255円
本:0円
施設:0円
交通費:676円
その他:560円
二月に見た映画は『夜明けのすべて』と『WILL』。
ただし前者は一月のうちに前売り券を買ってあったので、支出はパンフレット代(1,010円)のみ。後者は鑑賞券とパンフレットで3,000円。
音楽はビリー・ジョエルの新譜、『Turn the Lights Back On』をiTunes Storeで購入。週末は毎週のように図書館にいたおかげで本は買わず、二月は美術館や博物館といった施設を訪れることもなかった。
「その他」の詳細は記録し損ねたのだけれど、もしかしたら鈍器のようなものかもしれないし頑丈なロープかもしれない。
というわけで、機密費も謎の借入金も含まれていない僕の家計簿は、詳らかにしてみたところであんまり面白くはない。なにしろ登場人物が少ない。
家計簿をつけてみたからといって節約する意識が高まるかというと、おそらくさほど大きな変化はないように思う。どちらかといえば、単にゲーム感覚で分析してみたかったという意識が強いのだけど、飽きるまでしばらくは記帳してみるつもり。