テスラ考 〜8月8日RoboTaxi発表〜
先日、日本政府に助言されているあるAI研究者の方とお話しする機会がありました。
その方は、「(ハンドルを握らない、運転手が何もしない自動運転は)あとは法令の問題であって、もう技術の問題ではないです」とおっしゃっていました。
端的にお話をされたのだと思いますが、各自動車メーカーの技術発表を見る限り、確かにそのような感じがしています。
テスラの株価
株価はだいぶ下げてきています。
最近、イーロン・マスクが、Xで8月8日にRoboTaxiを発表するとツィートしました。
RoboTaxiの発表はあるものの、デリバリーはいつになるのかはわかりません。しかし、イーロン・マスクは、「やる」と言ったことは、時間が掛かってもやっている感じがするので、おそらく2年くらいかけて車両を生産し、デリバリーも行うでしょう。
CyberTruckも、そのデザインの奇抜さとそれに伴う生産の困難さから、様々な専門家から「無理」を並べ立てられていました。しかし、それでもなんだかんだとローンチしてしまいました。
さて。RoboTaxiのツィートに株価が反応したか見てみます。
…反応はあった様ですが、私個人としてはまだ足りてない感じがします。
結局「いつデリバリーされるか」が大事かもしれません。
AI学習用の計算資源Dojoのパフォーマンス
昨年5月よりTesla AIというXのアカウントが公開されています。
そこでツィートされていたのが、車(自動運転車)とOptimus(AIロボット)向けの計算資源「Dojo」です。
その性能順位は、”世界で一桁に入る”(日経クロステック)と言われています。
ちなみに、この「Dojo」というネーミングは、日本語の「道場」からきています。
「Dojo」は、車両の周囲360度に設置されたカメラからの情報をAIで分析して、自動運転の学習のために使われます。
テスラの自動運転は、トヨタなどと違う
理解のために、ややベーシックなことについて触れておきます。
テスラの自動運転
テスラの自動運転の情報入力源はカメラ(映像)だけです。ここでは「カメラ方式」と呼びましょう。
説明上の仕組みはとてもシンプルで、映像から周囲の情報を得て、車を自動で走らせます。
言い換えれば、人間と同じです。眼から入った情報を使って、車を運転するというやり方ですね。
トヨタなどの自動運転
それに対して、トヨタなどの自動運転は、最初に’道路地図’が必要となります。それもとても精度の高い地図で、「HDマップ方式」と呼ばれます。(日経ビジネス)
このとても正確な地図を使って、車両が周囲を判断しながら走るのが、HDマップ方式と言われるものです。
言い換えると、’道路上の見えない線路に沿って車を走らせる’ようなやり方です。道の幅や長さや位置が正確にわかっていれば、あとはその上を車は自動的に走れば良いわけです。
ただ、いくら正確な地図と言ってもその誤差はタイヤ一本分あるため、道から逸脱しないように、様々なセンサーを使って、その誤差を補正しながら走る様になっています。
センサーには、「カメラ + LiDAR(ライダー/360度レーザー照射による距離測位)+ジャイロセンサー」が利用されてます。カメラだけしか使わないテスラとは違い、異なるセンサーがいっぱい付いて車両が高額になってしまうのが難点です。
…ここまでは昔からあるベーシックな情報です。ここから少しづつ、今のニュースに戻して説明していきましょう。
最初は、テスラの自動運転が成功すると考える研究者は多くなかった
テスラは、かつて「カメラ方式」を採用するにあたり、テスラ社内で揉めて自動運転の研究者たちが辞めてしまった経緯があります。それくらい、この方式の成功を疑う人が多かったわけです。
このカメラ方式を支持したのは、イーロン・マスク本人です。彼は自分の信念を貫き通し、現在に至ります。
とはいえ、専門家から批判があったくらいの方式ですから、技術上の困難は大変なものでした。開発途中、 このカメラ方式の開発に行き詰まり、AI学習方式を大幅に見直し、新たに優秀なAI技術者を招聘して、AI学習用の計算資源「Dojo」を構築しました。この技術上の大幅な方針転換により、現在の水準に至ります。
FSD(Full Self Driving/完全自動運転)を正式リリースすると発表してから7年経過しても今だに正式リリースされていませんが、近年になり、だいぶモノになってきたと感じます。
こちらは、最新のFSDの動画となります。
注目すべきは「パーキングロット(駐車場)の駐車スペースを探しながら走る」点です。かなり混雑した駐車場を、テスラは周囲を認識しながら走っています。
トヨタなどの自動運転方式だと、あらかじめ精度の高い地図を用意しないといけませんから、駐車場を自動運転で走ることは理屈の上で無理な話です。
つまり、イーロン・マスクの技術選択は確かだったと言えそうです。このような高度な技術判断ができる経営者なんて他に居ないのではと感じます。
…そして、冒頭の私の知人のAI研究者の発言にあるように、
「あとは法令の問題であって、もう技術の問題ではないです」
と言えるほどのレベルになってきたというわけです。
この辺りのイーロン・マスクの動きは、SpaceXで不可能と思われた再利用可能なロケットの開発を推し進め、最後には成功させたという経緯と重なります。まさにMoonshot(=斬新で困難だが大きなインパクトがもたらされる壮大な挑戦)を目指して開発したと言えます。
さらに驚く点があります。それは、現在すでに販売済みで路上を走っているテスラにこのソフトウエアをインストールすれば、今日からこの機能を使えるようになるということです。
そのため、法令実施されたその日からこの機能をインストールしたテスラが路上を走り始めることになります。
株は今が底値か?
…私の意見は正直言いにくいです。(笑)
ただ一つ言えるのは、テスラのRoboTaxiは、最近考えたアイディアではなくて、実は7年以上前からある構想だということです。テスラはただ計画に沿って愚直に研究開発を進めてきたというだけの話です。
7年前と異なるのは、現在あるモデルS,X,3,Y以外にも、どうやらRoboTaxi専用車両(兼モデル2?)を用意するようにも予想できる点です。
私は、その企業に逆風が吹く時が一番面白いと感じていますので、こういう時によくテスラという企業を研究しておこうと思っています。
事業の破壊力
テスラという企業は、もうかれこれ何年も前からAI企業になっています。コアテクノロジーは、すでに「Dojo」を使った現実世界の学習認識にシフトしています。技術コアは、とっくの昔から車両としてのEV技術などではないのです。もはや自動車会社というものではありません。
今後収益の柱は間違いなく”モビリティにまつわるサービス”になるでしょう。おそらく収益率は高くなるかもしれません。私はテスラがタクシー会社になると言っても全く驚きはしないでしょう。
さらに一つ加えれば、Optimusというロボットにもこの技術が応用されるということです。
上記は、テスラの作るロボットOptimus(オプティマス)の動画です。
この動画で見せているのは、”こんな動きをするよ”という程度です。
”これくらいだったら日本の企業でも同じことができるよね”と考える方は多いでしょう。
ところがです。もし、先ほどのテスラの自動運転機能を、このロボットが搭載したらどうなるでしょうか?
先ほどの激混みのスーパーマーケットの’屋内’までも、人を巧みに避けながら自律的に歩行して、買い物できるようになるのではないでしょうか。
このDojoの技術は、車だけではなく、ロボットへの応用が計画されています。その応用範囲と、そこから展開されるサービスの裾野は広大なのです。
以上です。
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