「勝手にスポーツ大臣」30 小林信也 「努力の強迫」をやめよう
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努力はそんなに貴いか？「努力強迫思想」からの脱却を
世界的にどうか知らないけれど、日本社会では「努力」は「素晴らしいもの」で、努力した人は結果の如何にかかわらず賞賛される傾向が強い。
「結果より過程が大事」という考えにはうなずくところ大だが、「努力」すれば「とにかく素晴らしい」とは思わない。
「穴の開いたバケツにいくら水を注いでも必ず空になる」とは武術家の宇城憲治先生の言葉だ。
明らかに身体に悪いこと、ケガの原因になるような練習を、間違ったフォームで繰り返すのは故障をするための愚行と気づくべきだろう。ところがいま日本のスポーツ界では、いやスポーツに限らず日本社会は、努力が大好きだ、努力する人には理屈抜きの敬意と賞賛を注ぐ。その愚かさに気付くべきだと「勝手にスポーツ大臣」は考える。
人間は、元気に生きていれば自然と花が咲く
「球根を適切に育てたら、花は自然と咲く」、これも宇城師の言葉だ。水と酸素と光があれば、球根はトレーニングをしなくても芽を出し、蕾をふくらませ、やがて花開く。少し肥料をくれた方がいい植物もあるが、チューリップは途中でウェイト・トレーニングをしなくてもきちんとチューリップの花を咲かせる。水仙は、ダッシュや長距離走をしなくても水仙の花を咲かせる。なぜなら、球根には初めから未来が秘められているからだ。水や酸素や光を得てから、どんな花を咲かせようかと考えるわけではない。途中で花の種類が変わるわけでもない。
人間もそれとまったく同じだという気はないが、同じようなところがある、と考えてみるのはどうだろう。人は誰しも、咲く花を持って生まれている。その花が何なのか、わからない。わからないから悩んだり焦ったりするのだが、それは早く結果を求め、そのための努力を強迫的に強いる世間の悪影響や重圧のせいではないだろうか。いずれ花は咲く、あるいは自分の役割を知る時が来るのだから、先を焦る必要はない。運命に委ね、感性を研ぎ澄ませ、与えられた運命の花を咲かせることに身をゆだねたほうがずっと幸せだ。毎日が優雅で楽しいだろう。
「努力を美化しすぎる社会」は「まだ見ぬ才能」を傷つける
人はなぜか、自分に与えられていないかもしれないモノになりたがる。世間はそれを夢といい、夢に向かって努力するのは貴いと賞賛する。
けれど、チューリップが水仙になろうとするのは素晴らしいチャレンジだろうか。
いま日本の社会は、努力を賛美しすぎだ。
だから、感覚的に「いまそれをやっても無駄だな」と直感する才人は「なまけもの」のように見なされがちだ。それこそ、わかっていない社会だと思う。そのことで才人がいかに傷つき、潰され、偏見を受けているか。
50歳くらいになってから気付かされ、衝撃を受けた話がある。
高校生の時、野球部の後援会長から訓示を受けた。長老は、エジソンの言葉を我々球児に授けてくれた。
「エジソンは言っている。閃きは１パーセントでしかない。努力（パースピレーション＝汗）が99パーセント。わかるか、エジソンほどの天才でも、99パーセントの努力がなければ、発明は完成しないんだ」
なるほど、と高校生の僕は思った。この名言を引用する教師や指導者は多いから、読者も一度は聞いた敬遠があるのではないだろうか。
衝撃と言うのは、それとまったく違う解釈に出会ったからだ。
「エジソンは、99パーセントの努力より、１パーセントのひらめきが大事だと言ったんだ。いくら努力したって、ひらめきがなければ発明にならないからね」
そのとおりだ。１対99で99の勝ちじゃない。これで「勝手にスポーツ大臣」の思考は完全に転覆した。
それぞれが持って生まれた才能を開花させる応援をしたい
「勝手にスポーツ大臣」は、才能に貴賤の上下はないと考えている。たまたまいま、すごいお金になるのが野球の才能だったり、ITビジネスの見識や技能だったり、時宜を得た才能もあるし、まったく経済的な成果に結びつかない才能もある。それでいいじゃないか、と「勝手にスポーツ大臣」は思う。ただ、開花して社会に貢献しているのに、経済社会とのギャップで冷遇されたり、対価が得られなさすぎる才人には、文化・芸術への敬意と国としての資産価値を認めて支援する仕組みを作りたいと考える。
もちろん人間のDNAは環境の要素によっても変化すると知らされている。球根のようにまったく変動しないかといえば、人は変身もできるらしいから、ゴールを決めつけることもしない。ただ、馬車馬のように走り続ける、とにかく努力しないと責められる、努力さえすれば安心する、みたいな、努力強迫思考から脱却すべきではないだろうか。
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